導入成功事例 〔トヨタ自動車〕
「モビリティカンパニー」への変革を目指して 全・事技職3万5千人が使える教育環境をつくる

〔トヨタ自動車〕<br>「モビリティカンパニー」への変革を目指して 全・事技職3万5千人が使える教育環境をつくる

自動車産業は100年に一度の大変革期を迎えていると言われています。「Connected(常時接続)」、「Autonomous/Automated(自動運転)」、「Shared(シェアリング)」、「Electric(電動化)」で表される「CASE革命」の時代、社会におけるクルマの意味も、自動車メーカーの定義も、メーカーが提供するサービスも、全てが変化の渦中にあります。

先行きの予想が立てづらく、これまでの常識が通じなくなるような状況の下、トヨタ自動車は「モビリティカンパニー」へのモデルチェンジを宣言。カンパニー制への移行(2016年)や、さまざまな制度改革、モノやサービスがつながる実証都市「Woven City」構想の発表(2020年)など、新たな価値を生み出していくための取り組みを進めてきています。

経営や組織の在り方を大きく変えようとしているトヨタ自動車における、これからの人材育成と、その仕組みとは?トヨタ自動車株式会社 人材開発部 採用・育成室[1]の本多純子様にお話を聞きました。

[1] 部署名・肩書は2020年7月取材当時のものです。

1. トヨタ自動車における人材育成体制

-トヨタ自動車は、2016年に大規模な組織改革を行い、それまでの「機能」軸の組織から「製品」軸のカンパニー制へと体制を移行しました。ヘッドオフィスにある人材開発部と、各カンパニーの教育担当とで、どのように役割分担されているのでしょうか?

本多様:私ども人材開発部では3万5千人の事技系(事務職・技術職)社員の全社教育を担当しています。全社として必要な教育を、主任職以下、基幹職といった階層別に企画・提供しています。私個人は、主に主任職以下の階層別研修の企画・実行を担当しており、新入社員からスタートして、担当事技職・指導職・主任職とステップアップし、会社を代表して仕事ができるまでに育てる、というところがミッションになっています。その他、自己研鑽教育企画、研修施設管理に加え、今回のLMS導入も担当しました。各カンパニーと本部の教育担当は、それぞれで必要となる専門知識やスキル教育を企画・運営しています。さらに各部単位になると、それぞれの部独自の教育を必要性に応じて自主的に実施しています。

 

―人材開発部と各カンパニーの分担は明確にできている、という理解で良いでしょうか?

本多様:明確かと問われると、厳密には分からない、という答えになってしまいます。もともと教育が好きな会社ではあるので、社内には教育に関わる人がたくさんいて、教育コンテンツも豊富です。カンパニーによっては独自にツールを持っていたりもするので、教育リソース自体はたくさんあります。だけれども、全社レベルで見た時に、教育リソースを集約したり一元管理できるようなシステムがなかったこともあり、全てを把握できているわけではありません。ですので、現状ではまだもしかしたら、人材開発部とカンパニー/本部とで重複や齟齬もないとは言い切れません。せっかくの豊富なリソースを有効活用できていないことについては、問題意識を持っていました。

2. 課題:会社の変化に合う人材育成環境がなかった

―今回、LMSを導入しようと思ったのも、そういった背景があってのことでしょうか?

本多様:今までの教育は、正直に申し上げると、会社から指示が来るのを口を開けて待っているような受け身的なところがあったのではと思います。これから私たちトヨタ自動車が「モビリティカンパニー」への変革を目指し、新しいことにチャレンジしていこうという流れの中で、昨年来、人事制度や人事評価基準が大幅に見直されてきています。では、人材育成はどうかというと、「自ら能動的に学ぶ方向に意識を変えていこう」という考えがあるにも関わらず、今までどおりの階層別教育を粛々とやっていて、ツールといえばeラーニングを見るくらいしかないというのが現実でした。先ほど述べたような、点在する教育リソースの問題も踏まえ、新しい会社の方向性に合った教育の環境づくりが必要だと考えたのが、LMS導入のきっかけです。

 

―「教育の環境づくり」というお話ですが、どういった環境を思い描いていましたか?

本多様:「そこに行けばさまざまな教育コンテンツがあって、みんなが自分自身にどんな専門性が必要なのかを考え、いつでもどこでも自由に学べる」環境づくりができると、ゆくゆくは「自ら学び、そして教える」ような、広がりのある教育風土を創れるのではないかと思っていました。

3. 3万5千人が使うLMS。使いやすさとベンダーの対応力がカギとなる

―LMSの選定プロセスについて教えてください。

本多様:これまではオンプレ型のeラーニングを使っていましたが、「いつでもどこからでも」を実現させるために、クラウド型のシステムを選ぼうということになりました。そこでクラウド型のLMSについて、社内でヒアリングしたり、ネットで調べたり、展示会で話を聞いたりして、情報収集をしていきました。ベンダー20社弱の資料は集めたと思います。自分たちが何をやりたいのかを整理し、条件に合うベンダーを精査して、実際にお会いしてお話を聞いたのが10社ほどでした。

 

―「CAREERSHIP®」採用の決め手になったのは、どんなことでしょうか?

本多様:機能や価格、セキュリティなどももちろん重要ですが、最終的には「使いやすいかどうか」というところが大きかったと思います。ベンダー各社からの提案を受けた後、「CAREERSHIP®」を含め3社のものをトライアルしました。実際に使ってみると、操作マニュアルも無くて使い方がよく分からず、いちいちベンダーに確認しないと最初の1歩が踏み出せないようなものもありました。3万5千人が使うことを考えると、使い方が分かりづらいシステムは致命的です。社員からの問い合わせ対応に追われていては、本来、人材開発部として注力すべきことに取り組むことができなくなります。また、誰もが教育コンテンツをLMSに掲載できるよう、教育を行う側の使いやすさも同様に重視していました。それらの点を踏まえ、「CAREERSHIP®」と、「CAREERSHIP®」の教材作成ツール(「教材コーチ君」)を高く評価しました。

 

―なるほど。確かに、3万5千人という規模で考えると、「使いやすさ」の重要性は大きいですね。

本多様:もうひとつ挙げるならば、ベンダーの対応力・サポート力も大事なポイントでした。情報収集をして初めて知ったのですが、ベンダーさんも本当にさまざまで、中には社員10名というような規模の会社もありました。もちろん人数が少ない=ダメということではありませんが、何か起きた時の対応力については不安があるというのが正直な意見としてありました。

 

-実際に、ライトワークスの対応力を感じるような場面はありましたか?

本多様:導入決定後、設計の段階で、人事データの連携をどのように実現するか、という問題が立ちはだかりました。もしもデータ連携が不可能だったら、クラウド型のLMSの導入は諦めるしかないかもしれないくらいの大きな壁でしたが、それについてもRPA[2]を活用したデータ連携という解決法をご提案いただき、無事に運用を開始することができました。

[2] 「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」とは、これまで人間が処理していた定型的なパソコン操作を、ロボットにより自動化する取り組みです。

4. 追い風を集めて、教育が「変わる」ことを示す

―LMS導入のプロジェクトを振り返って、一番大変だったことは何ですか?

本多様:LMS導入は、会社にとっては新たな投資です。なぜこのシステムが必要なのかを理解してもらい、承認してもらう必要がありました。「教育をもっと良くしたい」、「でも今のツールや環境ではそれが難しい」という思いを抱えている人は少なからずいたので、いろいろな人の意見を聞き、まとめ、タイミングよく提案し、プロジェクトとして認めてもらうという最初の過程がたいへんではありました。ただ、会社が変わろうとしている時に、教育として「変わる」ということを示したいという強い思いがあったので、苦労よりも「実現できて良かった」という思いが強いです。

 

―プロジェクトには、システム部門の方も関わっていたのでしょうか?

本多様:オンプレ型のシステム導入であればシステム部署のサポートがあるのですが、今回はクラウド型のLMSで、人材開発部独力での実施であったため、ベンダーの選定から設計の部分まで自分達で実施しました。そのことで、もちろん苦労もありました。ベンダーに質問をしても、その回答の意味が分からないというような状況もありましたので。しかしながら、自由にベンダーを選定できたことで、使う側の意向に合うLMSの導入につながったので、結果としては良かったと思っています。

 

―カンパニーや部門の皆さまを、どのように巻き込んでいったのですか?

本多様:時系列で言うと、初期の段階では、人材開発部としてやりたいことをまとめつつ、各カンパニーで今どういう教育を行っているのか、どういう機能があると良いのかといった意向のヒアリングをして回りました。最終選考段階のトライアルにも参加してもらい、それぞれのLMSの使い勝手を実感した上での評価を聞きました。「CAREERSHIP®」の採用が決定してからは、ライトワークスの担当者にも同行してもらい、各カンパニーで説明会を実施しました。意向のヒアリングや説明会はするのだけれども、「CAREERSHIP®」をカンパニーで使うことを強制的に求めず、「私たちが箱を用意するので、良ければ使ってください」という姿勢はずっと貫いています。

 

―LMS選定のプロセスに関わっていただき、一方で使用を強制しないのは、カンパニー/本部の教育担当の皆さまに、なるべく能動的に「CAREERSHIP®」を使ってもらえるように、ということでしょうか。

本多様:そうですね。私ども人材開発部が実施する全社教育を通じて「CAREERSHIP®」と接する機会はあるので、そこで価値を感じてもらえれば、強制しなくても活用は自然に広がっていくと思っています。

5. 導入の効果:本当の評価は1年後!?

―「CAREERSHIP®」を使った階層別研修がスタートしたのが今年(2020年)の1月で、各カンパニーでの使用に拡げたのが4月、全社に向けてオープンになったのが7月とのこと。まだ導入から日が浅いですが、導入の効果を何かしら感じられましたか?

本多様:旧来のオンプレ型のeラーニングでは、教育担当から通知が来た教材を期限までに終わらせるという「点」の繰り返しでした。「CAREERSHIP®」になったことで、学習者が「この教材は、一連のコースの中のこの部分について学ぶためのものなんだ」というのが分かるので、1年や1年半といった長い研修を「線」や「面」で捉えることができるようになったと思います。もちろん、運用面においても、研修の案内や管理、アンケート等がLMS上でできるので、利便性が向上しています。

 

―ちょうど新型コロナウイルス(COVID-19)の流行がはじまり、リモートワークが推奨された時期とも重なりましたね。

本多様:そうですね。今年の新入社員研修は新型コロナウイルスの影響で、急きょ研修内容や手法、実施期間等の変更が余儀なくされ、「CAREERSHIP®」も当初の想定以上に使う機会が増えました。クラウド型のLMSを導入していなかったらと思うと怖いくらいです。この時期、「CAREERSHIP®」のアクセス数やログイン率もかなり高まりました。その結果、共有サーバーの許容度合も実感として見えてきて、トヨタ自動車全体の教育環境としては、サーバー増強が必要だと感じ、シングルテナント化することを決定しました。

 

―ということは、まだ「箱作り」は完了していない、ということですね。

本多様:はい。これからも環境整備を進めていき、本当の意味で評価できるのは1年後くらいなのではないでしょうか?その時に、「CAREERSHIP®」にどれくらい教育リソースが集まっているか、またその結果、どのようなデータが蓄積しているか、それらのデータをどう活用できるか、楽しみです。その時に具体的にどう評価するのか、KPIの設定等もこれからの検討事項です。

6. 今後の展望

―今後、「CAREERSHIP®」をどのように活用していきたいとお考えですか?

本多様:まずは、いろんな人が学びを共有し、学び合い・深め合うような「学びの場」をつくることができればと思います。将来的には、得た情報を分析し、誰がどんなスキルを持っているかの能力マップを作成してリソース配置に役立てたり、学びたい人がよりよく学べるために活用したり、ということができていけば良いなあと思っています。

7. まとめ

トヨタ自動車のオウンドメディア「トヨタイムズ」には、社外の人間があまり目にする機会のない、労使交渉や社員に向けた社長年頭挨拶の模様も紹介されています。「一歩踏み出した人たちへ」、そんなサブタイトルの付けられた2020年の年頭挨拶で、豊田章男社長はこう語りかけています。「今のトヨタの中にある、学歴・職種・職位など、様々な線引きや区別をなくしてまいります。これからのトヨタに線引きがあるとすれば、それは、“成長しようと努力する人”と“努力しない人”、“仲間のために働く人”と“自分のために働く人”。(中略)これが“人間力”で評価していくということだと私は考えています」。

“成長しようと努力する人”を支援できる、そんなLMSとしてトヨタ自動車の「CAREERSHIP®」が育っていくことを、我々も見守り、サポートしていければと考えています。

各業界における人財育成の課題と解決方法をまとめた事例集

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