キャリア自律とは?強い組織作りのために企業がすべき支援、成功事例を紹介
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「キャリア自律が実現した状態というのは、どんなイメージだろう?」
急速な社会変化の中で、従業員のキャリア自律の必要性が増しています。しかし、キャリア自律を実現した先にどのような未来があるのか、思い描けない方もいらっしゃるのではないでしょうか。中には、個々人が自律的にキャリア形成をできるようになった結果、「自社離れが起こるかもしれない」と危惧している方もいらっしゃるかもしれません。
従業員のキャリア自律の先にあるのは、企業の一層の成長です。従業員側が積極的に学び、成長することで、企業へのさらなる貢献が期待できます。
しかし、キャリア自律は「従業員任せ」で進むものではありません。いくつかのポイントを押さえて、キャリア自律を上手に支援していくことが大切です。
本稿では、キャリア自律の定義や、キャリア自律を進めるメリットや課題を説明します。また、企業が実践できる具体的な支援方法や、参考となる他社事例をご紹介します。
ぜひ、本稿を参考に、自社の従業員のキャリア自律を支援してください。
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目次
1. キャリア自律の定義
キャリア自律とは、会社や他人に依存せず、自分のキャリアを主体的に形成することです。
キャリア自律(Career Self-reliance)は1990年代にアメリカで提唱された働き方のモデルで、労働者のキャリア開発を促進・支援する概念として使われるようになりました。米国カリフォルニア州のNPOキャリア・アクション・センターは、キャリア自律を以下のように定義しています。
めまぐるしく変化する環境の中で、自らのキャリア構築と継続的学習に積極的に取り組む、生涯にわたるコミットメント
引用元:堀内泰利,岡田昌毅「キャリア自律が組織コミットメントに与える影響」,『産業・組織心理学研究』,第23巻,第1号,2009,p16.
「キャリア自律」という言葉には、使う側の意図や文脈によってさまざまな意味が込められますが、共通する概念として「自身のキャリアに関心を持ち、キャリア開発を行うために主体的・自律的に考え学び続ける」といった特徴があります。
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2. キャリア自律が企業で注目される3つの背景
キャリア自律が企業で注目されている背景として、下記の3つが挙げられます。それぞれについて詳しく解説します。
- 終身雇用制度の崩壊
- 労働力人口の減少
- 働き方の多様化
2-1. 終身雇用制度の崩壊
従来、日本企業の従業員にとっての「キャリア」は企業側が用意していくものであり、従業員はキャリアを企業側に依存する傾向にありました。しかし、ジョブ型雇用が推進され終身雇用制度が崩壊しつつある今、企業側が長きにわたり、個人のキャリア形成を支えていくことは現実的ではなくなってきています。
今や、従業員が企業にキャリアを「おまかせ」する時代は終わりました。従業員のキャリアの主導権は自分自身であり、企業を選び働く中で「どのようなキャリアが築けるか」という視点を持つようになったのです。
こうした時代の流れに伴い、現代のキャリア形成における企業の役割は「自社で雇用し続けて従業員を守る」ことではなく、「従業員の自律的なキャリア形成を支援し、社会で活躍できるようにする」形に変化したといえます。
2-2. 労働力人口の減少
日本は労働力人口の減少が続いており、帝国データバンクが実施した「人手不足に対する企業の動向調査(2024年度4月)」によると、正社員が不足している企業の割合は51.0%と 高止まり傾向が続いていることがわかっています。[1]
このような状況で企業が生産性を維持・向上していくためには、優秀な人材の確保・育成が欠かせません。しかし、現在の日本企業は世界的に見て生産性が高いとはいえない状況です。日本生産性本部による「労働生産性の国際比較 2023」によると、 2022 年の日本の時間当たり労働生産性(就業 1 時間当たり付加価値)は52.3 ドル(5,099 円)で、OECD 加盟 38 カ国中 30 位となっています。[2]
キャリア自律は従業員のエンゲージメントや生産性を高めると言われています。そのため、企業は人手が足りない中で生産性を維持し、成長し続けるための施策としてキャリア自律支援に注目するようになったと考えられます。
2-3. 働き方の多様化
ビジネス環境の変化とともに、パートや時短勤務、フリーランス、副業の解禁など、人々の働き方も多様化が進んでいます。子育てや介護といったライフイベント、 地方移住などの生活環境の希望から、 転職やリモートワークに踏み切るケースも珍しくありません。
従来のような画一的なキャリア形成では、 こうした多様な個人のキャリアに対応するのは困難です。また従業員も、望むキャリアや働き方を叶えるために、自身の市場価値を高める=キャリア自律に取り組む必要があります。
ライフスタイルや環境の変化に合わせて働き方を選択していく時代に、キャリア自律は必要不可欠となっています。キャリア自律の必要性が高まると同時に、企業にも従業員のキャリア自律に対する積極的な支援が求められ、教育体制や支援方法に注目が集まっているのです。
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3. 企業がキャリア自律を支援するメリット
キャリア自律を支援するにあたって、企業側には以下のようなメリットがあります。
- ビジネスの可能性が広がる
- 優秀な人材確保につながる
- 管理職の負担が減る
- 離職率を下げられる
- 従業員の働き方やキャリアに対するニーズを実現しやすくなる
3-1.ビジネスの可能性が広がる
仕事に対して主体的に考えて動く従業員が増えることは、企業が設定する課題を実施するだけでなく、新たな課題の発見や未知の分野の開拓につながります。キャリア自律を促すことで、組織として新規事業やビジネスの可能性が広がることになります。
3-2. 優秀な人材確保につながる
キャリア自律に取り組む人材は、仕事に対しても高いパフォーマンスを発揮する人材であることがデータで分かっています 。従業員のキャリア開発に向けて積極的に支援し、取り組んでいる企業であることが分かれば、外部のキャリア自律に関心のある優秀な人材の確保にもつながります。
3-3. 管理職の負担が減る
キャリア自律ができている従業員が部下であれば、管理職が逐一指示を出す機会が減ります。従業員が自ら考え、能動的に働いてくれるためです。このことから管理職の負担は減少し、他の業務に時間を割くことができるでしょう。
3-4. 離職率を下げられる
従業員のキャリア自律を促進することで、「離職を招きかねないのではないか」という心配があるかもしれません。しかし、キャリア自律を行うことで、従業員の仕事に対するモチベーションや満足度が高まります。
従業員が自身のキャリアを環境の変化に合わせて適応していく能力のことをキャリア・アダプタビリティと言います。キャリア・アダプタビリティは、キャリアへの満足度や、「自分が組織から支援されている」と感じることで高まります。
実際、キャリア・アダプタビリティが高まることにより、離職する気持ちを抑制するという検証結果 があります。意外かもしれませんが、キャリア自律の促進は離職率低下につながるのです。
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3-5. 従業員の働き方やキャリアに対するニーズを実現しやすくなる
2. キャリア自律が企業で注目される3つの背景でも挙げた通り、人々の働き方は多様化しています。また、ジョブ型雇用のように従業員の専門性を重視した雇用形態も浸透しつつあります。
従業員はそれぞれ異なる働き方やキャリアを望むようになっているため、企業側が自律的なキャリア形成を推進することで、従業員が望む働き方やキャリアの実現につながります。
このようにキャリア自律のメリットは多岐にわたります。
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4. キャリア自律の現状と課題
実際のところ、従業員の自律的なキャリア形成はどれくらい実践されており、どのような課題があるのでしょうか。現状と課題について見てみましょう。
4-1. キャリア自律の現状
2023年にHR総研が実施したアンケート[3]によると、従業員数1,001名以上の大企業では、キャリア自立の推進に前向きに対応している企業が9割近くにのぼりました。301~1,000名の中堅企業、300名以下の中小企業でも、キャリア自律推進に前向きに対応している企業が6~7割と多数派を占めています。
一方、社内でのキャリア自律に前向きな社員の割合は、3割未満という回答が大企業で63%、中堅企業で82%、中小企業で74%となっています。いずれの企業規模においても、キャリア自律に前向きな社員は少数派であることが伺えます。
この結果からは、従業員の自律的なキャリア形成は、主に企業側が主導となり進んでいることが分かります。
ここまで見てきたように、企業の成長のために従業員のキャリア自律は欠かせません。しかし、その推進のためには企業側のフォローが必要なのが現状です。
4-2. キャリア自律の課題
それでは、キャリア自律が進まない企業では何が足かせとなっているのでしょうか。主な課題は以下の2つです。
- 就労意識の多様化への理解不足
- キャリア自律を「従業員任せ」にしている
就労意識の多様化への理解不足
キャリア自律の促進には上司を含む企業の理解や支援が必要不可欠ですが、終身雇用制度を前提に入社した上司の価値観と、若い世代の部下の労働環境に期待する視点は異なっている可能性があります。
キャリア自律は、もともとアメリカで提唱された概念です。従来の日本特有の働き方の価値観や組織構造が定着している企業ほど、社内でのキャリア自律は浸透しづらい可能性があります。
企業全体としてキャリア自律を推進する雰囲気を醸成していくことが肝要と言えそうです。
キャリア自律を「従業員任せ」にしている
キャリア自律を推進しようとしても、企業側が放任であったり、従業員任せにしたりするとキャリア自律は進みません。
従業員がどのようなキャリアを描いているのか上司や人事部などと共有し、適切なスキルアップや学習機会の場を提供することが大切です。
キャリア自律を企業で推進することによるメリットはたくさんあります。一方で、キャリア自律に対する職場の理解不足や支援不足が課題と言えます。
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5. 企業ができるキャリア自律のための支援方法
それでは、キャリア自律のために企業ができる具体的な支援方法を6つ紹介します。
- キャリア自律に関する研修・セミナー
- キャリア相談
- 学習支援
- システムを活用した従業員のタレントマネジメント
- 適切な社内での配置や異動
- 社外で仕事をする体験
5-1. キャリア自律に関する研修・セミナー
まずキャリア自律の概念について従業員に正しく認知してもらい、今後の自分のキャリアについて考える機会を提供することが大切です。
その際、階層別、年齢別など、従業員ごとに適切な研修・セミナーを開催するようにしましょう。従業員の立場や年齢によってキャリアの展望は異なるためです。
具体的なキャリアイメージができると、従業員の学ぶ意欲が高まり、キャリア自律の促進が期待できます。
5-2. キャリア相談
キャリア相談窓口を設置することもお勧めです。従業員が気軽にキャリア相談できる場を設けることはキャリア自律を促します。また、企業がキャリア開発に注力していることを従業員に示す意味でも有効と言えます。
5-3. 学習支援
従業員がキャリア開発やスキル獲得をするために、適切な学びの場やコンテンツを提供することは非常に重要です。ここでは、2つの学習支援について紹介します。
- eラーニング(マイクロラーニング) とLXP
- 勉強会
eラーニング(マイクロラーニング)とLXP
学習機会の提供として、eラーニングはとても有効な方法です。通常の業務と並行してキャリア開発に励む人も多いため、自分の都合の良い時間に場所を選ばず学べるeラーニングは無理なく続けられ、習慣化しやすいと言えます。
また、LMS(Learning Management System:学習管理システム)を発展させたものにLXP(Learning Experience Platform: 学習体験プラットフォーム)があります。
LXPは、より新しい技術を用いて、一層学習者の個別化した最適な教育を提供するためのプラットフォームです。学習コンテンツを受講者の特性や趣向に合わせてカスタマイズでき、学習への主体性や継続性を引き出すことができます。
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勉強会
従業員同士で学びを共にする勉強会を開くことも一つの方法です。開催にあたって、教材費の補助や場所の提供などを企業が支援します。
勉強会は異なる部署の人との交流も生まれ刺激になるほか、一緒に学ぶことで学習が継続しやすくなります。
学習機会の提供は、対面でもオンライン上でも可能です。従業員にとって日常の業務と並行しながら、継続しやすい方法を選択できるように進めるようにしましょう。
5-4. システムを活用した従業員のタレントマネジメント
従業員のキャリア自律を支援するにあたって、企業が従業員一人一人のスキルを把握することは非常に重要です。そこで活用したいのが、LMS(学習管理システム)を使ったタレントマネジメントです。
ライトワークスが提供する統合型LMS「CAREERSHIP」は、学習教材の配信だけでなく、受講状況や成績などを管理することができます。スキル管理機能の「スキルマップ」では、職種やポジションごとに必要とされるスキルをマトリクス表示できるので、従業員は目標と自身の現在地を確認できます。また、必要なスキルに合った学習教材や資料、リンクなどと紐づけができます。
従業員はどのようなスキルが求められ、何を利用して学習すれば良いかが分かるので、自律的な学習に取り組みやすくなります。
また、自己評価と上長評価を入力できるため、従業員と管理職の両者間でギャップのあるスキルを認識して、キャリアアップのための相談に役立てることができます。
LMSは従業員だけでなく、管理職にもメリットがあります。従業員に求めるスキルを可視化して、評価基準を明確にできる他、評価制度の透明性を担保できるようになります。
従業員のスキルを可視化し、タレントマネジメントを実現! ⇒ CAREERSHIP「スキル管理機能」について詳しく見る
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5-5. 適切な社内での配置や異動
キャリア開発のプランに基づく適切な配置転換や異動を行うことで、従業員は社内でさまざまな業務の知識を身に付け、経験を積むことができます。一方で、計画性のない頻繁な配置転換は専門性を身に付けづらくなってしまうので注意しましょう。
5-6. 社外で仕事をする体験
企業の規模や仕事内容も異なる社外での体験により、社内では得られなかった経験や視点、スキルを身に付けることができます。副業や兼業、出向など、ときには社外で仕事をすることで新しいキャリアの可能性が広がります。
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キャリア自律を促進するための方法には、たくさんのアプローチがあります。自社に合った方法で、従業員が主体的に継続できるキャリア自律支援策を選択し、導入できると良いでしょう。
6. キャリア自律に取り組む企業例
実際に、企業はどのようにキャリア自律の支援に取り組んでいるのでしょうか。従業員の自律的なキャリア形成を支援する企業を表彰する、厚生労働省主催の「グッドキャリア企業アワード 」などを基に、先進的な事例を紹介します。
6-1. 株式会社JTB
株式会社JTBでは、「自律創造型社員」の育成を推進しています。社内の人材育成プラットフォーム「JTBユニバーシティ」では、集合研修やウェビナー、eラーニングなど年に800本以上の教育プログラムを用意し、従業員に学習機会を提供しています。また、海外への派遣研修への参加支援や、資格取得の費用補助なども行っています。
2019年には一人一人に合った学習教材を提供するライトワークスのLMS「CAREERSHIP」を導入し、2021年からは全社で従業員のキャリアプランに合った教育の機会を提供するようになりました。
他にも、キャリア研修や面談の場を設けて対話の機会を作ることで、自分自身のキャリアプランを考える機会や情報の提供を行っています。
これらの取り組みによって、学びの風土が醸成され、従業員のキャリアに対する意識が向上しました。
6-2. TIS株式会社
TIS株式会社では、従業員に中長期的なキャリア形成を考える機会を提供しています。年間540回の研修に加えて、節目の年齢ごとの研修も設けています。
人事とのキャリア面談や、年に1回従業員が自分のスキルと将来への展望を振り返る「キャリアプランシート」を作成し、上司が希望に添ったキャリアの育成方法を考え、最終的に仕事の割り振りに生かします。
また、提携しているベンチャー企業への「武者修行」の機会を提供しています。
これらの取り組みによって、1年間でキャリア研修に参加する従業員は2割増加しました。また、従業員がキャリアを築いていく意識が芽生え、上司と部下でキャリアプランの共有ができるようになり、業務での適材適所の配置を心掛けることができるようになりました。
6-3. 株式会社ニトリホールディングス
株式会社ニトリホールディングスは、半年に一度キャリアプランを作成して、キャリアのゴールから逆算して今の自分を振り返る機会を設けています。
また、5000人ほどの全従業員を対象に、2、3年に1度の頻度で37部署100職種以上ある部署間で配置転換を行っています。
若手とベテラン関係のない頻繁な職種の配置転換を行うことによって、さまざまな職種を経験してキャリアの視野を広げることができます。どんな職種でも、上司が変わり指示がなくても自分で考え、対応していける自律性のある従業員の育成を促進しています。
この他にも、社内外での研修やeラーニングを用いて、従業員がどのくらい学んでいるかをデータベースで集計しています。これにより、新しい業務に対して適切な人材配置ができるようになっています。
ニトリホールディングスでは、自律した従業員を育てるための人事施策を取っています。従業員個人の成長や自律など付加価値を高めることで、企業全体の生産性を上げる取り組みを行っています。
従業員は自分の希望がキャリアに反映されるため、業務へのやる気につながっています。また、このような取り組みによって、将来の展望を持つ社員は8割を超えるということです。
6-4. 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社では「キャリア形成支援制度」があり、年に1度、上司に自分の目指すキャリアの展望を相談する機会を設けています。
また「ダイバーシティ・キャリア課」を設けて、従業員からの相談に乗れる体制を作ったり、キャリアデザイン研修を行ったりしています。
さらに、朝型勤務制度や在宅勤務制度の利用による勤務時間の調整によって、従業員は自己啓発のための学習の時間を確保することができます。これらのきめ細かな学びの機会の提供で、資格保有者が増えました。
また、面談でのキャリア形成の希望を人事制度に反映させています。企業がキャリア自律を推進し柔軟な働き方を支援していることで、従業員の職場環境への満足度が高く、定着化やモチベーション維持につながっています。
6-5. 株式会社サザビーリーグ
株式会社サザビーリーグでは、「自分を知る」「会社・環境を知る」「情報を統合する」「実行する」というプロセスでのキャリア開発を支援しています。
具体的には、店舗スタッフ向けに教育研修プログラムを実施する際、一人一人の強みや成長課題をカルテとして残し、育成担当者と共有することで、店舗スタッフに自律的な成長を促す方法を皆で探る取り組みを行っています。
また、キャリア自律を主体的に進めている店舗スタッフを社内報で紹介するなど、社内向けにプロモーション活動を行っています。
さらに、自己実現や個々の能力を高めて自身の資産にできるように、「資格取得支援・教育制度」を設けており、業務に直結しない資格であっても企業が支援する体制を整えています。
特筆すべきは、体制を整えるだけにとどまらず、共通のキャリアマップを作り、階層別にお勧めの学習内容の紹介などを行っている点です。どのように学び、キャリアを積んでいけばよいか見える化されているので、店舗スタッフ側は資格取得や学びに取り組みやすくなっています。
同社ではライトワークスのLMS「CAREERSHIP」を活用し、情報や教育コンテンツを集約して、店舗スタッフに情報や教育機会を提供しています。これにより、eラーニングの受講だけでなく、資格取得の申し込みや研修の受講、キャリア相談の申し込みなどをすることができます。
このように、同社では従業員一人一人が自律的にキャリアを考え、学び、相談しながら成長できる環境が構築されています。
キャリア自律を推進する各企業の人事施策をみると、企業の業種を問わず、従業員個人の価値観やキャリアへの考え方を尊重していることが分かります。その上で、自社の体制を整えて、研修や面談、現場での業務経験などを通してキャリア自律を後押ししています。
7. まとめ
キャリア自律は自身のキャリアに関心を持ち、キャリア開発を行うために主体的・自律的に考え学び続けるといった特徴があります。
キャリア自律が企業で注目されている背景として、下記の3つが挙げられます。
- 終身雇用制度の崩壊
- 労働力人口の減少
- 働き方の多様化
キャリア自律が企業で注目されている背景には、個々人のキャリアを企業におまかせする時代が終わり、キャリア自律を通じて従業員個々人の成長や貢献が求められるようになったことにあります。
しかし、キャリア自律は従業員任せで進むものではありません。実際に、キャリア自律に向けた企業の取り組みの実態を見ると、企業側が主体となっていることがわかります。
キャリア自律のメリットは、以下の通りです。
- 企業のビジネスの可能性が広がる
- 優秀な人材確保につながる
- 管理職の負担が減る
- 離職率を下げられる
- 従業員の働き方やキャリアに対するニーズを実現しやすくなる
一方で、キャリア自律を推進する上での課題は以下の通りです。
- 就労意識の多様化への理解不足
- キャリア自律を「従業員任せ」にしている
企業側は、社内でキャリア自律への理解や関心を高め、キャリア自律を支援していく姿勢が大切です。
キャリア自律の具体的な支援策としては、以下が挙げられます。
- キャリア自律に関する研修・セミナー
- キャリア相談
- 学習支援
- システムを活用した従業員のタレントマネジメント
- 適切な社内での配置や異動の流動化
- 社外で仕事をする体験
日々の業務と並行してスキル開発を行う必要があるため、eラーニングをはじめ、テクノロジーの力を利用することは有用です。
実際に従業員のキャリア自律に取り組む企業として、5社の事例を紹介しました。
株式会社JTBでは集合研修やeラーニングなど豊富な教育プログラムを用意し、学習機会の場を提供しています。
TIS株式会社では、社内研修のほか、ベンチャー企業へ出向させ社外での仕事経験を積ませる取り組みを行っています。
株式会社ニトリホールディングスでは、社内で2、3年に一度配置転換を行い、様々な業務にあたらせて、スキル獲得やキャリア開発を行うことで、今後のキャリアについて考える機会を提供しています。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社は、キャリア形成支援制度として年に1度、上司に自分の目指すキャリアの展望を相談する面談の機会を設けています。
株式会社サザビーリーグでは、一人一人の強みや成長課題をカルテとして残し、従業員に自律的に成長を促す方法を皆で探る取り組みを行っています。
キャリア自律を推進することは、企業にとっても従業員にとっても大きなメリットがあると言えるでしょう。従業員一人一人のキャリア自律を支援して、企業力を高めていきましょう。
[1]帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年4月)」(閲覧日:2024年6月21日)
[2]公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023」(閲覧日:2024年7月1日)
[3]HR総研「「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告」(閲覧日:2024年7月1日)
参考)
堀内泰利,岡田昌毅「キャリア自律が組織コミットメントに与える影響」,『産業・組織心理学研究』,第23巻,第1号,2009,p15-28.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/23/1/23_15/_pdf(閲覧日:2024年7月4日)
パーソル総合研究所「キャリア自律推進」の背景とその落とし穴 啓発発想からビオトープ発想へ」, 2021年11月26日, https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/202111260001.html?msclkid=8e607ab6b39411ec9513d1bf876a058f (閲覧日:2022年4月6日)
C・D LABO「キャリア自律とは。キャリア自律が求められる理由、企業における課題と推進方法。」, 2020年08年31日, https://www.lifeworks.co.jp/cdlabo/column/entry001861.html (閲覧日:2022年4月6日)
JMAM「自律型人材とは? 育成のための5つの方法とメリット・デメリットを詳しく解説」, 2022年4月5日,https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0010-ziritsu.html (閲覧日:2022年4月17日)
RMS Message「キャリア自律の意味すること」, 2021年11月, https://www.recruit-ms.co.jp/research/journal/pdf/j202111/m64_all.pdf(閲覧日:2022年4月6日)
経団連「人材育成に関するアンケート調査結果」, 2020年1月21日, https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/008.pdf (閲覧日:2022年4月6日)
厚生労働省「グッドキャリア企業アワード好事例集」, 2020年, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/c_award_jirei.html(閲覧日:2022年4月6日)
d’s JOURNAL「組織力の低下にどう向き合うか。神戸大学大学院×ニトリから学ぶ、次世代リーダーの採用・育成法とは」, 2021年3月26日, https://www.dodadsj.com/content/210326_seminar_academia_nitori/ (閲覧日:2022年4月6日)