2025年3月11日、関西学院大学 商学部 松本雄一教授と株式会社ライトワークスは、「自律学習の鍵は学習コミュニティ!?企業にもたらすメリットと構築の7つのポイント」と題したウェビナーを開催しました。
このレポートでは、当日のセミナーおよびQ&Aの一部を紹介します。
【開催概要】
開催日時:2025年3月11日(火)11:00〜12:00
費用:無料
形式:オンライン
スピーカー:関西学院大学 商学部 教授 松本 雄一氏
博士(経営学)。北九州市立大学経済学部経営情報学科助教授、関西学院大学商学部准教授を経て現職。専門は経営組織論、人的資源管理論。主な研究テーマは実践共同体による人材育成、組織における技能形成。『学びのコミュニティづくり ―仲間との自律的な学習を促進する「実践共同体」のすすめ―』(同文舘出版)ほか、著書多数。『実践共同体の学習』(白桃書房)が2019年度日本経営学会賞(著書部門)研究奨励賞を受賞
株式会社ライトワークス HCMサービス本部マーケティング戦略部長 日向 泰介
※肩書は当時のもの
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ウェビナーの概要
本ウェビナーでは、企業における自律学習の重要性と、その鍵となる「学習コミュニティ(実践共同体)」の可能性について、関西学院大学 商学部 松本雄一教授の講演を行いました。また、ライトワークスからは、自律学習の促進に向けた打ち手と企業事例について情報提供が行われました。
松本雄一教授 講演「学びのコミュニティづくり」

なぜ今、学習コミュニティが必要なのか?
企業における人材育成の課題として、従業員の自律的な学習をいかに促進するかという点が挙げられています。しかし、学習環境を整備するだけでは十分な効果が得られないケースも多いようです。松本教授は、この課題を解決する手法として「学びのコミュニティ(実践協同体)」の構築を提案しています。
組織内外に学びのコミュニティを構築することで、個人の成長意欲に応え、企業の能力を高めることが可能になります。実践共同体は、OJT、研修、自己啓発に加わる、学びの「第3の場所」と言えるでしょう。
学びのコミュニティ=実践協同体とは?
松本教授は、実践共同体は「あるテーマにかんする関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団」であるといいます。
実践共同体は、以下の3つの要素で構成されています。
- 領域:学ぶテーマ(最初から決まっている必要はありません)
- 共同体:相互作用する人の集まり(モチベーションを生み出します)
- 実践:実行とその成果物
個人が学びたいことと組織が学ばせたいことの間には、学習のミスマッチが存在する場合があります。実践共同体は、このミスマッチを解消するために、「実践共同体で学べること」という新たな円を追加し、両者の重なり合う部分を増やす役割を果たします。

実践共同体を個人と組織の架け橋とすることで、両者が近づくきっかけを作り、学びの方向性を共に考えることができるようになります。
学びのコミュニティ=実践協同体がもたらす主なメリット
実践共同体のメンバーは、参加の度合いによって、コアメンバー、アクティブメンバー、周辺メンバーなどに分類できます。参加のレベルは、個人の学びへの関心に応じて自分で決めることができます。また、参加者は複数の実践共同体や、組織と実践共同体に同時に所属すること(多重所属)が可能であり、これは多くのメリットをもたらします。
実践共同体の機能とメリット(10個のポイント)
- 学びに関心のある人を集めることができる
- 参加者間の学びを促進することができる
- 知識や技能に加え、価値観やものの見方を知ることができる
- 所属している組織に影響を与えることができる
- 参加者の仕事の見方を変え、エンゲージメントを高める
- 学びのモチベーションが高まる
- 越境(境界横断)を促進する
- 学んだことを実践にいかせる
- 問題解決に向けて多様な人を集め、協働させることができる
- 心理的な絆を作り、参加者の居場所となることができる
学習コミュニティを成功させる7つのポイント
学習コミュニティを構築・運営する際の重要なポイントとして、松本教授は以下の7つを解説しました。
- 進化を前提とした設計
最初は小規模でスタートし、徐々に発展させていきます。初期の段階で大きな成果を求めすぎないことが重要です。 - 外部と内部の視点の取り入れ
内部の意見だけでなく、外部からの視点も取り入れることで、コミュニティの価値を高められます。 - 様々なレベルの参加の許容
積極的に参加する人もいれば、様子見の人もいます。参加度合いの違いを認め、各人のペースを尊重します。 - 公式/非公式の場の使い分け
「真面目に学ぶ場」と「交流を深める場」の両方を設けることで、より豊かな学びが生まれます。松本氏は「学びの時間も大事ですが、懇親会など交流する時間も重要です」と指摘しています。 - 価値の明確化
コミュニティの存在意義や、参加することで得られるメリットを明確にします。これは特に組織からの理解を得る際に重要となります。 - 親近感と刺激の組み合わせ
日常的な活動と、時々の刺激的なイベントをバランスよく組み合わせます。 - コミュニティのリズムの創出
定期的な活動を設定し、次回の予定を必ず決めておきます。これにより活動の継続性が保たれます。
講演のまとめ
仕事における学習は、共通の関心を持つ仲間と楽しく実践的に行うべきです。実践共同体を構築し、学ぶことで、参加者だけでなく、それを見ている人も含めて学びのイメージ自体を変える(変容的学習)ことに繋がります。
「大事なことは、まず最初の一歩を踏み出すことです」と松本教授は強調します。完璧を求めすぎず、小さく始めて徐々に発展させていく姿勢が、学習コミュニティを成功に導くカギとなるでしょう。
ライトワークスからの情報提供:自律学習の促進に向けた打ち手と事例
続いて、ライトワークス日向より、自律学習の実態と文化醸成、そしてその促進に向けた企業事例を紹介いたしました。

近年、個人と企業の関係性が変化し、企業は従業員の自律的なキャリア形成を支援する必要性が高まっています 。
多くの企業が従業員の自律学習を促進したいと考えているものの、日本人の学習時間が国際的に低い傾向や、受け放題型eラーニングサービスの導入が進んでも利用が進まないなど、実際には課題が多いのが現状です。
自律学習が進まない要因には、文化土壌の欠如、機会・環境の不足、認知不足、計画不足、意欲不足などが考えられます。
これらの課題に対し、ライトワークスが考える自律学習促進のための打ち手として、以下の3つの事例をご紹介しました。
インナープロモーション
JTB様の事例より、学習機会やコンテンツの認知度向上施策としてプロモーション動画の活用、学びフェスの実施などを紹介。
人財教育部門の中には、「自律創造型人財」が育つ方法を模索している方もいるのではないでしょうか?株式会社JTBでは、人財育…
スキルの可視化
アサヒグループジャパン様の事例より、何を学ぶべきかの明確化を目指したスキルマップの活用施策を紹介。
2018年にeラーニングシステムを一新すると、月平均PVは12倍に拡大。なぜ、そのような利用率の拡大が実現できたのでしょ…
学びの場作り
ヤマハミュージックジャパン様の事例より、企業内大学の運営による自律的な学習を促す環境整備の施策を紹介。
⼈的資本経営やキャリア⾃律、⾃律的⼈材育成が求められる近年、企業内⼤学への注⽬が集まっています。 楽器・音響機…
これらの事例には、ライトワークスのLMS(学習管理システム)CAREERSHIPを活用しています。また、豊富なeラーニング教材とシステムを組み合わせることで、自律的な学習環境の構築を支援しています。スキル定義に関するコンサルティングも承っています。
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質疑応答
ウェビナーの最後には質疑応答の時間が設けられ、参加者から活発な質問が寄せられました。主な質問と松本教授の回答は以下の通りです。
Q:社内で学習する雰囲気を高めたいが、売上に関する経営層からのプレッシャーがある場合の対応は?
A:学習に対するトップの意識改革が重要。まずは実践共同体の活動を既成事実化する形でこっそり始め、成果が出始めてからトップに説明することを推奨。
Q:実践共同体がうまく機能しない場合のリスクと対策は?
A:自己語りの多い人の存在などがリスク。最初に目的やルールを明確に伝え、徹底させることが重要。上下関係を持ち込まず、フランクに話せるルール作りも有効。
Q:学びのコミュニティがうまくいかない失敗事例と対策は?
A:コミュニティを構築しても2〜3回で終わってしまう事例が多い。最初に10回程度続くような長期的な計画を立てておくことが重要。講義を聞く場ではなく、参加者同士が教え合う意識を持つこと。成果を焦らず、参加者が楽しく交流しながら学ぶことを第一の成果と位置づける。
Q:実践共同体の活動をオンラインで行う際のコツは?
A:オンラインは継続や人脈拡大には有効だが、関係構築には限界がある。対面とオンラインを組み合わせることが重要。オンラインでもブレイクアウトルームなどを活用し、参加者同士の相互作用の機会を設ける。
Q:実務との距離感とコミュニティ設定のコツは?
A:実務に近すぎると個人の意欲から離れ、実務と関係ないと意義が薄れるため、バランスが重要。最初は交流メインで始め、徐々に実務に関連するテーマを取り入れるなどの工夫も考えられる。
質疑応答からも、多くの企業が自律学習の推進や学習コミュニティの運営に課題を感じている一方で、その可能性に期待していることが伺えました。
松本教授が強調した「最初の一歩を踏み出す」勇気を持つこと、そして本ウェビナーで得られた知識やヒントを活かし、自社に合った学習コミュニティを育成していくことが、今後の企業の成長と従業員の能力開発にとって重要な鍵となるでしょう。
松本教授の著作紹介
学びのコミュニティづくり
―仲間との自律的な学習を促進する「実践共同体」のすすめ―

(内容紹介)
企業が従業員の潜在能力を引き出し成長させることは大きな課題である。OJT・研修・自己啓発等と異なる、仲間とともに楽しく自律的な学びを促進する「実践共同体の学び」について解説!
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