2025年5月23日、国立大学法人宇都宮大学 データサイエンス経営学部 大嶋淳俊教授と株式会社ライトワークスは、「組織開発の最新トレンド!企業内大学3.0とは?」と題したウェビナーを開催しました。
このレポートでは、当日のセミナーおよびQ&Aの一部を紹介します。
【開催概要】
開催日時:2025年5月23日(金)13:30〜14:40
費用:無料
形式:オンライン
スピーカー:
国立大学法人宇都宮大学 データサイエンス経営学部 教授 大嶋 淳俊氏
博士(人間科学)。大手総合シンクタンクにて民間企業のコンサルティングと政府系事業に従事。いわき明星大学教授、宮城大学教授を経て現職。デジタル×戦略×リーダー育成を軸に、次世代経営リーダー育成、企業内大学、DXイノベーション人材育成を中心に研究。研究書『次世代経営リーダー育成:経営人材創出モデルの探究』、『デジタル経営学入門』(学文社)、『企業内大学』ほか著書多数。
株式会社ライトワークス 研修企画セールス部 近藤 智之
※肩書は当時のもの
ウェビナーの概要
本ウェビナーでは、近年、多くの企業で関心を集めている「企業内大学」について、宇都宮大学 データサイエンス経営学部 大嶋淳俊教授の講演を行いました。大嶋教授の最新の研究成果や調査データを基に、これからの時代に求められる企業内大学の姿を解き明かします。
また、ライトワークスからは、LMS(学習管理システム)「CAREERSHIP」を活用した企業内大学の事例について情報提供が行われました。
大嶋淳俊教授 講演「デジタル人的資本経営時代の企業内大学3.0〜戦略・人・組織の創発を目指して〜」

なぜ今、企業内大学が注目されるのか?
大嶋教授は、企業内大学への関心が高まる背景に、現代企業を取り巻く3つの大きなトレンドがあると指摘しています。
デジタル革命の加速化
2022年11月のChatGPT登場を契機とした生成AI革命は、従来のインターネットやモバイルの次元を超える変化を企業に迫っています。「これに対して組織と人がどう対応するのかが、経営戦略・人材戦略の大きな課題となっています」と大嶋教授は語ります。
人的資本経営の本格化
経営学の世界では10年以上前から議論されてきた概念が、いよいよ本格的な実践のフェーズに入りました。その具体的な推進軸として、企業内大学に期待が寄せられています。
リスキリングとキャリア自律の必要性
リスキリングを個人の努力に任せる「キャリア自律1.0」の時代は終わりました。組織と個人が一体となってリスキリングを推進し、変化に対応していく「キャリア自律2.0」の時代において、その中核を担う仕組みが求められています。
従来の研修センターと企業内大学の違い
では、企業内大学は従来の研修センターと何が違うのでしょうか。大嶋教授は、決定的な違いは以下の3点にあると解説します。
- 戦略性:経営戦略と完全に連動しているか。
- 体系化:散発的な研修ではなく、全社的な学習プラットフォームとして設計されているか。
- 動的なプラットフォーム:時代とビジネスニーズに合わせて進化し続ける「動的なプラットフォーム」として位置づけられているか。
「ただ研修を提供するだけでなく、この活動自体が企業のブランディングにも役立つ。そうした多面的な機能を持つのが本来の企業内大学です」と大嶋教授は定義しています。
企業内大学の発展段階論:1.0から3.0への進化

大嶋教授は、企業内大学の発展を3つの段階で整理する独自の「発展段階論」を提唱しています。
企業内大学1.0:体制構築期
経営人材の育成や全社員のレベルアップを目的とした、基本的な体制作りの段階です。
企業内大学2.0:多様化・拡張期
対象層や目的が多様化し、企業のブランディングやキャリア形成支援といった機能が加わる段階です。学習の「見える化」が進み、社員の自律的なキャリア形成を促します。
企業内大学3.0:戦略的プラットフォーム期
そして現在、企業が目指すべき姿が「企業内大学3.0」です。戦略性、キャリア自律、デジタル活用が高度に統合された状態を指します。
「企業内大学2.0と3.0の大きな違いは、各種施策がタレントマネジメントシステムなどと本格的に連動しているか、という点です。企業内大学3.0は、グループ経営やグローバル展開といった、現代企業特有の経営課題に対応できる拡張性も備えています」と大嶋教授は説明します。
企業内大学の導入・運営における課題と解決策
大嶋教授が実施した最新のアンケート調査によると、企業内大学運用上の主要な課題として以下が挙げられています。
- 経営層や管理職の関与不足(戦略性の欠如)
- 経営戦略や人材戦略との連携不足
- 理念・パーパスの浸透不足
「経営戦略や人材戦略との連携が、圧倒的に足りていません。企業内大学の定義の根幹にあるのは戦略性です。そこが弱いということは、企業内大学としてのクオリティの面で大きく見直す必要があるでしょう」と大嶋教授は分析しています。
また、大嶋教授は企業内大学の運営を「好循環」と「悪循環」の2つのパターンに分けて説明しました。
現時点では、日本は比較的好景気と言われていますが、将来的にまた景気が悪くなった時に企業内大学が削減対象とならないようにするためにも、やはり戦略性が重要です。大嶋教授は「経営戦略と企業内大学の設計を連動させ、人材の成長・定着による組織への貢献という好循環を今のうちに確立することが重要です」と強調しました。
中堅・中小企業における企業内大学の可能性
大嶋教授は、中堅・中小企業こそ企業内大学を導入すべきだと語ります。その理由は「後発者メリット」を活かせるからです。大企業の試行錯誤によって企業内大学の成功法則はある程度フォーマット化されています。これを活用すれば、より早く効果的な導入が可能です。
特にDX人材育成について、大嶋教授は「よく中小企業白書のアンケートでも『DX人材がいない』『DX推進がうまくいっていない』と出てきます。中堅・中小企業では、企業内大学を使ってDX人材育成を一気に進める取り組みがいいのではないか」と提案しています。
講演のまとめ
最後に、大嶋教授は企業内大学3.0を実現するための第一歩として、以下の3つのポイントを挙げました。
- 自社らしい人材戦略の見える化:理念やビジョンに基づき、自社らしさが滲み出る戦略を策定します
- キャリア自律と組織支援の両輪整備:社員任せにせず、キャリア自律を組織として支援する仕組みを構築します
- リアルとデジタルのハイブリッド施策:上記を実現するために、特に中小企業は、デジタルプラットフォームとリアル施策とを組み合わせたハイブリッド型を目指すのがおすすめです
企業内大学3.0は、単なる人材育成の仕組みを超えて、デジタル人的資本経営時代における組織変革のエンジンとしての役割を担っています。
戦略性、キャリア自律、デジタル活用の3つの要素を統合し、持続的な成長を実現する動的プラットフォームとして位置づけることが、これからの企業経営において不可欠な要素となるでしょう。
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ライトワークスからの情報提供:企業内大学の事例
続いて、ライトワークス近藤より、当社のLMS(学習管理システム)CAREERSHIPを活用した企業内大学の事例を紹介いたしました。
株式会社ヤマハミュージックジャパン様の事例
組織開発の手段として企業内大学を運営し、「ダブルメジャー人材」の育成と、社員が持つ知識を発信する「教え合い・学び合う場」の形成を実現しています。4学部18学科を開校し、100名弱の社員が自ら講座を制作しています。
⼈的資本経営やキャリア⾃律、⾃律的⼈材育成が求められる近年、企業内⼤学への注⽬が集まっています。 楽器・音響機…
兼松株式会社様の事例
企業内大学のコース管理や単位管理を一元化する目的でCAREERSHIPを導入しました。結果として成績や単位の管理が効率化され、運用にかかる人的コストも大幅に削減。自分の単位取得状況を可視化することで、社員の単位取得率は80%まで上昇しました。
人材育成の新たな手法として、企業内大学への注目が集まっています。理由は大きく二つ。就職先に「成長できる環境」や…
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質疑応答
ウェビナーの最後には質疑応答の時間が設けられ、参加者から寄せられた質問に大嶋教授から回答いただきました。主な内容を紹介します。
Q:企業内大学の社員への浸透方法について
A:企業は企業内大学を戦略的プラットフォームとして提供しているが、従業員には単なる研修体系に見えてしまう問題がある。これには制度設計と組織文化の両輪が重要。
経営層(CEO、役員層)のコミットメントを明確に示すことや、昇進要件や社内異動と連動させる、特定事業部門で成果を見える化してから全社展開するなど、「学ばせる場」ではなく「学びたくなる場」を作ることが大切です。
Q:企業内大学の長期運用のコツについて
A:「動的プラットフォーム」としての意識が重要で、時代変化に対応できる仕組みとして位置づけたい。
具体的には、デジタルプラットフォームによる学習者の利用データの可視化、学び合いの要素を取り入れて社内での賞賛の仕組みを構築するなど、社員教育ではなく「組織変革のエンジン」として位置づけるのがポイントです。
質疑応答からは、多くの企業が企業内大学の運営に課題を感じていることが伺えました。
大嶋教授からは、企業内大学の成功には、戦略性、経営層のコミット、継続的な進化が不可欠であり、単なる研修制度を超えた「組織変革のプラットフォーム」として位置づけることが重要という解説がありました。
大嶋教授の著作紹介
企業内大学
~戦略的人材成長基盤としてのコーポレートユニバーシティ~

(内容紹介)
二十数年にわたり日本や海外の企業内大学について研究に取り組んできた筆者が、日本における企業内大学の発展段階を辿ると共に、近年の多様な企業内大学の事例研究を行い、その課題や可能性について考察する。
The Evolution and Challenges of Corporate Universities in Japan:
Towards a Strategic Talent Growth Platform in the DX Era

(内容紹介)
日本における企業内大学(Corporate University: CU)の進化と課題を体系的に捉えた初の国際的な学術書。企業文化やリーダーシップ開発との関係についても論じている。
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