企業内大学とは?作り方と注意点、企業事例と運用のポイントを解説
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「人材育成に力を入れている会社は、企業の中に“大学”をつくっているらしい。どんなメリットがあるのだろうか?」
企業内大学は、人材育成を目的として企業内に設置された教育機関です。
働き方改革で生産性向上が求められる今、一人一人のスキルアップだけでなく、優秀な従業員やベテランの知識・技術を共有し、活用することの重要性もますます高まっています。既存の教育制度を見直し、そのための施策をプラスする必要があるでしょう。
企業内大学は、従業員が日々の仕事をより良くするため、自身の成長のために自主的に学べる教育制度です。また、従業員同士で学び合うことにより情報共有・活用も促進されます。
この記事では、企業内大学の概要と作り方、メリットや注意点、企業の事例、運用のポイントをご紹介します。
企業内大学とは
企業内大学とは、従業員が自身の目標やキャリアプランに合わせて、必要な講座を選択して受講できる、企業内の研修制度の一つです。
「コーポレートユニバーシティー(CU)」とも呼ばれるほか、企業によっては「カレッジ」「アカデミー」「経営塾」などの名称を使っているケースも見られます。
企業によって制度の詳細は異なりますが、大学の講座のように必修科目と選択科目が用意されているのが代表的な形式です。
とはいえ、「企業が従業員に学ぶ場を提供する」という点では、一般的な社内研修とさほど違いはないようにも思えます。どのような点で異なるのか整理しました。
企業内大学と一般的な社内研修との違い
企業内大学は、一般的な社内研修よりも自由度や自主性が高く、実践的な内容を多岐にわたって学べます。具体的な違いを表にまとめました。
一般的な社内研修は、従業員に業務に必要な知識やスキルを学んでもらうため、あるいは企業側が従業員に期待するキャリア形成のために行われます。
新入社員研修や階層別研修などさまざまなものがあり、その多くは人事部が企画し、学ぶテーマを決めます。講師は人事部員が主であり、知識やスキルは十分身に付けられますが、現場での応用・実践という面では手薄になってしまう場合もあります。
また、一般的な社内研修は基本的に人事部や上司の指示で受講するため、従業員が「やらされている感」を持つこともあります。
対して企業内大学は、通常業務に関する知識やスキルを必修科目として学ぶほか、自身の業務に直接は関連のない自己啓発的な学習や、希望するキャリアプランの実現のための学習も可能です。
企業内大学の多くが、人事部ではなく独立した部署、または外部の研修プロバイダーにより運営されています。社内の経営陣や、テーマに精通したベテラン従業員が講師を務める場合もあり、実践的な内容を学ぶことができます。企業によっては、代理店教育に活用している場合もあるようです。
また、企業内大学は一般的な社内研修と同様、大抵の場合が無料です。必修科目以外は基本的に自主参加のため、参加者のモチベーションが高いのが特徴です。
例えば、営業職の従業員が、技術職や事務職向けの内容を学ぶことも可能です。「将来の可能性を広げるためにさまざまな知識をつけておきたい」、「他の部署の人の話を聞いて自社のビジネス全体について理解を深め、日々の仕事をより良くしたい」と考えるビジネスパーソンには嬉しいシステムです。
企業内大学が注目される背景
企業内大学が注目される理由の一つとして、少子化やグローバル化により、人材獲得競争が激しくなっていることがあります。一昔前のように、人材を大量に採用し、その中から優秀な人材を選抜して育成するという方法は、もはや現実的と言えません。
今いる人材をいかに効果的かつ効率的に教育するかということが、組織としての成長と、次世代リーダーの育成のカギと言えるでしょう。そのためには、企業内大学をはじめとした充実した教育制度は不可欠なものとなりました。
加えて、現場での情報伝達が以前よりスムーズに行われなくなってきたことも挙げられます。テレワークやフレックスタイム制の浸透、転職者が増加し頻繁に人員が入れ替わることなどが原因で、仕事に対する想いや本音を共有する機会が少なくなりました。そのため、情報やマインドの共有という点でも、企業内大学のシステムは注目に値します。
そして、VUCAと言われる現代のビジネスでは、常にイノベーションが求められます。企業内大学で多くの従業員が自主的に学び、学んだことを教え合う空気が社内に醸成されれば、コミュニケーションが活発になり、そこから新しいアイデアや意外な課題解決策が生まれやすくなるでしょう。
企業内大学は、今後の企業の人材育成・確保のためだけでなく、VUCA時代に企業が生き残っていくために必要な仕組みとも捉えることができます。
企業内大学の作り方
実際に企業内大学を設立する際の流れを、八つのステップで確認していきましょう。
企業内大学設立の目的の明確化
最初に、企業内大学を設立する目的を明確化します。自社のビジョンや経営戦略・事業戦略を踏まえ、「どのような人材を育成したいのか」「どのような結果を得たいのか」を考えましょう。これが企業内大学のプログラムや運用の方向性など全ての土台となります。
企業内大学の目的や育成したい人材像を検討する際は、現状の経営課題、部署ごとの人材の過不足、優秀な従業員の特徴など多方面から自社の状況を分析する必要があります。
受講対象者の決定
企業内大学の受講者は、パート・アルバイト従業員を含む全従業員とするのがベストです。採用難が続く現在、内部人材のスキルアップは競争力強化に直結します。
ただし、企業内大学設立の目的において「優秀な従業員を集めて経営人材を育成したい」「若手のDX人材を増やしたい」など特定の階層を対象としている場合は、受講者を選抜・限定したり、公募制としたりするケースもあります。
教育ニーズの把握
企業内大学設立の目的を達成するにはどのような教育を行うべきか、教育ニーズを把握します。
受講者のレベルは現状どの程度で、どこまで引き上げる必要があるか、強化すべき・新たに取得すべきスキルは何かといった点を明らかにしましょう。また、企業内大学の満足度を高め、自律的な学びを促すには、受講者のニーズをくむことも重要です。
アンケートやヒアリングで学びたい分野や興味・関心、将来のビジョンなどを聞き取り、プログラム設計や運用方針を決める際の参考としましょう。
プログラムの設計
プログラムは、企業内大学設立の目的に沿った内容であることはもちろん、受講方法が受講者のニーズに合ったものであることも重要です。
例えば、外回りの多い営業部員向けのプログラムは、日時が固定される集合研修よりも、いつでも学習できるeラーニングや講義動画の配信の方が、受講者の利便性は高いでしょう。
また、接客や電話対応などの実技スキルの習得には、ロールプレイを取り入れると良いでしょう。実践的なスキルの向上のほか、成功体験を積むことで自信がつく、講師や他の受講者からその場でフィードバックをもらえるといったメリットもあります。
集合研修、eラーニング、OJTなど、さまざまな受講形式のメリット・デメリットを踏まえ、最も効果的なプログラム・コースを設計しましょう。
効果測定のためのKPI設定
企業内大学の運用開始後の効果測定をスムーズに行うため、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定します。KPIは、目標の達成度を評価する指標です。
企業内大学の場合、例えば以下のようなKPIが挙げられます。
- 受講率
- 受講者の講義参加時間・eラーニング等の学習時間
- 受講者満足度
- 特定のスキルの保有者数
- 費用対効果
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運用体制の整備
企業内大学を運用するために必要な事項を決定します。具体的には以下のような点です。
- 教材・コンテンツは内製・外部委託どちらか?管理方法は?
- 受講・学習履歴の管理方法は?
- 講師は外部・内部どちらか?
- 効果測定はどのように行うか?
企業内大学を持続的に運用していくために、事務負担やコスト面も考慮しながら最適な体制を検討しましょう。
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社内外への周知
従業員に企業内大学の魅力を広報することで、参加へのモチベーションを高めます。
さらに外部の求職者や投資家などに向けて情報発信することにより、学ぶ意欲の高い求職者に注目されたり、人材育成に熱心な企業として評価されたりするなどのメリットがあります。
運用開始・効果測定
企業内大学の運用開始後は定期的に効果測定を行い、効果的なプログラムを実施できているかをチェックします。
効果測定の方法には以下のような方法があります。
- アンケートで受講者満足度を測る
- 理解度テストや実技試験を実施してスキルの習得度を測る
- 受講者の行動の変化を上司や同僚からヒアリングする
効果測定の結果と共に、業界動向や自社の経営ビジョンも鑑みながら必要な改善やブラッシュアップを行い、実効性の高い企業内大学の運営を継続していきましょう。
企業内大学を導入するメリット
企業内大学を導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。企業側と従業員側それぞれについて見ていきましょう。
企業側:ナレッジ共有や人材育成の強化に有効
企業側のメリットには、以下のようなものがあります。
ナレッジマネジメントの促進
企業内大学には、年齢や役職、部署などを問わず、誰でも受けられる科目があります。そこは学習の場であるだけでなく、さまざまなバックグラウンドを持つ従業員同士が交流する場でもあるのです。
議論や何気ないコミュニケーションによって、同じ部署や同年代の同僚からは聞けないような情報や仕事のコツ、ノウハウなどが共有されます。あるテーマについて、専門外である従業員の俯瞰的な意見が、現場の課題解決につながる可能性もあるでしょう。
そうして共有したナレッジを、受講者それぞれが日々の業務に活用することによって業務が効率化され、生産性向上につながります。また、蓄積したナレッジをデータベースなどの形で保存しておけば、人員の入れ替わりがあっても引継ぎがスムーズです。このようなアクションの積み重ねによって、チームや部署、ひいては企業全体のビジネスの質が向上するでしょう。
現場での情報共有が難しくなりつつある中、企業内大学の活用は、ナレッジマネジメントを促進する一つの手段であると言えます。
戦略的な次世代リーダーの育成が可能
企業内大学は、自社に必要な人材を育成する枠組みであると言えます。そのため、ただ優秀なだけでなく、自社が求めるスキルやマインドを持った次世代リーダーの育成が可能です。
経営陣が講師として登壇し、自社の理念や将来のビジョンを踏まえた教育をすることで、外部講師では行き届かない部分もカバーし、より自社の方針に合った次世代リーダーを育成できます。
従業員の成長機会の拡大
企業内大学の対象者を、選抜された従業員だけでなく全従業員とすることで、企業の競争力の強化が期待できます。
優秀な人材の採用が厳しい中では、少しでも多くの従業員を一定の水準以上まで育成し、戦力となってもらうことが重要です。
エンゲージメントの向上と離職防止
企業内大学を通して、企業側は従業員一人一人のスキルアップやキャリアアップを支援し、従業員側は得た知識やスキルを企業や自身の成長のために活用します。
双方とも互いに貢献し合い、成長を助ける関係を築くことができるため、エンゲージメントが向上します。
従業員は「会社は自分の成長を支援してくれる」と感じ、企業への愛着や信頼感が高い状態になるため、離職防止にもつながります。
雇用市場での差別化が可能になる
人材獲得競争が激しくなる中、多くの企業が自社を選んでもらうためにさまざまな工夫をしています。教育制度の充実もその一つです。
既述のとおり、求職者は自身が成長できる環境を求めています。企業内大学を設置していることで、従業員の育成を重視し、キャリアアップを支援する企業であると求職者に好意的に受け止められ、他の企業と差別化を図ることができます。
従業員側:スキル向上やキャリアアップの機会に
続いて、従業員側のメリットを見ていきましょう。
平等にキャリアアップの機会を得られる
企業内大学は、基本的には全従業員が受講対象とされます。優秀な人材を選抜して行う研修などとは異なり、在職年数に関わらず誰でも手を挙げることができます。自身が望めば望むだけ、スキルアップが可能です。
自己啓発としても利用できる
企業内大学では、語学、ビジネススキル、専門知識など、多種多様な講座の中から興味のある内容を選択して受講することができます。
講座は職種や業務内容を問わず選択できるうえ、無料で受講できるケースがほとんどです。そのため、スキルアップや将来のキャリアプラン実現だけでなく、自己啓発の手段としても幅広く活用可能です。
幅広い交流がイノベーションの創出につながる
普段は顔を合わせない部署の従業員同士で議論したり教え合ったりすることで、横のつながりができ、社内のコミュニケーションが活発になります。特に縦割り型の組織では、企業内大学は硬直した組織に風穴を開ける存在になるでしょう。
それがイノベーションの創出につながり、より自社やお客様のニーズを満たすために貢献できるようになります。
講師となることでの学びがある
企業によっては、独自の基準で認定した従業員を講師として登壇させる制度があります。
一般的な理論だけに収まることなく、実際の現場のノウハウを受講者に伝えることができます。また、講義をするには念入りな準備が必要になります。その過程で自身の業務を整理したり、さらに知識を深めたり、講師となる側にもさまざまな学びがあります。
ここまで、企業内大学のメリットについて見てきました。企業側は主に人材確保やナレッジマネジメントの面で、従業員側は自身のスキルアップやキャリアアップの面で大きなメリットがあると言えます。
企業内大学を導入する際の注意点
企業や従業員に多くのメリットをもたらす企業内大学ですが、以下のような注意点もあります。
導入や運営にかかる人員やコストの検討
導入や運営にかかる人員の確保や労力、コストについてよく検討する必要があります。一時的に多くの経営資源を費やすことにはなりますが、将来のための投資と考えればその価値はあると言えるでしょう。
費用対効果の見通しを立て、よく検討することが必要です。
導入前の準備を念入りに行う必要がある
企業内大学を創設したものの、うまく機能しなかったり、形骸化してしまう可能性もあります。これを防ぐためには、事前の準備や根回しが大変重要です。
企業内大学では、一般的な研修よりも、従業員の自主性が重視されます。しかし、企業内において社員教育や人材育成のプライオリティが低い場合、従業員も学ぶことやキャリア形成への関心が低いことが想定されます。
まずは経営層に教育の有用性や必要性を説明し、トップダウンで組織に学ぶ風土を浸透させておく必要があります。
事前準備は、CHRO(最高人事責任者)やCLO(最高学習責任者)のような、経営目線での人材マネジメントや、従業員の教育プログラムの構築を担う人が、先頭に立って行うと良いでしょう。
企業内大学を導入するための土台をしっかり整えることができれば、実際に運用が始まってからのやりさすさが違ってくるはずです。
このような点に注意しながら、企業の将来を見据え、自社に合った企業内大学の体系を整えることが大切になります。
企業内大学を導入した事例
企業内大学が導入される目的や、実際の運営体制はどのようなものなのでしょうか。ここでは、企業内大学を導入した5社の事例をご紹介します。
株式会社ヤマハミュージックジャパン:ヤマハミュージックアカデミー
「ヤマハミュージックアカデミー」は、ヤマハミュージックジャパンの従業員約1,800人を対象とした企業内大学です。学部・学科体系として、4学部・18学科を設置。従業員が主体的に学習プログラムを設計でき、個々のキャリアアップを目指せる仕組みとなっています。
ヤマハミュージックジャパン・ヤマハミュージックリテイリングでは、人材開発の目標として「Π型人材を育成すること」「暗黙知を形式知に変えて守破離を実現すること」を掲げています。
企業内大学は「組織開発の一環」と位置づけられており、組織開発において目指している「学習する組織」「共感する組織」「自走する組織」を、従業員が教え合い学び合う文化の醸成を通して実現しています。
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株式会社ローソン:ローソン大学
株式会社ローソンでは、2003年に「ローソン大学」を創設。2021年4月1日現在、代表取締役の竹増貞信氏が自ら学長を務めています。
ローソン大学は、「社会環境が目まぐるしく変化していく中で、お客さまへの最高の満足を提供しつづけるには、社員一人ひとりの意識や行動の変革が欠かせない」として、企業理念の共有と高い業務推進力を備えたプロ集団づくりを目指し、社員教育体制の見直しによって創設されました。
ビジネスパーソンとしての基本スキルや、それぞれの職種・職位に応じた専門スキルの教育体系を整え、入社から幹部まで、「必要な人が」「必要な時に」「必要な内容」を学べる体制となっています。
全社員を対象に、お客さま重視の意識を醸成し自由闊達な職場環境を築く「CSセッション」を行うほか、リーダー層へは、経営的視点を持って業務遂行する能力を体系立てて身に付ける「リーダー教育」を導入。
次世代経営者の育成は重要課題と位置づけられ、経営陣も指導者として参加しています。
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兼松株式会社:兼松ユニバーシティ
兼松株式会社は、2019年7月から、新たなビジネスを創造する経営者の育成を目的として、従来の研修制度を強化・体系化した「兼松ユニバーシティ」を開講しました。
兼松およびグループ会社に所属する全従業員が受講対象となり、入社10年目以下の社員は必須受講者として、クレジット(単位)取得・認証を行います。
カリキュラムは教養、対人知識・スキル、対業務知識・スキルの3カテゴリーで構成され、内容によってeラーニングと集合研修に振り分けた豊富な講座を受講できます。ビジネスマナーや語学など基礎的なことから、事業投資や法務、アンガーマネジメントなど専門的な知識も身に付けることが可能です。全広域社員が10年後に経営者として活躍できるスキルを身に付けることが目標とされています。
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株式会社JTB:JTBユニバーシティ
JTBグループでは、新たな価値の創造のため、従業員に自分らしさを生かして活躍してもらうために「自律創造型社員」の育成に注力しています。
「自律創造型社員」とは、『高いスキルを活用して担当職務で高い成果を発揮するとともに、新しい情報やスキルの習得に努めながら、自ら課題を認識し、その解決に向けて自律的に行動する人財』と定義されます。
人事部内にある、業務課長や副支店長などを経験した26人の従業員が専任講師として所属する「JTBユニバーシティ運営事務局」が運営を担っているJTBユニバーシティでは、年間で約1,000本もの研修プログラムを実施。日々の業務に必要な基礎知識やビジネススキル、経営人財育成プログラムまで、社員の能力や階層に合わせて成長できるカリキュラムを整えています。
実地型の集合研修だけでなく、通信教育やeラーニング、外部派遣研修などさまざまな形の学びが提供されています。
▼さらに詳しい内容は、こちらからご覧いただけます。
株式会社ポーラ:POLA University
POLA Universityは、販売員の接客力の向上と平準化を目的として2019年1月に発足しました。
従来、ポーラの人材育成の仕組みは事業別で、TB(Total Beauty)事業、PS(Prestige Store)事業、海外事業それぞれに教育部門があったため、顧客層などによって接客などに若干の差が生じていました。
POLA Universityは組織横断の機関であり、それぞれの事業の教育を集約することで、商品力、接客力、エステの連動が生む同社の価値を正確にお客様に伝えられる人材の育成が可能になりました。約4万3,000人の販売員であるビューティーディレクター(以下、BD)や、百貨店の販売員、海外店舗の販売員など、ポーラの販売にかかわるスタッフ全てが受講の対象となります。
エステやメイクなどの技術による「美容力」や「接客力」、傘下のBDの「育成力」、市場動向やマーケティングに関する「思考力」の向上を図ることを通して、プロフェッショナル人材の育成や、販売員の人間力の向上を目指します。
また、POLA Universityでは、従来に比べ、トレーナーによる一方的な座学を極力減らすとしています。座学の研修では、エステやメーキャップの技術を集中的に学ぶのに加え、美容知識や顧客ニーズに関する理解を深めるためディスカッションを重ねます。そして研修後、サロンにおいて研修内容をOJTで実践する形をとっています。
▼さらに詳しい内容は、こちらからご覧いただけます。
事例から見る企業内大学の導入・運用のポイント
企業内大学を効果的に運営するにはどのような点がポイントとなるのでしょうか。前章の事例から見えてきたポイントを整理していきましょう。
明確な目的を持って導入する
前章の事例では、どの企業も明確な目的やビジョンに基づいて企業内大学をスタートさせています。
漠然と教育制度の充実を図りたい、というだけでは、いずれ運営が行き詰まってしまう可能性があります。まずは企業内大学導入の明確な目的やビジョンを定め、全従業員に周知する必要があるでしょう。
専門知識のある人物が講師を務める
企業内大学の講師には、外部の専門家のほか、そのテーマについて造詣が深かったり、経験豊富な部署や人も最適です。
社内や現場の事情を熟知しているため、クオリティが高く、実践的な講義が可能になります。
全従業員を対象とする
企業によってさまざまな規則がありますが、パートや派遣社員も含めた全従業員を対象にすることで、企業の方針が隅々まで行き届き、さらなる従業員の能力の底上げにつながります。
上司が部下の目標を把握し支援する体制づくり
上司は、部下の目標やキャリアプランを共有し、達成に向けて指導する必要があります。
従業員が受けた講座を上司も確認できるようにしておくと、目標達成への進捗がわかりやすくなったり、目指したい方向に役立つ講座の受講を勧めたりなど、より効果的な指導が可能になります。
最近は人材育成領域でもIT化・DX化が進んでいます。eラーニングはもちろん、ウェビナーや集合研修のライブ配信など主要な演習プログラムを一括管理でき、学習の履歴や成績の確認もしやすいLMS(Learning Management System:学習管理システム)を導入すると便利です。
さまざまな形態の学びを用意する
従業員それぞれのニーズに合わせられるよう、eラーニングや集合研修など、さまざまな形態の学びを用意することも効果的です。
また、POLA Universityがトレーナーによる一方的な座学を極力減らすとしていることにも注目するべきでしょう。受動的な学習よりも、ディスカッションやディベートなど、教わった知識を基に他の受講者と一緒に考え、議論し、確かめる方が、より深い理解や定着につながります。
なお、コロナ禍以降はオンライン研修のニーズが高まっていますが、実技の訓練には不向きです。そのため、eラーニングと集合研修を併用した研修スタイルである、ブレンディッド・ラーニング(Blended learning)も取り入れてみると良いでしょう。
このようなポイントを押さえることで企業内大学をスムーズに導入し、その効果を高めることができるでしょう。
まとめ
企業内大学とは、従業員が自身の目標やキャリアプランに合わせて、必要な講座を選択して受講できる、企業内の研修制度の一つです。コーポレートユニバーシティー(CU)とも呼ばれます。
今後、優秀な人材の採用は、より困難になるでしょう。社内のナレッジを効率良く共有し、次世代で活躍できる人材の層を厚くしていくことがますます重要になってきます。
企業内大学は、自社のナレッジ共有や人材育成を促進し、従業員に成長できる環境を提供するという、企業側と従業員側、双方が大きなメリットを享受できるシステムです。
この機会に、自社の教育体制づくりについて検討してみてはいかがでしょうか。
参考)
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「社員がいきいきと働くために」 ,『環境保全・社会貢献活動への取り組み報告2012』, https://www.lawson.co.jp/company/activity/library/pdf/houkoku2012_all_print.pdf(閲覧日:2021年4月6日)
「ローソン大学」 ,『アニュアルレポート2012 2012年2月期』, https://www.lawson.co.jp/company/ir/library/pdf/annual_report/ar_2012.pdf(閲覧日:2021年4月6日)
「研修制度 兼松ユニバーシティ」,『兼松株式会社』, https://www.kanematsu.co.jp/sustainability/employee/training.html(閲覧日:2021年4月6日)
「企業インタビュー 兼松株式会社」,『JobManga~マンガで企業研究~』,2019年12月18日, https://jobmanga.com/interview/kanematsu/(閲覧日:2021年4月6日)
「【企業事例】「自律創造型社員」を育成するJTBの挑戦」,『産業能率大学 総合研究所』,2019年1月25日, https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/feature/201901/25-01.html(閲覧日:2021年4月6日)
「「自律創造型社員」育成のためのキャンパス「JTBユニバーシティ」」,『JTB株式会社』, https://www.jtbcorp.jp/jp/job_offer/2022/about/human_development.asp(閲覧日:2021年4月6日)
「JTBユニバーシティ」,『JTB株式会社』, https://www.jtbcorp.jp/jp/csr/employee/(閲覧日:2021年4月6日)
「JTBが本気で挑む研修改革!「レッスンルーブリック」で行動変容を促す土台をつくる」,『HR NOTE』,2021年3月31日, https://hrnote.jp/contents/soshiki-jtbrw-210118/(閲覧日:2021年4月6日)
「ポーラ、組織改革の全貌(後編)「【図解】再構築した人材教育の仕組み」」,『国際商業ONLINE』, 2019年4月8日,https://kokusaishogyo-online.jp/2019/04/22779(閲覧日:2021年4月9日)
「〈訪販化粧品各社〉 販売員の接客力の平準化推進/研修強化やアプリ活用の事例も」,『日流ウェブ』, 2019年1月31日,https://www.bci.co.jp/nichiryu/article/4930(閲覧日:2021年4月9日)