「全社でLMSを導入したものの、活用が一部の部門だけに留まっている…」
多くの人材育成担当者が抱えるこの課題に、株式会社神戸製鋼所も直面していました。しかし、ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」のユーザー会への参加をきっかけに一念発起。全社的な「学びのプラットフォーム」を目指し、CAREERSHIPトップページの改修に着手します。
中期経営計画と学習内容を連動させ、社員の「学びたい」意欲を刺激する具体的な仕掛けとは? 活用しきれていなかったLMSを、全社の「自律自走型学習」を推進するハブへと進化させた、熱意と工夫に満ちた挑戦の軌跡をご紹介します。
【お話を伺った方】(部署名・肩書は2025年6月取材時のもの)
株式会社神戸製鋼所 人事労政部 採用・育成グループ
担当部長 松井 千恵様
担当課長 本田 純一様
――まず、神戸製鋼所様の人事労政部のミッションと、お二人それぞれの役割について教えていただけますか?
松井様:人事労政部は、人材の採用・配置・育成、そして人事制度の設計までを全般的に担当しています。私たちは採用・育成グループに所属しており、本田は育成チームの担当課長、私は採用と育成の双方を管掌する担当部長という役割です。
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目次
「学びのプラットフォーム」を目指し、LMSを導入
――神戸製鋼所様は、2022年にライトワークスのLMS「CAREERSHIP」を導入いただきました。それまでは、LMSのようなシステムは導入されていなかったのですね。
松井様:はい、全社的なLMSはありませんでした。そのため、研修管理における事務的な負荷は決して小さくないものでした。
当社には、階層別研修をはじめ、目的別研修や各事業部門が独自に行う研修、eラーニングなど、多岐にわたる研修制度があります。これらの研修運営を担うグループ会社が、事務作業の効率化を目指してLMSを探していたことが、導入の直接的なきっかけです。
<人事労政部 採用・育成グループ 担当部長 松井 千恵様>
ただ、私たちの狙いはそれだけではありませんでした。点在する多様な研修を一元管理し、受講者が得た気づきや学びを深化させることで、「学習効果そのものを高めたい」という思いがあったのです。CAREERSHIPが、社員一人ひとりの成長実感につながる「学びのプラットフォーム」としての役割を担えるのではないかと期待し、導入を決定しました。
「本気でやりたい」他社事例が思いに火をつけた
――導入から数年を経て、今回CAREERSHIPのトップページのリニューアルのため、ライトワークスのコンサルティングサービスを活用いただきました。このプロジェクトに踏み切られたきっかけは何だったのでしょうか。
本田様:CAREERSHIP導入後、実際の活用は人事労政部が主催する階層別研修にほぼ限定されている、という状況が続いていました。当初私たちが目指していた「学びのプラットフォーム」という目標からも遠く、もどかしさを感じていたのです。
しかし、各事業部門や本社部門がCAREERSHIPを本格活用する前段階だからこそ、できることがあると考えました。今のうちに全社的な「入り口」を整備し、学習データを体系的に格納する場所を設計しておくべきだと。これが、今回のプロジェクトに取り組んだ直接的な背景です。
――弊社主催のユーザー会「CAREERSHIP User Meet Up」にご参加いただいたことも、大きな転機になったと伺いました。
本田様:まさしくその通りです。2024年5月のMeet Upに参加し、ユーザー企業各社のCAREERSHIP活用事例を拝見しました。皆さんが、社員がCAREERSHIPを活用しやすくなるよう様々な工夫を凝らしているのを目の当たりにし、率直に「すごい」と思いましたね。正直なところ、焦りすら感じました。
この刺激を受け、「学びのプラットフォーム化に本格的に着手しなければ」という思いが一気に加速しました。Meet Upの興奮冷めやらぬまま、その日の帰りの新幹線の中で、部下とライトワークスの担当者の濱田さんへ「本気でやりたい」と連絡したのを覚えています(笑)
プロジェクト推進の鍵は「丁寧な合意形成」
――その熱い思いからトップページ改修プロジェクトが始動したのですね。具体的には、まず何から着手されたのでしょうか。
<人事労政部 採用・育成グループ 担当課長 本田 純一様>
本田様:まずは部内の理解を得るため、現状の課題とトップページ改修の必要性をまとめた資料を作成することから始めました。その際も、ライトワークスのコンサルタントさんに様々な情報提供をお願いしながら進めたと記憶しています。
――プロジェクトを進める上で、特に工夫された点や難しかった点はありましたか?
本田様:工夫と言いますか、特に丁寧に進めた点として挙げられるのが、「関係部署との連携」です。
神戸製鋼所には各事業部門に人事担当者がいますし、本社各部にも教育担当者がいます。したがって、私たち人事労政部だけが先走ることのないよう、各所の担当者に声をかけ、対話を重ねながら進めることを特に重視しました。
――具体的には、どのように合意形成を図られたのですか?
本田様:まず、私たちの要望をライトワークスさんのプロジェクトチームにお伝えして、トップ画面のアルファ版(試作版)を作成していただきました。次に、そのアルファ版を使って、全事業部門の人事担当者と一部の本社部門の教育担当者へヒアリングを実施しました。そこで得られた意見や要望を集約してベータ版に反映させるという、2段階のプロセスを踏みました。
松井様:リニューアル後、実際にCAREERSHIPを使ってもらうのは各部門の担当者や社員です。だからこそ、部門側の理解を得て、当事者としてプロジェクトに関わってもらうことが不可欠でした。そのための丁寧な合意形成を行いたかったのです。
――各部門の皆様を、プロジェクトの当事者として巻き込んでいったのですね。
本田様:はい。ヒアリングの場では、「研修への入り口や、社員への誘導はどうすれば分かりやすいか」といった建設的なアドバイスを多数いただき、非常に参考になりました。
CAREERSHIPで中期経営計画と学習内容を連動
――今回のリニューアルでは、神戸製鋼所様の掲げる「自律自走型学習」の推進が大きなテーマだったと伺っています。CAREERSHIPのトップページに、どのような役割を持たせたのでしょうか?
本田様:当初の狙い通り、各事業部門、本社各部、そして私たち人事労政部が主催する「研修への入り口」を明確に分けることができました。
<必須研修・部門別研修・自律自走型学習が分かりやすく並ぶトップ画面>
それに加え、プロジェクトを進める中で「いかに社員に『学びたい』と思ってもらえるか」という視点から、新たな仕掛けを盛り込みました。
具体的には、社員の階層ごとに推奨される学習内容と、当社の中期経営計画に紐づいた学習内容をマトリクス化して、CAREERSHIPのトップページに表示させたのです。これは非常に大きな成果だったと感じています。
――中期経営計画と学習内容の連動とは、とてもユニークな取り組みですね。
本田様:はい。当社の中期経営計画には「変革(KOBELCO-X)を通じたサステナビリティ経営の強化」というテーマがあり、その中にBX(業務変革)やDX(デジタルトランスフォーメーション)といった具体的な項目が設定されています。
それを踏まえて、CAREERSHIPトップページのマトリクス上で「BX(業務変革)」の項目をクリックすると、それに関連する動画学習コンテンツや社外の公開研修の申し込みページに直接アクセスできる、という仕掛けを盛り込んだのです。
これにより、社員は「自分は今、どのスキルを学ぶべきか」という示唆を得られるだけでなく、「学びたい」と思った瞬間に具体的な学習アクションへ移ることが可能になりました。
学習の「定着・深化・発展」を目指して
――リニューアルしたCAREERSHIPトップページは2025年3月から全社公開されたとのことですが、どのような変化を感じられていますか?
本田様:まだ具体的なヒアリングは行なっていないのですが、大きな変化として、全社で実施したDX研修の受講窓口をCAREERSHIPに一本化したことがあります。これにより、IDを持つ社員の皆さんには、少なくとも一度は新しいトップページにアクセスしていただけたことになります。
これまでCAREERSHIP活用がほとんど進んでいなかった状況からすると、全社員にログインしてもらう第一歩を踏み出せたことは、間違いなく今回のプロジェクトの成果だと思っています。
――今後の活用について、どのような展望をお持ちですか。
本田様:最終的には、社員が「学びたい」という内発的な動機を抱いた瞬間に「自然とCAREERSHIPにアクセスする」という状態が理想です。そのために、動画学習や公開研修へのリンクといった仕掛けを充実させてきました。
今後は、学習のサイクルとして「定着・深化・発展」という3つのフェーズを意識して、機能を拡張していきたいと考えています。
――「定着・深化・発展」、非常に分かりやすいコンセプトですね。
本田様:「定着」は、研修内容を動画化し、いつでも繰り返し見られるようにすること。「深化」は、同じ学習動機を持つ者同士が知識を共有し合える「ラーニングコミュニティ」のような場で学びを深めること。そして「発展」は、ある研修で学んだ内容から、関連する別の学習領域へと興味を広げていくことです。このサイクルをCAREERSHIP上で実現できれば、神戸製鋼所の「自律自走型学習」の文化がさらに根付いていくと考えています。
CAREERSHIP上でラーニングコミュニティの構築を目指す
――先ほど「ラーニングコミュニティ」というキーワードが出ましたが、具体的にどのようなイメージをお持ちでしょうか。
本田様:いま企画段階ですが、同じ学習目標を持つ社員が気軽にナレッジを共有したり、資格取得を目指す仲間を募って一緒に学んだりできる、社内SNSのような場をCAREERSHIP上に作れたらと考えています。
松井様:実は、その原型のようなものが既に社内のMicrosoft Teams上に存在します。当社のDX人材育成施策であるITエバンジェリスト研修を受講した人たちが集うコミュニティがあり、そこでは質問や情報交換が非常に活発に行われているのです。この成功事例を、CAREERSHIPの中で展開できたら面白いと考えています。
――Microsoft Teamsでのコミュニティは、なぜそれほど活発になったのでしょうか。
松井様:やはり「困った時にすぐに聞ける」という安心感が大きいのだと思います。ITリテラシーの高いメンバーが集まっているので、「こんなことで困っている」と投げかけると、誰かがヒントや答えを返してくれる。教える側も教えられる側も、対等なコミュニティの一員として参加しているのが良い雰囲気につながっているようです。
本田様:当然、「すでにコミュニティがあるMicrosoft Teamsの方が便利ではないか」という議論もチーム内でありました。しかし、やはり「学習」という活動のハブはCAREERSHIPに集約したい。その思いから、まずはスモールスタートを切ってみようと、特定の動画教材の受講者限定のコミュニティを立ち上げる計画を進めています。
CAREERSHIP活用に悩む企業へのメッセージ
――今回のトップページ改修プロジェクトにおける、ライトワークスのコンサルティングサービスはいかがでしたか。率直なご感想をお聞かせください。
本田様:プロジェクト推進にあたり、非常に丁寧なコミュニケーションを取っていただきました。アイコンのデザインといった細部に至るまで、私たちの要望を的確に汲み取ってくださり、大変助かりました。また、全社公開の直前まで、動画マニュアルの細かな修正にも迅速に対応いただくなど、レスポンスの速さにも感謝しています。
松井様:CAREERSHIPは人事労政部の研修だけでなく、今後は各事業部門が事業戦略に即した研修を行う上でも活用が広がっていきます。学習プラットフォームとしての強みを生かしつつ、今後は「人事基幹システムとどう連携するべきか」といった戦略的な部分についてもご提案いただけると嬉しいですね。
――ありがとうございます。それでは最後に、CAREERSHIPを導入したものの、なかなか活用が進まずに課題を抱えている企業様に向けて、メッセージをお願いします。
松井様:私たちは、まずはトップページの改修という「できるところから」始めました。最初から完璧な形を目指す必要はないと思います。まずはスモールスタートでも、一歩を踏み出すことが大切なのではないでしょうか。
とはいえ、CAREERSHIPというツールだけで学びが急に促進されるわけではありません。当社では中期経営計画で「従業員体験の向上」を掲げていますが、そうした会社全体の大きな方針と連動させることで、CAREERSHIPの活用も進みやすくなるのではないかと感じています。
本田様:社員が毎日目にするインターフェースを整えることは、活用の第一歩になり得ます。私たちのように、まずは「形から入る」というアプローチも有効だと思います。
ただ、CAREERSHIPは非常に多機能なシステムです。だからこそ、「このシステムを使って何を成し遂げたいのか」という目的を明確にすることが、プロジェクトを成功に導く上で何よりも重要だと、今回のプロジェクトを通して改めて感じました。
――「できることから始める」スモールスタートの重要性と、「何を目指すのか」という目的の明確化が大切なのですね。非常に示唆に富むお話をお伺いできました。ありがとうございました。
【取材・文】株式会社ライトワークス