企業内大学の成功事例一覧!13社の目的別の特徴、メリット・注意点を解説

「企業内大学の導入に向け検討材料が欲しい。他社事例は自社に応用できるだろうか?」

採用難の続く労働市場において、人材の確保は引き続き困難が予想されます。そのような状況下、従業員の育成やリスキリングエンゲージメント向上などは、多くの企業にとって課題となっているのではないでしょうか。

これらの課題に応える人材施策として、企業内大学の設立を検討する企業が増えています。しかし企業内大学と一口にいってもその実態はさまざまであり、自社の状況や解決したい課題に合っていなければ効果は期待できません。

この記事では、国内の企業内大学の事例をタイプ別に紹介し、事例からメリットや注意点を改めて整理します。企業内大学の導入に向けて検討材料を集めている方は、ぜひ参考にしてみてください。

「スキル管理、何から始めれば…?」を解決! ⇒「スキルマップの基礎ブック」を無料でダウンロード

関連記事

「従業員一人ひとりに必要な教育プログラムをこちらで用意するのには限界がある」このように感じておられる人材開発部門の担当者、教育管理者の方はいらっしゃいませんか。人事部のクライアントは従業員です。「個」が重視される時代、企業[…]

LXPとは?LMSとの違いやメリットは?人材育成の最新トレンド紹介

AIで要約

  • 企業内大学を目的別に4タイプへ分類し、自社に最適な大学の形を見つけるための検討材料を、豊富な事例と共に徹底解説します。
  • トヨタやマクドナルド等、国内大手13社の成功事例を具体的に紹介。次世代リーダー育成や理念浸透、従業員のキャリア自律など、導入効果を多角的に検討できます。
  • 導入にはコストや全社的な体制づくり等の注意点も。課題を乗り越え、強力な人材育成基盤を構築するための具体的なヒントを提示します。

目的別に見る企業内大学のタイプ

大手企業を中心に数多くの企業が企業内大学を導入しています。しかし実施形態や対象者、取り扱う内容などはさまざまであり、一律に比較することは難しいでしょう。

参考までに、コーポレートユニバーシティ研究の第一人者である大嶋淳俊教授は、「教育目的」と「実施形態」の2つの軸で企業内大学を類型化し、下のように図示しています。

「教育目的」と「実施形態」

出典:大嶋淳俊「日本型『企業内大学』の発展」,『国際情報研究』,2007年4巻1号,P1-12(閲覧日:2025年4月21日)

同氏はさらに、日本型の企業内大学について「戦略目的」を次のA~Cに整理して類型を示しました。

A)次世代リーダー育成
B)全社員の能力底上げ
C)経営理念・ビジョンの浸透

上記の考え方を参考に、この記事では国内の企業内大学の特徴を、主に目的から以下の4タイプに整理して解説します。

タイプ1:従業員のスキル底上げ

実務に必要な知識・スキルの全社的な向上を目的としたタイプです。基礎的な技能や商品知識、接客スキルなどを習得させ、従業員の知識・スキルの底上げを図るカリキュラムが設けられています。

多人数・多拠点の従業員を対象にすることも多く、体系だったカリキュラム効率的な管理体制、従業員が受講しやすい環境の整備が必要です。代表的な事例に、後述するマクドナルド(McDonald’s Corporation)のハンバーガー大学があります。

タイプ2:経営者層・リーダー育成

次世代の経営者層やリーダー人材の育成を目的としたタイプです。特定の層や選抜された人材を受講対象とし、集中的に実施するケースが多く見られます。

企業内大学の始まりとされるゼネラル・エレクトリック(General Electric Company :GE)の社内教育施設、通称「クロトンビル(Crotonville)」は、次世代リーダー育成を主な目的に設立されました。

国内事例でも、比較的早くから企業内大学を導入したトヨタ自動車株式会社や富士通株式会社などが、リーダー人材の育成を目的に掲げています。

タイプ3:組織開発

経営理念の浸透企業風土の醸成を通じ、組織の活性化を図る目的で企業内大学を設けるケースもあります。自社のビジョンやブランド価値への理解・共感を深め、内外に対するブランディングの施策としても有効です。

経営理念の浸透に向けた教育は多くの企業で重視されています。加えて従業員同士のコミュニティ構築社内講師の育成・登用など、従業員同士の学び合いに力を入れる企業も増えています。

タイプ4:総合型・人材育成プラットフォーム型

特化した目的というよりも、総合的な人材育成施策としての側面が強いタイプです。人材育成プログラムを再構築し、総称として「大学」をうたうパターンも見られます。

階層別研修の他、学び放題コンテンツや外部研修、資格取得支援といったさまざまな学習機会を提供して従業員のキャリア自律をサポートするなど、多様な形態があります。

eラーニング教材を効果的に作る方法を詳しく解説! ⇒ 「eラーニング作り方の教科書」を無料でダウンロードする

企業内大学の事例

ここからは国内の企業内大学の事例を、大まかに前章で述べたタイプ別に紹介します。もちろん、ほとんどの企業内大学は複合的な目的を掲げており厳密に分類はできませんが、ここでは該当の特徴を含むという観点で便宜的に振り分けています。

スキル底上げ型の特徴を持つ企業内大学事例

多くの従業員を対象に、広くスキルの底上げを図ることを目的に掲げる事例です。

日本マクドナルドホールディングス株式会社:ハンバーガー大学

業種:飲食サービス
大学設立年:1961年(本社)/1971年(日本)

McDonald’s Corporationはリーダーシップやチームビルディング、マネジメントを学ぶ「ハンバーガー大学」を世界9カ国で運営しています。日本のハンバーガー大学は銀座1号店オープンに先駆けて設立された、国内でも歴史の古い企業内大学の代表例です。

年間の受講者数は社員とクルー(アルバイト)合わせて年間1万人以上。以下を焦点に、新人からマネージャークラスまで、自身のレベルに合った学習ができます。

「生涯にわたって活用できるリーダーシップスキルの提供」
「ブランドミッションを実現するための一人ひとりの能力向上
Our Values(私たちの価値観)の浸透1

体験型のアクティビティやディスカッションなどを取り入れたカリキュラムで、個々の自律的なスキルアップをサポートします。クラスルームや店舗を模したコミュニケーションスペースなどを利用した施設内での学習に加え、オンラインでの受講環境も整えられています。

株式会社ポーラ:POLA University

業種:化粧品メーカー
大学設立年:2019年

POLA Universityは、販売員の接客力の向上と平準化を目的として発足した企業内大学です。従来は事業別に担当部門が担っていた教育を集約し、組織横断的な教育体制を構築しました。約1万9千人の自社販売員、百貨店の販売員、海外店舗の販売員など、同社の販売に関わる全ての人が受講対象です。

従来の教育に比べてトレーナーからの一方的な座学を極力減らしたというカリキュラムは、実践重視で構成されています。具体的には、研修で必要な技術を集中的に学び、ディスカッションを重ねた後にOJTで実践するといった流れです。

同社は教育プラットフォームとしてLMS(Learning Management System:学習管理システム)を導入し、リニューアルを重ねながら利便性や機能性を高めてきました。知識習得はオンライン、実技は対面で行うなど、複数の学習方法を組み合わせて学ぶブレンディッド・ラーニングにもLMSが活用されています。

株式会社ライトワークス | 人材開発ソリューションパートナー

「お客さま一人ひとりの美を引き出し、自分の人生を自ら演出する」ことを実現するために、ポーラ店舗やサロンでお客さ…

ソフトバンク株式会社:ソフトバンクユニバーシティ

業種:情報・通信
大学設立年:2010年

ソフトバンクユニバーシティは、経営理念の実現に貢献する人材の育成を目的として設立されました。「階層別プログラム」と手挙げ制の「ビジネスプログラム」に大きく分かれ、従業員のスキルアップとキャリア形成を支援します。

明日から「できる」「使える」レベルがゴールというアウトプット重視のプログラムで、事業の基盤となる力を養います。また、コースの約8割を社内認定講師が担い、業務での経験やノウハウをシェアする機会になっている点も特徴です。

リーダー育成型の特徴を持つ企業内大学事例

次世代の経営者・リーダー人材の育成を目的とする企業内大学の事例です。

兼松株式会社:兼松ユニバーシティ

業種:総合商社
大学設立年:2019年

兼松ユニバーシティは、新たなビジネスを創造する経営者の育成を目指して設立されました。全広域社員が10年後に経営者として活躍できるスキルを身に付けることが目標に掲げられています。

兼松ユニバーシティのカリキュラムは、入社1~10年目を対象とした「Under Graduate School」と、11~15年目の社員向けの「Graduate School」で構成されます。eラーニング、集合研修、また両者を組み合わせたブレンディッド・ラーニングで、年次に応じて必要な学びを得ることができます。

兼松ユニバーシティ設立当初に導入したシステムは「ほぼ人力」状態で、カスタマイズした単位管理機能も想定通りに動作していなかったそうです。そこからLMSのリプレイスを経てシステムを最適化、受講率の飛躍的な向上や運用の効率化を果たしています。

株式会社ライトワークス | 人材開発ソリューションパートナー

人材育成の新たな手法として、企業内大学への注目が集まっています。理由は大きく二つ。就職先に「成長できる環境」や…

コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社:コカ・コーラ ユニバーシティ ジャパン(CCUJ)

業種:飲料メーカー
大学設立年:2020年

持続的な成長に向け、変革を推進するリーダーを育成するためのプログラムです。対象者は各部門から選抜され、年間100人以上の次世代リーダーを輩出しています。

CCUJ I(部門長)・CCUJ II(所属長)・CCUJ III(一般職リーダークラス)の3つの階層別に半年間のプログラムを実施。受講者はインプットとアウトプットを繰り返し、経験学習を通じて変革リーダーに必要なスキルや経験を得ていきます。

さらに、同社はプログラム修了生のネットワークを構築し、部門横断プロジェクトやピア・コーチングを通じて、変革が推進される組織の醸成を人事として支える仕組みを設けています。

トヨタ自動車株式会社:トヨタインスティテュート

業種:自動車メーカー
大学設立年:2002年

「グローバルトヨタの人材育成の総本山」と位置付けられた人材育成機関です。国内外のグローバルリーダー候補者、ミドルマネジメント層を対象とし、「グローバルトヨタの経営人材育成」と「トヨタウェイ実践の為の実務教育」を行います。

初代学長には当時の社長が就任し、教育プログラムは国内外の一流教育研究者や教育機関の協力を得て開発、「グローバルコンテンツ」として体系化されました。暗黙のうちに伝承されてきた経営哲学や価値観を共有し、グローバル規模で企業理念と価値観の浸透を図ります。

組織開発型の特徴を持つ企業内大学事例

学び合い企業風土の醸成といった、組織開発を重視する企業内大学の事例です。

株式会社JTB:JTBユニバーシティ

業種:旅行サービス
大学設立年:2013年

JTBユニバーシティは、株式会社JTBが注力する「自律創造型人財」育成を推進するための教育プラットフォームです。

目指すものは「学び合い、学び続ける組織」。そのために、必要な学びと行動変容の機会を提供することを基本方針としています。能力や階層に合わせて成長できるカリキュラムを整備し、集合研修だけでなく、通信教育やeラーニング、外部派遣研修などさまざまな形で学習機会が提供されます。

こうした人材育成の仕組みに欠かせないシステムがLMSです。eラーニングや研修、資格取得支援、学び放題コンテンツなど、各種プログラムによる多様な学習の管理を支えるとともに、スキルやナレッジシェアの場としても機能しています。

株式会社ライトワークス | 人材開発ソリューションパートナー

人財教育部門の中には、「自律創造型人財」が育つ方法を模索している方もいるのではないでしょうか?株式会社JTBでは、人財育…

株式会社ヤマハミュージックジャパン:ヤマハミュージックアカデミー

業種:小売・教育
大学設立年:2023年

株式会社ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」を活用する企業内大学です。複数の専門性と幅広い知識を持つ人材の育成を目指し、4学部・18学科から従業員が2つ以上の専攻学科を選択します。

株式会社ヤマハミュージックジャパンは企業内大学を「組織開発の一環」と位置付け「学習する組織・共感する組織・自走する組織」を目指して運営しています。

特徴的な取り組みの1つが、学部・学科メンバーが自ら講座を制作し講師を担う内製講座です。全国の現場に散らばるナレッジを従業員が教え合い学び合う仕組みを、オンラインを通じて実現しています。

株式会社ライトワークス | 人材開発ソリューションパートナー

⼈的資本経営やキャリア⾃律、⾃律的⼈材育成が求められる近年、企業内⼤学への注⽬が集まっています。 楽器・音響機…

キリングループ:キリンアカデミア

業種:飲料・食品メーカー
大学設立年:2019年

若手社員が自ら立ち上げた、有志による非公式活動というユニークな企業内大学です。「挑戦志向の風土を醸成する」ことを活動のゴールとして定め、年次や所属を問わず、学びを共有する場を提供しています。

先輩社員に相談しやすい環境づくりや、他部署の人とつながるプラットフォーム作成から始まり、セミナーやワークショップなど、社内外を巻き込んでさまざまな取り組みを行っています。

コロナ禍を機に活動はオンラインに切り替わりましたが、かえって参加に対するハードルが下がり、より多くのイベントを実施できるようになったといいます。

総合型・人材育成プラットフォーム型の特徴を持つ企業内大学事例

総合的な人材育成施策として運営されるタイプの企業内大学の事例です。

株式会社商工組合中央金庫(商工中金):人づくりカレッジ(ヒトカレ)

業種:金融
大学設立年:2023年

社員のキャリア自律リスキリングをより一層サポートしていく体制を整えるため、従来の研修体系を再構築して開校された企業内大学です。

年齢や役職を問わず、希望する社員は100超の講座を受講可能です。「『わかった』から『できた!』へ」をコンセプトに、双方向・体験型のコンテンツやプログラムを中心として学び合いを促進します。

またオンライン配信設備を整えるとともに、研修施設にコミュニケーション・多目的スペースを設置するなど、ソフト・ハードの両面を充実させていることも特徴です。

ANAグループ:ANA人財大学

業種:航空運送業
大学設立年:2007年

ANA人財大学は、ANAグループの採用と研修に関わる人材育成機関です。「グループ全ての社員に、入社から退職まで、等しく成長の機会を提供する」という「建学の精神」の下、人材育成施策の一環として設立されました。

ANAグループはコロナ禍を機に研修の内製化とオンライン化を大きく進めました。階層別研修に加え、学び放題のeラーニングによる自己啓発、オンライン英会話スクールなど、さまざまな学びの場が用意されています。

同時に、社員間や役員との対話など、コミュニケーションの場を積極的につくり、学び合いのコミュニティとして発展させてきました。また社内部署に講師を依頼するオープンセミナーを設け、教え合う風土の醸成を後押ししています。

株式会社ファンケル:ファンケル大学

業種:化粧品メーカー
大学設立年:2013年

ファンケル大学は、職位を問わず一気通貫した人材育成を行うため、社内の教育を集約した第三者的な教育機関として設立されました。人事部と連携して、従業員の育成・キャリア構築のサポートを行っています。

理念の理解・浸透、次世代の経営者候補の育成、専門性の向上を重点テーマとし、理念浸透や美容と健康に関する専門知識、接客応対、コミュニケーション力、マネジメント力など、階層や分野ごとに多岐にわたる研修が設けられています。

その他タイプの企業内大学事例

先述の4タイプの他に、以下のような技術伝承を目的とした企業内大学もあります。

森永乳業株式会社:森永ミルク大学

業種:食品メーカー
大学設立年:2002年

森永乳業株式会社は複数の企業内大学を設けています。その代表格であるミルク大学は元々ベテラン従業員の定年に備え技術伝承のために設立、乳業の技術・技能、品質技術の維持向上を目的とした生産部門の社内教育機関です。

階層別の基礎技術研修に加え、各製品や設備機器の専門知識、マネジメントなどを学ぶ選抜型研修が行われます。

事例から見る企業内大学のメリットと注意点

事例で見てきたように、社内研修が業務に必要なスキルの習得を主な目的とする点に比べ、企業内大学はより広い視野で多様な取り組みを展開することができます。企業内大学のメリットや注意点を整理しました。

企業内大学の5つのメリット

企業内大学の主なメリットは5つに分類できます。詳しく見ていきましょう。

メリット1:長期的・戦略的な人材育成

企業内大学は目先の業務に必要な技能だけにとどまらず、より深く専門的な学びの場となります。経営視点を持つ次世代リーダー候補の育成や、ベテラン従業員の定年に備えた技術承継など、長期的・戦略的な人材育成の仕組みとして活用できます。

メリット2:従業員のキャリア自律支援

企業内大学は多くの場合手挙げ制による受講のため、従業員は年次や職位にかかわらず自発的にキャリアアップに挑戦できます。また一人一人に幅広い学びの機会を提供することで、自己啓発にも大いに活用が可能です。

このように企業大学は、従業員の自律的なキャリア形成を支える仕組みとして有用です。

メリット3:ナレッジマネジメント促進

企業内大学ではグループワークやディスカッション、社内講師制度など、能動的な学び合いを重視したプログラムを設けている例も多く見られます。コミュニティラーニングによる学習促進が図れるでしょう。

また、企業内大学が普段の業務にとらわれず部門や年次をまたがった幅広い交流の場となることでナレッジの共有が進み、イノベーションの創出も期待できます。

メリット4: 企業理念やミッションの浸透

事例からは、企業内大学を企業理念への理解を深める重要な場として位置付けている例も多く見られました。教育内容に自社の理念やミッションに沿った内容を組み込んで、職位や正規/非正規にかかわらず全従業員に学びの機会を提供することで浸透を促します。

また、従業員が自社のビジョンやブランド価値への理解・共感を深めることは、顧客に対する一貫したブランドイメージの提示にもつながります。

メリット5:エンゲージメント向上

企業内大学を通じて、企業は従業員一人一人に成長の機会を提供し、キャリアアップを支援できます。また前項で挙げたように、自社の理念に対する従業員の共感を深めることもできます。

企業とのこうした関係は従業員のエンゲージメントを高め、離職防止につながるでしょう。

さらに、企業内大学の設置によって「人材育成やキャリア形成支援の充実に注力する企業」と対外的に示すことができ、求職者に対するアピールポイントにもなります。

企業内大学の3つの注意点

ここまで挙げたように複数のメリットがある反面、企業内大学には相応のコストがかかり、体制づくりにも工夫が必要です。押さえておきたい注意点を整理しました。

注意点1:導入・運営のコスト

企業内大学の導入や運営には、人員や時間、設備や教材の費用といった多くのコストを要します。この後述べるように、設立時には運用設計や体制づくりに考慮すべき点が多く、負担も大きくなりやすいでしょう。将来への投資として綿密な計画を立て実行することが欠かせません。

注意点2:全社を巻き込んだ体制づくりが必要

企業内大学は従業員の自発的な参加によって成り立ちます。受講する従業員のモチベーションの維持・向上はもちろん、周囲の理解と協力を得られる組織体制づくりが求められます。

特に経営層が企業内大学の必要性を理解し、トップダウンで学びに対して前向きな風土の醸成を促すことが重要になるでしょう。

注意点3:講師の選定が難しい

経験に基づく専門知識やノウハウの伝承に、先輩従業員による社内講師制度は有用です。一方で講師役を務める人材の確保は容易ではありません。

適切なスキル・経験を持つ人材を選定し、場合によっては講師としてのスキル習得の機会を設ける必要があります。また通常業務との両立など、負担を考慮してスケジュールや周囲のサポート体制の調整もしなくてはいけません。

そこで、運営の工夫によって社内講師制度を成功させた事例を紹介しましょう。

先述した株式会社ヤマハミュージックジャパンでは、内製教材を作りやすくするためにアバターを使ったAI読み上げツールを導入しました。ボトルネックになっていた講師の顔出しや音声収録をなくすことができ、講座公開数の飛躍的な増加に成功しています。

LEARNING SHIP

ヤマハミュージックジャパンの「ヤマハミュージックアカデミー」は、組織開発の取り組みの一環として、社員の主体的な学びを促進…

企業内大学の効果的な運営にはプラットフォームが重要

教育のオンライン化によって、学びの機会拡大や管理業務の効率化といった効果を感じている企業は多いのではないでしょうか。

企業内大学は、多人数を対象に幅広いプログラムを設け、それらを体系的に管理する必要があります。運営基盤として、LMSなどのデジタルプラットフォームは必須といえるでしょう。

LMSを選定する際は、教材配信や受講管理だけではなく、目的に応じて必要な機能が備わっているか確認することをおすすめします。

例えばスキルマップやキャリアマップといった機能は、キャリアの目標と現在地、そして必要な学びを可視化し、従業員のキャリア自律を支えます。他に、組織内の学習を促進するコミュニティ機能や、内製化を支える教材作成ツールが充実した製品もあります。

さらに、企業内大学の構想や研修体系の整備について専門家の支援を得たい場合は、導入コンサルティングや運用サポートが充実したベンダーを選ぶとよいでしょう。

人材育成の課題・解決方法を一冊にまとめました ⇒ LMS導入成功事例集を無料で読んでみる

まとめ

大手企業を中心に数多くの企業内大学が見られるようになりましたが、その実態はさまざまです。この記事では国内の企業内大学の特徴を、主に目的から以下の4タイプに整理し、タイプごとに企業事例を紹介しました。

  • 従業員のスキル底上げ
  • 経営者・リーダー育成
  • 組織開発
  • 総合型・人材育成プラットフォーム型

1)スキル底上げ型の特徴を持つ企業内大学事例

  • 日本マクドナルドホールディングス株式会社
  • 株式会社ポーラ
  • ソフトバンク株式会社

2)リーダー育成型の特徴を持つ企業内大学事例

  • 兼松株式会社
  • コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社
  • トヨタ自動車株式会社

3)組織開発型の特徴を持つ企業内大学事例

  • 株式会社JTB
  • 株式会社ヤマハミュージックジャパン
  • キリングループ

4)総合型・人材育成プラットフォーム型の特徴を持つ企業内大学事例

  • 株式会社商工組合中央金庫(商工中金)
  • ANAグループ
  • 株式会社ファンケル

これらに加え、技術伝承を目的に企業内大学を設立した森永乳業株式会社の事例を紹介しています。

事例からうかがえるように、企業内大学は長期的・戦略的な人材育成従業員のキャリア自律を後押しします。ナレッジマネジメントの促進企業理念・ミッションの浸透、従業員のエンゲージメント向上といったメリットも期待できるでしょう。

一方で、企業内大学の導入・運営には多くのコストを要し、社内講師制度を取る場合は講師役の選定が課題になりがちです。経営層を含め全社を巻き込んだ体制づくりや、負担を抑えて効率的に運用する仕組みが求められます。

企業内大学の実施基盤として、LMSなどのデジタルプラットフォームは必須といえるでしょう。キャリア自律を支えるスキルマップ・キャリアマップなどの機能、学び合いを促進するコミュニティ機能など、自社の要件を整理した上で選定することをおすすめします。

企業内大学の設立は容易なことではありませんが、自社の課題や目的を明確にして適切なシステムを構築することで、人材育成などの課題に応える強力な基盤になり得ます。検討材料として、この記事をお役立ていただけると幸いです。

  1. 日本マクドナルドホールディングス株式会社「⼈材育成(ハンバーガー⼤学)」,『McDonald’s Recruiting Site』,(閲覧日
    :2025年4月17日) ↩︎

参考)
大嶋淳俊「日本型『企業内大学』の発展」,『国際情報研究』,2007年4巻1号,https://www.jstage.jst.go.jp/article/gscs/4/1/4_1/_pdf(閲覧日:2025年4月21日)
大嶋淳俊「『コーポレートユニバーシティ論』序説」,『季刊政策・経営研究』,2009年Vol.2,https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2022/10/1491.pdf(閲覧日:2025年4月21日)
日本マクドナルドホールディングス株式会社「ハンバーガー大学」,https://www.mcdonalds.co.jp/sustainability/people/hamburger_university/(閲覧日:2025年4月21日)
ソフトバンク株式会社「ソフトバンクユニバーシティ」,『SoftBank』,https://www.softbank.jp/corp/philosophy/human-resource/special/sbu/(閲覧日:2025年4月21日)
コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社「キャリア開発・研修」,『COCA-COLA BOTTLERS JAPAN INC. RECRUITING SITE』,https://www.ccbji.co.jp/recruit/newgraduates/workstyle/04/(閲覧日:2025年4月21日)
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社「日本の人事部『HRアワード2021』の企業人事部門で入賞」,https://www.ccbji.co.jp/news/detail.php?id=1157(閲覧日:2025年4月21日)
トヨタ自動車株式会社「トヨタ、グローバル人材育成機関『トヨタインスティテュート』を設立」,『TOYOTA』,https://global.toyota/jp/detail/1707924(閲覧日:2025年4月21日)
トヨタ自動車株式会社「人事の変遷 詳細解説(トヨタの人材育成)」,『トヨタ自動車75年史』,https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/company_information/personnel/personnel-related_development/explanation04.html(閲覧日:2025年4月21日)
KIRIN「キリンに挑戦志向の風土を醸成する。企業内大学『キリンアカデミア』に込められた想い」,https://note-kirinbrewery.kirin.co.jp/n/n8e20fb7130b2(閲覧日:2025年4月21日)
株式会社商工組合中央金庫「職員のキャリア自律、リスキリングをサポートする企業内大学『人づくりカレッジ(ヒトカレ)』の開校について」,https://www.shokochukin.co.jp/assets/pdf/nr_230405_03.pdf(閲覧日:2025年4月21日)
全日本空輸株式会社「価値創造の源泉は人」,https://www.ana.co.jp/recruit/personnel.html(閲覧日:2025年4月21日)
石山 由美香「『ANA人財大学』がコロナ禍を経て見いだした『学び』と『共感』の重要さ」,『Japan Innovation Review powered by JBpress』,https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/77335(閲覧日:2025年4月21日)
株式会社ファンケル「FANCL College スキルアップセミナー」,『FANCL』,https://www.fancl.jp/college/index.html(閲覧日:2025年4月21日)
山口剛「自分自身の無意識の偏見とどう向き合うか。ファンケル大学『アンコンシャスバイアス研修』の革新性」,『MASHING UP』,https://www.businessinsider.jp/article/281065-fancl/(閲覧日:2025年4月21日)
森永乳業株式会社「育成制度」,『森永乳業 RECRUITING SITE』,https://saiyo.morinagamilk.co.jp/company/training_system.html(閲覧日:2025年4月21日)
上木貴博「企業内大学で工場立ち上げ要員を育成」,『日経クロステック(xTECH)』,https://xtech.nikkei.com/it/article/JIREI/20070402/267098/(閲覧日:2025年4月21日)

企業向けLMS徹底比較

>会社案内パンフレット、各種事例、eラーニング教材サンプル、調査資料をダウンロードいただけます。

会社案内パンフレット、各種事例、eラーニング教材サンプル、調査資料をダウンロードいただけます。

会社案内パンフレット、各種事例、eラーニング教材サンプル、調査資料をダウンロードいただけます。

CTR IMG