LMSとeラーニングの違い LMSのメリットが大きいケースを解説
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「eラーニングを拡大したいが、管理が追い付かない……」
eラーニングはごく身近になっており、社内研修の主要な手段としている企業も少なくないでしょう。しかし手作業での受講管理には限界があり、受講人数や取り扱う教材が多くなるほど、管理部門に大きな負担がかかりがちです。
本格的にeラーニングを実施するとなると、導入を検討したいのがLMS(学習管理システム)です。しかし、そもそもLMSとeラーニングはどう違うのでしょうか。LMSを導入することで本当にeラーニングの課題は解決するのでしょうか。
ここでは、LMSとeラーニングの違いをまとめ、LMSでeラーニングの課題がどう解決できるか、メリットや企業事例を挙げて具体的に解説します。また、LMS導入以外の選択肢や自社に合ったLMSを選定するポイントにも触れています。
研修管理の負担を抑えたい管理部門の方、さらなるeラーニング活用に向けてLMS導入の必要性やメリットを整理したい方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
1. LMSとeラーニングの違い
「LMS」と「eラーニング」はセットで語られることも多く混同されがちですが、両者が指すものは異なります。端的に言えば、LMSはシステム、eラーニングは学習方法を表す言葉です。
1-1. LMSは学習のプラットフォームになるシステム
LMSはLearning Management System、つまり学習管理システムを表します。eラーニングやオンライン研修などのプラットフォームとして、次のような機能を提供するものです。
- 受講者管理
- 研修の案内
- 教材配信
- 学習履歴管理
LMSで管理できる研修はeラーニングに限りません。中にはオフラインの現場研修や外部研修まで含めた、あらゆる研修の受講管理に利用できる製品もあります。さらにはスキルマップやタレントマネジメントといった、人材開発を総合的に後押しする機能を備えたものもあり、多様化・高機能化しています。
1-2. eラーニングはインターネットと電子端末を使用する学習方法
一方、eラーニングはインターネットを通じて教材コンテンツにアクセスする学習方法を指します。
eラーニングの実施方法として、LMSを使用せず、教材コンテンツだけを利用する形もあります。LMSなしに学習状況や成績の管理機能を備えたeラーニングシステムもありますが、複雑な設定やeラーニング以外の研修の管理はできません。
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2. LMSで解決できるeラーニングの課題
eラーニングで起こりがちな運用管理上の課題の中には、LMSで解決できるものも多くあります。
2-1. 多様な教材の管理
複数の会社の教材や、既存の資料を基にした自社オリジナル教材など、多様な教材を使いたい企業も多いのではないでしょうか。
しかし、旧来のeラーニングシステムは、専用の教材を搭載することを前提とした作り込み式のものが一般的でした。
こうしたシステムでは、仕様の異なる教材を扱うには、登録に大きな手間がかかったり、別のプラットフォームが必要になったりします。その後の受講管理も煩雑になり、受講者側も自身に必要な教材を探すのが大変です。
LMSでは、提供元の異なる教材を一括管理できます。また目的の教材にアクセスするための検索機能や操作しやすい画面を備えているものがほとんどです。
2-2. 進捗管理
対面での研修と違い、eラーニングは受講者の状況が直接見えないため、個々の学習の進捗管理が課題になることがあります。企業によっては、進捗は従業員が自己申告し、管理部門がExcelに入力して集計・利用するといった運用も見られます。
しかしこうした手作業での運用は、効率や正確性に懸念があります。進捗管理が不十分だと、従業員の学習が滞っていてもフォローができず、組織の教育目標が達成できないといったことにもなりかねません。
LMSなら受講履歴は自動で取得され、受講状況を管理者も受講者も簡単に参照できます。さらに未受講者へのリマインドなど、受講履歴に応じたサポートも自動化が可能です。
2-3. 受講者とのコミュニケーション
教材を配信するだけのeラーニングは、受講者とのコミュニケーションが一方通行になりがちです。受講者の反応を受け取れず、分かりにくい単元や使いにくい点、研修に対する要望などがあっても気付けません。
従業員側も学習が受動的になってしまってモチベーションが保てず、eラーニングを社内教育に活用したくても受講率が上がらないケースも見られます。
LMSには成績管理の他、アンケートやレポート機能を使って受講者の反応や意見を得る仕組みがあります。受講者へのフィードバックや研修内容の改善に使える材料を得ることができるのです。
2-4. 部署をまたがった管理
eラーニングを部署ごとに管理・運用しているという企業も少なくないかもしれません。使用する教材やプラットフォームが別々だと、全社的な視点では最適とはいえない場合もあります。
例えば組織変更・人事異動のたびに新しい部署のeラーニングシステムに登録し直す必要があるとしたら、管理担当者の負担はかなり大きいでしょう。従業員もその都度新しいシステムの使い方を覚えなければならず、今までの受講履歴が引き継げないといった問題も起こります。
LMSで教育プラットフォームを一元化すれば、部署間の異動に伴う管理作業を大幅に減らすことができます。さまざまな単位での権限設定ができる製品を選べば、全社から部門別まで柔軟な運用が可能です。
3. LMSによる研修管理のメリットと注意点
上述したように、eラーニングをはじめとする研修の管理にLMSを導入すると、さまざまな問題の解消が期待できます。LMSのメリットを注意点と共に整理してみましょう。
3-1. 管理者側のメリット
LMSの導入によって、管理者側には以下のようなメリットがあると考えられます。
- 研修の管理にかかる工数を抑えられる
- 研修をより効果的に実施できる
- 研修を人事施策と連動できる
研修の管理にかかる工数を抑えられる
前章で述べたように、LMSは教材管理や進捗管理など受講管理にかかる多くの作業を自動化します。現状で管理業務に手作業を多く要している場合は、LMSによって管理担当者の負担軽減が図れるはずです。
研修をより効果的に実施できる
LMSはeラーニングに限らずさまざまな研修を一元管理できます。eラーニングと対面研修を組み合わせたブレンディッド・ラーニングのように、総合的な視点での研修体制を後押しするでしょう。また受講履歴を活用したフォローや研修内容の改善も、研修の効果を高めるのに有用です。
研修を人事施策と連動できる
LMSは研修を一元管理できるだけでなく、製品によっては職種や階層ごとに必要なスキルを示すスキルマップなどの機能を備えたものもあります。人材育成計画に沿った体系的な研修を行うのに、こうしたLMSは強力な武器になるでしょう。またLMSに蓄積される受講履歴情報は、人事評価や人員配置の客観的な材料として役立ちます。
3-2. 受講者側のメリット
続いて、受講者側のメリットです。
- 学習状況が把握しやすい
- 学習すべき内容が明確に分かる
学習状況が把握しやすい
受講者が自身の受講履歴や成績などを簡単に参照できるのもLMSの利点です。目標に対する学習進捗や自身の得手・不得手を把握したり、成長を実感したりすることで、従業員が主体的に学ぶ姿勢につながります。
学習すべき内容が明確に分かる
LMSを活用すると、テーマやキャリアプランに沿った学習内容が提示されるので、何を学習すべきか迷わずに取り組むことができます。学習のステップが見えることで目標を立てやすく、従業員の自律的なキャリア形成の意識にもつながるでしょう。
3-3. LMS導入の注意点
LMSには多くのメリットがありますが、注意点についても知っておきましょう。
- 導入にコストがかかる
- 人材育成の指針がないと活用し切れない可能性がある
導入にコストがかかる
LMSの導入には、初期費用+ランニングコストがかかります。LMSにはさまざまなタイプがありますが、特に機能が充実した製品だと費用は安いとはいえず、費用対効果を考慮することは必須といえます。
加えて、LMSや教材をカスタマイズする場合などは、稼働開始まで手間と時間を要することがあります。使い方のガイダンスやトラブル対応など、新しいシステムの導入に伴う管理作業が発生することも留意しておきましょう。
受講対象者や研修の種類が少ない場合などは、現状のeラーニングと比較して必ずしも「費用対効果が優れている」とはいえないケースもあるかもしれません。
人材育成の指針がないと活用し切れない可能性がある
LMSは大変有用ではありますが、目的が曖昧なまま導入しても効果を十分に発揮できないかもしれません。人材育成の指針に沿って導入しないと、機能や教材コンテンツの過不足が出てきたり、受講者が学習意欲を持てなかったりする恐れがあります。
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4. 自社に合ったLMSの選定ポイント
自社に合ったLMSはどのように選べばよいでしょうか。ここでは大まかに三つの観点に分けて解説します。
4-1. 性能・機能について
LMSの機能は多様化しています。差別化ポイントの一つとなるのが、集合研修管理やスキル管理・人事データベースとの連携といった、eラーニング配信以外の機能です。
マルチデバイスや多言語に対応しているかなども、自社の要件によっては欠かせない要素になります。自社の人材育成・人事施策に適した機能があるかチェックしましょう。
他にも、以下のような点が検討材料になります。
- 想定する運用規模と製品の想定利用人数が合っているか
- サーバー構築不要なクラウド型か、イントラネットでの利用を想定したオンプレミス型か
- eラーニングの標準規格であるSCORMに準拠しているか
いずれにせよ、自社がLMSにどのような要件を求めるのかを明らかにすることが何より重要です。
4-2. 運用について
LMSは導入して終わりではなく、運用フェーズを見越して検討する必要があります。導入後のサポート、例えばヘルプデスクや運用のアウトソーシングの有無や必要性についても確認しましょう。
加えて、重要なポイントの一つが、教材コンテンツの調達方法です。LMSベンダーが提供する教材コンテンツを利用する予定であれば、教材ラインナップの確認は必須といえます。
自社オリジナルの教材を作りたい場合は、教材作成ツールが充実した製品や、教材作成のサポートが得られるベンダーが選択肢に入ります。
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4-3. 価格について
多くのLMSは初期費用だけでなく月額料金が発生する料金体系であり、運用規模をはじめもろもろの要件で金額が変動するため、価格を同じ条件で比較することは困難です。実際、ベンダー各社の公開している情報を見ても、詳細な価格は個別の問い合わせを要する製品がほとんどです。
価格は分かりやすい指標であるように思えますが、絞り込みに用いるのは検討の最終段階になってからをお勧めします。まずはこれまでに挙げたような性能・機能面、運用面といった要件でしっかりと候補を検討するとよいでしょう。
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5. LMS導入でeラーニングの課題を改善した企業事例
最後に、eラーニングにLMSを導入したことで、それまで抱えていた課題を改善した企業事例を紹介します。
5-1. 住友ファーマ株式会社
住友ファーマ株式会社では、部門ごとに個別でeラーニングを運用しており、各部門の教育担当者に大きな負荷がかかっていました。象徴的なのが、人事異動や組織変更のたびに発生する、異動先のシステムへのユーザー登録・ID発行といった対応です。それまでの受講履歴を引き継ぐこともできません。
そこで同社はライトワークスのLMS「CAREERSHIP」を導入し、全社での教育基盤の統合を図ります。
その結果、煩雑だった異動時の対応は完全に自動化され、10人ほどを要していた管理担当者の工数はゼロになりました。未受講者への催促メール自動配信など、こまごまとした管理業務が軽減され、受講完了までの期間も短縮されたといいます。
管理にかかる工数が減ることで、教育担当者は良質な教育提供のための企画・開発などの業務に集中できるようになります。さらに、子会社の多くがLMSを統合したことで、グループ全体のコスト削減にも効果が見られました。
5-2. アサヒビール株式会社
アサヒビール株式会社は、社内のeラーニングの利用率の低迷を課題としていました。そこでライトワークスのLMS「CAREERSHIP」をベースにeラーニングシステムを刷新し、利用率を12倍にも伸ばすことに成功します。
従来の教材作り込みのクローズド型から、ベンダーを問わずよりよい教材を取りそろえられるオープン型へ。そして、従業員一人一人へキャリア形成に必要な教材を届けるデリバリー型のシステムへと、明確なコンセプトに基づいた新システムの開発で同社のeラーニングは大きく変わりました。
集合研修の前提条件として事前テストの得点基準を設けたり、新入社員の学習進捗をシステム上で把握してOJTでの指導に生かしたりと、リアルと連携した活用も広がっています。キャリア形成を支援するシステムへと進化しただけでなく、部門ごとに異なっていたシステムを集約することでコスト削減にもつながりました。
6. まとめ
LMSとeラーニングは混同されがちな言葉ですが、以下のような違いがあります。
LMSは学習のプラットフォームになるシステムで、受講者管理や教材配信、学習履歴の管理といった機能を提供するものです。eラーニングに限らず集合研修や外部研修まで含めた管理、人事データとの連携など、多様化・高機能化しています。
一方、eラーニングはインターネットを通じて教材コンテンツにアクセスする学習方法を指します。LMSなしに教材コンテンツだけを利用する形もありますが、複雑な受講管理やeラーニング以外の管理はできません。
eラーニングにLMSを導入すると、以下のような課題の解消に役立ちます。
- 多様な教材の管理
- 進捗管理
- 受講者とのコミュニケーション
- 部署をまたがった管理
このようにLMSによる研修管理にはさまざまなメリットがあります。管理者側にとってのメリットを整理すると、以下のようになります。
- 研修の管理にかかる工数を抑えられる
- 研修をより効果的に実施できる
- 研修を人事施策と連動できる
また、受講者側にとってのメリットには次のようなものがあります。
- 学習状況が把握しやすい
- 学習すべき内容が明確に分かる
一方、LMS導入の注意点としては、次の2点が挙げられます。
- 導入にコストがかかる
- 人材育成の指針がないと活用し切れない可能性がある
LMSの導入を成功させるには、導入目的を明確にし、費用対効果を検討することは必須といえるでしょう。目的や運用規模によっては、LMSを導入しない形でのeラーニング、例えばeラーニング受け放題のようなサービスが適している場合もあるかもしれません。
自社に合ったLMSの選定には、以下の観点から検討するとよいでしょう。
- 性能・機能について
- 運用について
- 価格について
最後に、LMS導入でeラーニングの課題を改善した企業事例を2社紹介しました。
住友ファーマ株式会社は、全社でLMSを統合したことで、組織変更・人事異動時の管理担当者の工数が10人からゼロになるなど管理業務の大幅な軽減に成功しました。グループ全体のコスト削減も果たしています。
アサヒビール株式会社の事例は、LMS導入によって、利用率の低かった従来のeラーニングから従業員のキャリア形成を後押しするシステムへと刷新したものです。eラーニング利用率は12倍に拡大し、システムの集約によってコスト削減にもつながりました。
LMSはeラーニングをはじめさまざまな研修管理の課題を改善し、人事施策を後押しする心強いツールです。一方で、求める要件によって企業ごとに最適な製品や導入方法は異なってくるでしょう。自社に最適な研修管理の方法の検討に、本記事をお役立ていただけると幸いです。
よくある質問と回答
Q. LMSとは何ですか?
A. LMS(Learning Management System、学習管理システム)は、eラーニングやオンライン研修などのプラットフォームとして、教材配信や受講者管理、学習履歴管理などの機能を提供するものです。
Q. オンライン学習とeラーニングの違いは何ですか?
A. オンライン学習は、特定の時間にオンラインで行われる授業や研修・セミナーを指します。eラーニングは、インターネットを通じて教材コンテンツにアクセスする学習方法を指します。
Q. eラーニングの欠点は何ですか?
A. LMS(学習管理システム)なしでのeラーニング運用では、多様な教材の管理や進捗管理が難しくなりがちです。また部門ごと別々のシステムだと、部署異動時の対応が大変、受講履歴が引き継げないなどの問題があります。