人事分野のリーダー育成を目指す「HR LEADERS’ ACADEMY」の質問会・交流会が2025年5月21日に開催されました。リアル/オンラインのハイブリッド質問会には多くの受講生が参加し、活発な意見交換が展開されました。
レポートでは、講師のマーサージャパン株式会社 組織・人事変革コンサルティング シニアプリンシパルの前川尚大氏より共有された「人事プロフェッショナルのキャリア開発」に関する知見と、グループディスカッションで話題になったテーマについて紹介します。
「人事プロフェッショナルスキルセルフチェック表」の活用

人事プロフェッショナルとしてのキャリア開発において、まず重要なのは自身のスキルや知識を客観的に把握することです。HR LEADERS’ ACADEMY の学習プラットフォームであるCAREERSHIPで提供されているセルフチェック機能は、人事プロフェッショナルが自身のスキルを客観的に把握するツールです。
前川氏は「この棚卸しは、皆さんのキャリアの中で、自分の関心がどの領域にありそうか考えるための地図のようなものです」と説明しています。
スキルチェックでは、以下の3つのカテゴリーで自己評価を行います。
- 専門業務:人事業務として遂行できる能力
- スキル:業務遂行に必要なソフト・ハードスキル
- 業務知識:人事業務の前提となる知識
これらは「インプット・スループット・アウトプット」の考え方と関連しています。業務知識やスキル(インプット)を獲得し、それを専門業務(スループット)として実践することで、成果(アウトプット)を生み出すサイクルです。
人事のキャリア開発では、自分の「強み」や「本拠地」を明確にすることが重要です。人事の領域は「人事企画・制度設計」「タレントマネジメント」「エンプロイリレーション」などに分類できます。自分がどの領域を中心に据え、どの方向に広げていくかを意識することが戦略的キャリア構築の第一歩となります。

実務経験を通じた成長機会の獲得方法としては、以下が挙げられます。
- 会社の制度(異動・公募制度など)を活用する
- 上司と相談して役割分担レベルで新たな業務を担当する
- プロジェクトへの参加を通じて経験を積む
- 自ら提案して新しいプロジェクトを立ち上げる
「キャリアに関しては自分から動かない限りは何も変わらない」という認識が重要です。
テーマ別グループディスカッション
グループディスカッションは、以下の5つのテーマについて、各グループで議論を行いました。途中でグループをシャッフルし、2回目は比較的近い業種のメンバーで意見交換をしました。
ディスカッションテーマ
- 人事戦略
- 人事制度概論
- タレントマネジメント
- パフォーマンスマネジメント
- 報酬マネジメント
ディスカッションで各社に共通した課題感と、共有された解決策・実施施策をまとめました。
テーマ:人事戦略
共通する課題感
- 経営や事業戦略と人事戦略の連携強化、および社内への浸透。
- 「自律型人材育成」などの方針について、従業員の理解を深めることに難しさを感じている。
共有された解決策・実施施策
- 事業戦略と連動した人材戦略や育成方針を策定・見直し、全社へ発信しつつ柔軟に修正する。
- 方針を具体的な施策(評価への反映など)に落とし込み、実行に移している。
テーマ:人事制度概論
共通する課題感
- 人事制度の分かりやすさと納得感の向上が求められている。特に中途入社者への浸透が課題。
- グローバル展開における制度構築・運用の難しさや、等級制度(数、昇降格、公平性)の継続的な検討が必要だ。
共有された解決策・実施施策
- 研修や説明会で丁寧な情報提供を心掛け、等級数削減で迅速な昇進・昇給を図っている。
- 昇格時の試験や多角的な評価(ヒアリング等)で公平性向上に努め、多様な働き方への適切な制度運用も検討している。
テーマ:タレントマネジメント
共通する課題感
- TMS(タレント・マネジメント・システム)を導入したものの、スキル可視化や戦略的配置、データ分析等でポテンシャルを活かしきれていない。
- 経営層やハイポテンシャル人材の育成、サクセッションプランの実行。
- スキルデータの収集・数値化・統合や、キャリア採用者の早期適応支援に課題がある。
共有された解決策・実施施策
- TMSの導入・活用を進め、自己申告や複数軸定義によるスキルデータ収集・管理を行っている。
- キャリア意向の把握やオープンポジション設置で自律的キャリアを支援し、オンボーディングも充実させている。
テーマ:パフォーマンスマネジメント
共通する課題感
- 評価制度の理解・納得感醸成や、MBO未導入時の目標管理手法が課題。
- 1on1の効果発揮への懸念や、部門間評価の公平性確保に悩みがある。
共有された解決策・実施施策
- 研修等で丁寧な制度説明を行い透明性向上に努め、1on1の推奨や支援ツールを導入する。
- 客観データ活用や自己申告で評価の納得性を高め、パルスサーベイや人事面談でフォローしている。
- 360度評価やヒアリングなど多角的評価で客観性向上を図っている。
テーマ:報酬マネジメント
共通する課題感
- 評価と報酬連動の透明性向上や、昇給・昇進機会と従業員期待のバランス調整が求められている。
- 等級と年収の連動性を明確にし、特に若手のモチベーション維持に繋げることが課題。
共有された解決策・実施施策
- 評価と報酬の連動性について丁寧に説明し、等級数削減による早期年収アップも選択肢。
- システム活用で報酬決定プロセスの効率化・透明性向上を図っている。
質問会 人事担当者が直面する課題と解決策について

後半の質問会では、参加者から事前に提出された質問のうち、同類の課題が多いトピックについて、前川氏から掘り下げた解説がありました。
経営戦略と人事戦略の連動
経営戦略の作成がミドルアップ→ダウン方式の組織では、大きな環境変化に対応するのに限界があります。このような状況下で人事部門ができることとして、前川氏から以下のアプローチが提案されました。
- 外部環境の変化に対する他社の対応をリサーチする
- 収集した情報をリーダーに継続的にインプットする
- 自社としての対応策を考え、経営に提案する
人事制度の浸透における工夫
制度の浸透には、以下の実践的アプローチが有効です。
- 管理者やライン向けワークショップの定期的実施
- 制度運用についての悩み相談会の開催
- 評価者へのアンケートやエンゲージメントサーベイの結果フィードバック
- 人事サイクルに合わせたパルスサーベイの実施
- マイクロラーニングの活用
経営人材・専門職種の育成アプローチ
プロフェッショナル職種の育成には、要件定義の明確化、経験機会の提供、学習機会の工夫が重要です。
また、タレントマネジメントにおいて現場の抵抗があるケースでは、部下からの評価の導入、評価・報酬との連動、タレントボードの活用などが効果的です。
キャリア自律と社内リテンションの両立
キャリア自律と社内リテンションを両立させるためには、健全な危機意識の醸成、社内での成長機会の提供、「ぶら下がり層」への適切な対応が必要です。
「キャリア自律なくして優秀な人材は育たない」と前川氏は強調しています。
まとめ
HR LEADERS’ ACADEMYの質問会・交流会を通じて、人事プロフェッショナルには、組織の課題と外部環境の変化を見据えながら、自らのキャリアを戦略的に構築していくこと、学んだ知識やスキルを実践する機会を自ら創出することが重要だと認識できました。
また、テーマ別グループディスカッションによって、業種・業界の垣根を超えて、共通の課題や実践的な対応策をシェアすることで、より多くの知見を得ることができたのではないでしょうか。
人事という専門領域は大きな変革の波にさらされていますが、そのような時代だからこそ、自らのキャリアを戦略的に考え、専門性と実践力を高めていく人事プロフェッショナルの存在価値はますます高まっていくでしょう。
HR LEADERS’ ACADEMY事務局は、今後も人事分野の未来を担うリーダーの育成に向け、全力でバックアップして参ります。
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下記の記事では、第一回目、第二回目のライブ講座の内容をご覧いただけます。
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