「eラーニングを導入したいが、本当に効果があるのかわからず、費用対効果のめどが立たない…」
「すでに導入しているが、従業員が活用しきれておらず、成果が曖昧になっている…」
eラーニングは多くの企業で導入されていますが、その効果の測定や最大化に悩む人材育成担当者の方は少なくありません。コスト削減というメリットはわかりやすいものの、肝心の「学習効果」については検証が難しく、導入を躊躇したり、運用が形骸化したりするケースが見受けられます。
しかし、eラーニングはポイントをおさえて活用すれば、従業員の成長と企業の業績向上に大きく貢献する強力なツールです。
この記事では、eラーニングの効果の評価方法から、学習効果を高める具体的な3つの活用方法、そして「効果がない」といわれる失敗パターンまでを、成功事例を交えてわかりやすく解説します。
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AIで要約
- eラーニングの効果は、カークパトリックの4段階評価モデルを用いて客観的に評価できます。
- 効果の最大化には「質の高いコンテンツ」「効果的な活用法」「学習を支える文化」という3つの柱を実践することが成功の鍵です。
- 「やらせっぱなし」にせず現場のニーズに沿った教材を提供し、学習意欲を高める工夫で、業績向上や離職率改善を実現できます。
eラーニングで期待できる効果とは?
インターネットを利用して学習する「eラーニング」は、受講者は時間や場所を問わず学べる、管理者はコストや手間を減らせるといった多くのメリットが期待できます。
そのうえで、eラーニングの効果を最大化するには、まず「どのような効果を期待するのか」を明確にすることが大切です。目的が明確であれば、導入や運用もスムーズに進みます。
ここでは、eラーニングで期待できる代表的な効果を「管理者側」と「受講者側」の2つの視点に分けてご紹介します。
管理側が期待できる効果
物的・人的コストが削減できる
研修会場費や交通費、講師への謝礼といった直接的な費用はもちろん、準備や受講者管理にかかる人事担当者の工数も大幅に削減できます。LMS(学習管理システム)を使えば、受講状況の把握やフォローアップも一元管理でき、教育運用全体の効率化が図れます。
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教育の質を標準化できる
全社・全拠点の従業員に対し、場所や講師のスキルに左右されることなく、常に均質なレベルの教育を提供できます。これにより、組織全体の知識やスキルの底上げが期待できます。
受講者が期待できる効果
反復学習で知識の定着率が上がる
eラーニングは時間や場所の制約がなく、スマートフォンやPCで自分のペースで学習を進められます。多忙な従業員でもすき間時間を有効活用できるうえ、理解できるまで何度でも繰り返し学べるため、知識の定着率も高まります。
自律学習の促進が期待できる
個々のレベルやキャリアプラン、興味関心に合わせて学習コンテンツを自由に選べる環境は、主体的に学ぶ「自律学習」の文化を育みます。スキルアップを通じて得られる成功体験は、従業員の自信や仕事へのエンゲージメント向上にもつながります。
eラーニングの効果測定における世界標準「カークパトリックモデル」
eラーニングの効果を客観的に評価し、改善につなげるためには、ドナルド・カークパトリックが提唱した「4段階評価モデル」が非常に有効です 。これは人材育成の成果を測る指標として世界中で広く利用されています。
カークパトリックの4段階評価モデル
レベル1 | 反応(Reaction) | 研修内容に対する満足度を測ります。受講直後のアンケートで「内容は有益だったか」などを確認します。 |
---|---|---|
レベル2 | 学習(Learning) | 知識やスキルの習熟度を測ります。理解度テストやレポートなどを通じて、学習目標の達成度を評価します。 |
レベル3 | 行動(Behavior) | 学習内容が実務で活かされているか(行動変容)を測ります。上司や同僚へのヒアリング、または本人の自己評価によって評価します。 |
レベル4 | 結果(Results) | 行動変容が組織の成果にどう結びついたかを測ります。生産性や顧客満足度、売上といった具体的なビジネス指標の変化を評価します。 |
これらの4段階で多角的に効果を測定することで、eラーニングの課題を具体的に特定し、より効果的な施策へと改善していくことが可能です。
効果測定の方法については、下記の記事で詳しく紹介しています。
研修の効果測定とは、研修の成果を「見える化」し、研修目標の達成度を確認することです。研修を含む人事施策への社内の理解を得…
eラーニングの効果を最大化するための3つの柱
eラーニングは、ただ導入するだけでは効果を発揮しません。学習効果を最大化するには、「質の高いコンテンツ」「効果的な学習法」「学習を支える文化」の3つの柱を意識することが不可欠です。ここでは、それぞれの柱で押さえるべきポイントを具体的に解説します。
【第1の柱】質の高いコンテンツ
まず最も重要なのは、学習のコアとなるコンテンツ(教材)そのものの質です。ここではeラーニングコンテンツの「質」を高めるポイントをご紹介します。
マイクロラーニング教材
マイクロラーニング教材とは、5〜10分の短い動画で、隙間時間に学べる学習コンテンツです。イラストや動画で短時間でもわかりやすく学べる工夫が施されており、効率的に学習することができます。
マイクロラーニング教材のような「効率的に学べる教材が用意されているかどうか」は、eラーニングの効果を最大化するうえで重要なポイントです。
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興味に応じて学べるバリエーション
学習ニーズに応える教材を用意することで、従業員は自身のキャリアプランに必要なスキルを補ったり、知的好奇心を満たすために新しい分野を学んだり、といった主体的な学習が可能になります。
近年では、多種多様な教材コンテンツが揃った「学び放題」のeラーニングサービスも充実していますので、こうしたプラットフォームを活用することも効果的です。
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自社の事例や独自要素を盛り込んだオリジナル教材
教材に自社オリジナルの要素を加えたり、一から自社オリジナル教材を作成することで、より業務に密接した内容を提供できます。
オリジナル教材を作成するには、(1)教材作成ツールを利用する(2)既存の教材の一部を自社用にカスタマイズする(3)完全オリジナル教材をオーダーする の3つの方法があります。近年は、こうしたオリジナル教材の作成に力を入れる企業も増えてきています。
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【第2の柱】効果的な学習法
eラーニングは、集合研修など他の学習方法と組み合わせることで効果が飛躍的に高まります。この、複数の学習方法を戦略的に組み合わせる手法をブレンディッドラーニングと呼びます。
例えばブレンディッドラーニングの方法の一つに、反転授業が挙げられます。まずeラーニングで基礎知識をインプットし、その知識を前提として、集合研修ではケーススタディを用いたディスカッションやロールプレイングといった実践的な演習に集中します。
知識のインプットはeラーニングで効率的に行い、貴重な集合研修の時間はスキルを定着させるための実践や対話に充てる。このような戦略的な設計によって、学習効果を最大化できるのです。
【第3の柱】学習を支える文化
質の高いコンテンツを用意しても、従業員の意欲が続かなければ意味がありません。学習は「個人の頑張り」だけに依存させず、次のような方法で会社として学習を支援し、奨励する文化を育てることが重要です。
コミュニティの活用
LMS(学習管理システム)の掲示板や社内SNSの専用チャンネルなどを活用し、受講者同士が質問したり学びを共有したりできる場を作ります。学習中の孤独感をなくし、仲間と支え合うことでモチベーションを維持しやすくなります。
ゲーミフィケーションによる動機付け
復習テストの満点や重要項目の再視聴に対して、バッジやポイントといったインセンティブを与える「ゲーミフィケーション」も有効です。学習そのものを楽しめる工夫が、継続を後押しします。
上司や現場の関与
「研修は人事任せ」にせず、現場の上司が1on1などで学習の進捗について触れたり、業務の中で実践を促したりすることも大切です。現場からのポジティブな働きかけが、学習と実務を結びつけます。
3つの柱を支える「LMS(学習管理システム)」
上記で紹介した3つの柱を実行し、その効果を最大化するための技術的な土台となるのがLMS(学習管理システム)です。
LMSは、質の高いコンテンツを安定的に届け、ブレンディッドラーニングの進捗を一元管理し、人事担当者の負荷を軽減します。さらに、コミュニティやゲーミフィケーション、上司によるフォローといった学習文化を支える仕組みを提供し、eラーニングの成功を確かなものにします。自社に合ったLMSを戦略的に活用することが、eラーニング効果最大化の鍵といえるでしょう。
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「効果がない」と言われるeラーニング活用のNGパターン
「eラーニングは効果がない」と言われる場合、その多くは設計・運用・活用方法に課題があるケースです。以下に、eラーニングの効果が出にくい典型的な活用パターンを紹介します。
受講義務化だけで「やらせっぱなし」
「とりあえずeラーニングを受講させること」が目的となり、学習内容の理解や実践への活用につながっていないパターンです。受講が形骸化してしまうと、知識の定着やスキルの向上といった本来の効果は期待できません。
eラーニングの効果を高めるには、「やらせっぱなし」にせず、進捗の可視化や理解度に応じたフィードバックを行い、必要に応じてフォローアップを行うなど、学習を支援する体制の構築が不可欠です。
業務と学習内容が乖離している
eラーニングコンテンツの内容が、実務や現場で必要とされるスキルに合っていないパターンです。業務に直結しない抽象的な内容や汎用的すぎる教材では、学習効果を実感しにくく、モチベーション低下にもつながります。
eラーニングで効果的な学習を実現するには、業務フローや職種ごとのスキル要件と連動したカリキュラム設計が重要です。現場のニーズを踏まえた具体的・実践的な内容にすることで、業務への応用と学習成果の定着が期待できます。
一方通行のコンテンツのみで構成されている
動画視聴やテキスト読み上げといった一方向的な情報提供だけでは、受講者が受け身になりやすく、学習効果が十分に得られません。「見て終わる」「聞いて流す」だけの学習では、理解が深まらず、記憶も定着しにくい傾向にあります。
学習効果を高めるには、クイズや演習問題、シナリオ形式のケーススタディなど、受講者が自ら考え、判断しながら学ぶ仕組みを組み込むことが効果的です。こうした参加型のコンテンツを取り入れることで、理解が深まり、実践的なスキルも養いやすくなります。
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eラーニングで効果を挙げた企業事例
eラーニングの活用により、企業の業績にポジティブな効果を挙げた事例を2つご紹介します。
オートバックス様|地道な運用が学習文化を醸成し、客単価と離職率を改善
導入の背景
オートバックス様では、集合研修における「講師不足」「研修中の店舗人員不足」「OJT時間の不足」といった課題から、従来の教育に限界を感じていました。そこで、接客や商品知識に関するeラーニング教材を開発し、体系的な教育の展開を開始しました。
見えてきた効果
eラーニング導入後、カークパトリックモデルに基づき、全4段階での効果測定を実施しました。
レベル3(行動変容)では、店員の行動を確認すべく店舗ごとの覆面調査を行った結果、eラーニング修了者が多い店舗ほど、接客や商品知識、店舗印象などの項目で評価点数が高いという結果が出ました。
レベル4(業績)では、370店舗を対象に、eラーニングの修了状況と客単価・売上の相関を分析しています。その結果、eラーニング修了者が多い店舗とそうでない店舗とでは、平均客単価に1,241円もの差が出たことがわかりました。1

eラーニング利用上位店舗と下位店舗の平均客単価・売上推移比較2
さらに、この検証では、しっかり学習を行っている店舗とそうではない店舗では、離職率がそれぞれ54.9%、22.0%と、大きな差があることも分かりました。これは、eラーニングによる学習が、仕事の面白さや達成感、自身の成長の実感などにつながったためと推測されます。
成功の理由
これほどの成果を挙げられた背景には、学習を促進するための地道な運用努力がありました。
当時、店舗の90%がフランチャイズであり、eラーニングの学習成果を時給などに反映することはできませんでした。そこで、学習推進ポスターの配布や、全タイトル合格者への記念バッジ・お菓子の贈呈、eラーニングの修了レベルに応じた社内資格制度の創設など、学習意欲を高めるための様々な施策を粘り強く実施しました。
eラーニングの学習効果を業績につなげるには、教材の質だけでなく、従業員を巻き込む運用面の工夫がいかに重要かを物語る事例です。
JXTGエネルギー(現:ENEOS)様|現場のニーズに応える教材が、販売スキルと業績を向上
導入の背景
JXTGエネルギー(現:ENEOS)様では当時、ガソリン以外の商品・サービスの販売力強化が課題でした。しかし、国内11,000店を超える店舗スタッフに、均質な教育を届けることは容易ではありません。
そこで、eラーニングを用いて「スタッフに教育すべきスキル・商品知識の標準化」と「学習機会の均等化」を図り、オペレーションレベルの底上げによる顧客満足と売上向上を目指しました。
見えてきた効果
JXTGエネルギー様はまず、エンジンオイルの教材を開発し、500店舗を対象に試験運用を行いました。効果検証では、カークパトリックの4段階評価モデル全てのレベルについて調査を行いましたが、ここではレベル4(業績)の結果をご紹介します。

エンジンオイルの販売量推移(ENEOS様調べ)
例年、5月は大型連休の影響で販売量が増加しますが、6月はその反動で減少傾向に転じ、前年度の水準を維持するのがやっとのところだそうです。しかし、この年の6月、「eラーニング実施店」の前年度比は15%増となっており、その差は「eラーニング未実施店」と比べても有意です。
このことから、eラーニングによるエンジンオイルに関する学習が、販売量の増加につながったものと考えられます。
その後、タイヤやバッテリーについても同様の比較を行った結果、いずれにおいてもeラーニング受講店の粗利益の伸び率が、未受講店を明らかに上回りました。

粗利伸び率の昨対比(ENEOS様調べ)
成功の理由
成功の鍵は、現場スタッフがすぐに役立つと実感できる教材ラインナップをそろえたことです。商品知識だけでなく、顧客満足(CS)経営の基礎まで含めた教材を用意したことで、効果検証の中のアンケートでも「自信がついた」「お客様へのおすすめの仕方が分かった」といったポジティブな声が多数寄せられました。
現場の課題とニーズに的確に応えるコンテンツを提供することが、スタッフの学習意欲と行動変容を引き出し、目に見える業績向上に結びついた好例と言えるでしょう。
※所属は取材当時のもの 施策の効果 eラーニングを受講しないと店頭には立てません。販売オペレーション、タイヤや…
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まとめ
eラーニングは、コスト削減という分かりやすいメリットの裏で、その学習効果が懐疑的に見られることも少なくありません。しかし、その成否は「どう活用するか」にかかっています。
成功の鍵は、「質の高いコンテンツ」「効果的な学習法」「学習を支える文化」という3つの柱をバランスよく実行することです。
まず、カークパトリックモデルのようなフレームワークを用いて学習効果を多角的に「見える化」し、改善につなげることが重要です。そのうえで、本記事でご紹介したような質の高いコンテンツやブレンディッドラーニングといった手法、そして学習者を支える文化を組み合わせることで、eラーニングの効果を最大限に引き出せます。
今回ご紹介した成功事例のように、eラーニングは従業員のスキルアップだけでなく、企業の業績や従業員エンゲージメントの向上にも直接的に貢献するポテンシャルを秘めています。本記事が、貴社の人材育成プランを成功に導く一助となれば幸いです。
<参考文献>
・Kirkpatrick, Donald L, Evaluating Training Programs, Alexandria, VA, American Society for Training and Development, p.1, 1975.
・石井幸雄・小迫宏行(2001)「オートバックスにおけるe-ラーニングを活用した企業内教育」『教育システム情報学会誌』vol.18,no.3/4,教育システム情報学会.
・橋本真治・小迫宏行(2009)「eラーニング教材を使った学習成果が企業業績に及ぼす影響」『教育システム情報学研究報告 eラーニング環境のデザインとHRD(Human Resource Development)/一般』vol.24,no.4,pp.46-49,教育システム情報学会.