セールスイネーブルメントとは?ナレッジマネジメントが成功の鍵!
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OECDの調査によると、日本は過去50年間、G7諸国の中で労働生産性が最下位の状態が続いています[1]。
また、日本企業は競合のグローバル企業と比較して営業ROI(営業活動にかかるコストに対して何倍の粗利が得られるかを表す指標)が低く、営業の効率性に根本的な課題を抱えているケースも少なくありません。
このような課題に対して有効な取り組みがセールスイネーブルメントです。セールスイネーブルメントは、営業チームが継続的に成果を上げられるようチームの強化・改善を図る取り組みを指します。
このセールスイネーブルメントを支えるのが、個人が持っている知識やノウハウを収集し、組織内で効果的に共有するナレッジマネジメントです。
本記事では、これら2つの概念がどのように連携し、営業チームの強化・改善につながるかを、実際の事例も交えて解説します。
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目次
1. セールスイネーブルメントとは
セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは、営業チームがより効率的かつ効果的に営業活動を進めて成果を上げるために、営業力を強化し、営業チーム全体のパフォーマンス向上を目指す取り組みです。
具体的には、適切な教育の提供、営業活動に必要な資料や知識の共有、ツールを用いたデータ収集・分析による営業プロセスの可視化・改善などが挙げられます。
つまり、セールスイネーブルメントは組織全体での知識の共有や活用を促進し、営業プロセス全体を最適化する包括的なアプローチといえるでしょう。
1-1. セールスイネーブルメントとナレッジマネジメントの重要性
セールスイネーブルメントでは、営業チームの人材育成やチーム体制などについてさまざまな策を講じ、チーム全体の底上げを図ります。
一方ナレッジマネジメントは、個人が蓄積した知識やノウハウ(=ナレッジ)をデータ化して組織内で共有し、有効活用することで組織全体のパフォーマンス向上を図る手法です。
これをセールスイネーブルメントに取り入れることにより、営業チーム内で属人化していた知識やノウハウを共有することができます。さらに、データの一元管理によって、最新の製品知識や市場動向、競合情報などの重要なデータへのアクセスもしやすくなります。
ナレッジマネジメントによる知識共有のメリットは多岐にわたります。営業チームは常に更新される情報に基づいて行動することができるため、顧客との信頼関係構築や顧客への提案の精度向上に役立ちます。
また、チーム間のコミュニケーションが促進されるとともに、全員が一貫した情報を持って顧客対応に当たることが可能です。
このように、セールスイネーブルメントとナレッジマネジメントは密接に関連しており、どちらも営業成績の向上に有効な施策です。それぞれの役割を理解し、適切に組み合わせることがセールスイネーブルメント成功への鍵となるでしょう。
1-2. ナレッジマネジメントが果たす役割
ナレッジマネジメントがセールスイネーブルメントにおいて果たす役割は、非常に重要です。主に以下のような役割が挙げられます。
役割 |
説明 |
情報の集約 |
市場動向、競合情報、製品知識など、分散している情報を一元化する |
アクセスの容易化 |
営業チームが必要な情報にいつでも迅速にアクセスできるようにする |
知識の更新と共有 |
最新の情報を共有し、営業チームが常に更新された知識を持って顧客対応ができるようにする |
このように、ナレッジマネジメントは、セールスイネーブルメントを成功に導くための基盤となります。
情報が整理され、アクセスしやすい状態であればあるほど、営業チームはより一層効果的に顧客の課題解決に取り組むことができます。結果として、顧客満足度の向上と売り上げの増加につながるのです。
1-3. 知識共有のメリット
知識共有は、セールスイネーブルメントを成功させるために不可欠です。以下に、知識共有の主なメリットをまとめました。
メリット |
説明 |
効率の向上 |
全員が必要な情報を素早く見つけることができる |
セールスの加速 |
正しい情報が迅速に提供されることで、セールスサイクルが短縮される |
知識の均一化 |
全員が同じレベルの知識やノウハウを共有し、質の高い対応が可能になる |
営業チーム全体で知識やノウハウを共有できれば、質が高く一貫性のある顧客対応を提供することが可能となります。特に、営業チームが現場で得た教訓や成功事例を共有することで、チーム全体が同じ失敗を避け、成功事例を迅速に模倣することができるでしょう。
さらに、オンボーディング(新しいメンバーが早期に組織になじみ、能力を発揮できるようにするための取り組み)もスムーズに進みます。
このように、知識共有は営業チーム全体のパフォーマンスを向上させることにつながり、セールスイネーブルメントの成功を後押しします。
2. セールスイネーブルメントを成功させる4ステップ
セールスイネーブルメントを成功に導く鍵は、ナレッジマネジメントの適切な実施にあります。ナレッジマネジメントを活用したセールスイネーブルメントの進め方を、4つのステップに整理しました。
2-1. ステップ1:データの収集と整理
セールスイネーブルメントを成功させる第一歩として、データの収集と整理が重要になります。
まず、営業活動に関わるさまざまなデータを収集します。顧客情報、市場分析、競合情報、製品仕様などが含まれます。
収集したデータは、適切に整理してアクセスしやすくする必要があります。データをカテゴリー別に分類し、重要な情報がすぐに見つかるようなシステムを構築することがポイントです。例えば、以下のような分類が考えられます。
カテゴリー |
内容例 |
顧客情報 |
企業名、購買履歴、商談履歴など |
市場分析 |
業界トレンド、顧客ニーズ、市場成長率など |
競合情報 |
製品比較、価格比較、市場シェアなど |
製品仕様 |
特長、価格、使用方法など |
整理されたデータは、営業チームが迅速に情報を入手し、顧客ニーズに合わせた提案を行うための基盤となります。これにより、営業プロセスが効率化され、成果につながる可能性が高まります。
2-2. ステップ2:知識共有のためのプラットフォーム選定
知識共有のためのプラットフォーム選定では、以下のポイントを考慮しましょう。
- アクセシビリティ:プラットフォームにいつでも、どこからでもアクセス可能か
- ユーザーフレンドリー:利用者が直感的に操作でき、迅速に目的の情報を見つけられる設計か
- セキュリティ:暗号化やアクセス権限の設定など、情報保護機能は整っているか
- カスタマイズ性:組織のニーズに合わせてカスタマイズできる柔軟性があるか
市場には多種多様なプラットフォームが存在します。これらのポイントを踏まえ、企業に合ったプラットフォームを選定することで、知識の共有と活用がスムーズになり、営業チームのパフォーマンス向上を促進します。
また、ナレッジマネジメントを効率化するツールを活用し、情報を共有するのもおすすめです。代表的なナレッジマネジメントツールの種類と特徴をまとめました。
種類 |
説明 |
グループウェア |
資料・スケジュールなどの作成や共有、チャットなどの機能を備え、従業員間の情報共有をサポートする |
社内FAQ(エンタープライズサーチ) |
検索サーチの企業内版で、企業内のデータを、保管場所を問わず横断的に検索することができる |
社内SNS |
簡単な操作で情報を発信でき、スマホからも利用できるものが多いので、従業員間で手軽に情報共有ができる |
顧客管理システム(CRM) |
顧客情報や商談状況などを一元管理し、営業チーム全体で共有することができる |
2-3. ステップ3:コンテンツの作成と管理
営業チームが利用する資料は、営業プロセスに見合った最新のものでなければなりません。効率的な資料作成と管理のコツを4つにまとめました。
知識・情報のカテゴリー分けと体系化
製品知識、市場分析、競合情報など、重要な知識・情報をカテゴリー分けし、アクセスしやすい形で整理します。
情報の継続的な更新体制の構築
市場や製品の変化に応じて、情報を継続的に更新する体制を整備します。コンテンツ管理システム(CMS)の活用が有効です。
社内ポータルやデータベースの活用
営業チームが容易に情報を取得できるよう、内部ポータルやデータベースを活用します。その際、キーワード・タグ付けなどで検索性を高めるとよいでしょう。
コンテンツの評価と見直し
コンテンツの使用効果を定期的に評価し、コンテンツ内容を見直しましょう。具体的には、営業チームからのフィードバック収集やコンテンツ利用状況の分析などを行い、営業チームや市場の状況に合ったコンテンツへとアップデートします。
以上のコツを踏まえて、資料の作成・管理を進めていきましょう。
2-4. ステップ4:ナレッジの活用と実践
ナレッジマネジメントを活用したセールスイネーブルメントにおいて、ナレッジの活用と実践は非常に重要なステップです。まず、収集・整理されたデータや知識を実際の営業活動にどのように活用するか、検討する必要があります。
ナレッジの活用場面
- セールスミーティング:製品やサービスに関する詳細情報、成功・失敗事例などを共有し、営業活動の質を高めます。
- トレーニング:営業スキル向上のため、ナレッジを反映したトレーニングプログラムを実施します。
- コンテンツ・資料:営業マニュアルやトークスクリプトなど、ナレッジを基にしたコンテンツや資料を作成し、効率的な営業プロセスを営業チームの誰もが行えるようにします。
ナレッジの実践ポイント
- 継続的な更新:市場や製品に関する情報は常に変化しているため、ナレッジの継続的な更新が必要です。
- フィードバックの活用:営業チームからのフィードバックを収集し、ナレッジの活用方法の改善に役立てます。
このように、ナレッジを営業活動に生かすことで、営業チームのパフォーマンスや顧客満足度の向上が期待できます。
3. ナレッジマネジメントを活用したセールスイネーブルメント事例
ここでは、ナレッジマネジメントを活用したセールスイネーブルメントの成功事例を紹介します。
不動産事業を展開する株式会社テンポイノベーションは、営業部門の新入社員研修に動画教材を採用し、早期戦力化と定着率向上、研修担当者の負担軽減を実現しました。
動画教材の導入前は、新入社員の研修に約100時間を費やしており、研修担当者である管理職の負担は大きなものでした。結果的に、研修と自身の業務の両方がおろそかになるケースや、新入社員のケアやフォローが不十分になってしまう事態につながっていたのです。
そこで、株式会社ライトワークスにアニメーションを活用した動画教材の制作を依頼。社内に点在する営業ナレッジを体系的に整理し、約300本の動画教材として導入しました。
動画教材にアニメーションを活用することで、イメージの行き違いや説明コストが激減し、研修担当者の負荷も大幅に軽減できたのです。
動画教材の導入以前は、新入社員から「分からないことがあっても、何回も聞くのは申し訳ないと思った」という声がありました。その点、動画教材なら自分のタイミングで何度でも復習できるため、学びやすさも向上しました。
さらに、研修担当者が研修実施に費やしていた時間を新入社員のサポートやケアに回すことで、新入社員の理解レベルや解釈の方向性を丁寧に確認できるようになり、定着率も向上。「動画教材で人材育成の基礎を築けた」といいます。
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4. セールスイネーブルメントを成功させるナレッジマネジメントのテクニック
セールスイネーブルメントを成功させるためには、ナレッジマネジメントを効果的に活用するテクニックを取り入れることが有効です。
コンテンツの定期的な評価と更新
市場の状況や競合情報は絶えず変化しているため、知識を常に最新の状態に保つことが不可欠です。営業チーム内で定期的にコンテンツを評価し、必要に応じてアップデートする体制を整えましょう。情報の陳腐化を防ぎ、最新の知識を共有できます。
インタラクティブな学習ツールの活用
知識の理解と定着の向上には、単に文書やマニュアルを読むだけでなく、テストやアンケートを提出したり、質問や意見交換をしたりする形で知識を共有・学習することが有効です。
eラーニングシステムなどのインタラクティブな学習ツールを活用することで、各人がいつでも何度でも学べる環境を提供でき、知識の定着が促進されます。
社内SNSやグループウェアなどによる知識共有の促進
社内SNSやグループウェアなどを活用することで、知識の共有とコミュニケーションを促進できます。従業員間で疑問や成功体験などが素早く共有されれば、営業チーム全体のスキルアップにつながるでしょう。また、従業員間の知識共有だけでなく、コミュニケーションの活性化にも役立ちます。
これらのテクニックを取り入れながらナレッジマネジメントを行うことで、より効率的で効果的なセールスイネーブルメントが可能になります。
5. 今後のセールスイネーブルメントとナレッジマネジメントの展望
今後のセールスイネーブルメントとナレッジマネジメントでは、AI(Artificial Intelligence:人工知能)や機械学習の活用により、より洗練された知識共有が可能になるでしょう。特に、リアルタイムでのデータ分析やパーソナライズされたコンテンツの提供が期待されます。
【今後の展望】
- AIや機械学習による知識の自動分類・タグ付け
- AIや機械学習による効果的な営業戦略の提案
- VR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)を活用したトレーニング
進歩する技術をうまく利用できれば、営業チームは顧客に合ったよりきめ細やかな対応が可能になり、ナレッジマネジメントも一層効率化するでしょう。
例えばAIを組み込んだCRMには、精度の高い需要予測や売り上げ予測を立てられたり、Web上の顧客関連情報を自動収集したりすることができるものがあります。これにより、営業活動の大幅な効率化が期待できます。
また、VRやARを活用したトレーニングツールが普及することで、知識の体験型学習が可能になります。これによって、顧客とのコミュニケーション方法や製品知識などをより実践的かつ効率的に習得することができるでしょう。
6. まとめ
本記事では、セールスイネーブルメントの概要やセールスイネーブルメントの成功にナレッジマネジメントが果たす重要な役割などについて解説しました。
セールスイネーブルメントとは、営業チームがより成果を上げるためにチーム全体のパフォーマンス向上を目指す取り組みです。
セールスイネーブルメントにおけるナレッジマネジメントの主な役割は以下の通りです。
- 情報の集約
- アクセスの容易化
- 知識の更新と共有
セールスイネーブルメントの成功には知識共有が重要です。知識共有の主なメリットは以下が挙げられます。
- 効率の向上
- セールスの加速
- 知識の均一化
ナレッジマネジメントを活用したセールスイネーブルメントの進め方は、以下の4ステップに整理できます。
- ステップ1:データの収集と整理
- ステップ2:知識共有のためのプラットフォーム選定
- ステップ3:コンテンツの作成と管理
- ステップ4:ナレッジの活用と実践
さらに、ナレッジマネジメントを効果的に活用する以下のテクニックを取り入れることも有効です。
- コンテンツの定期的な評価と更新
- インタラクティブな学習ツールの活用
- 社内SNSやグループウェアなどによる知識共有の促進
実際にナレッジマネジメントを活用したセールスイネーブルメントを実施、成功した事例として、株式会社テンポイノベーションを紹介しました。
今後のセールスイネーブルメントとナレッジマネジメントは、AIや機械学習、VR、ARなどのテクノロジーの活用により、自動化やパーソナライズ化、体験型学習の普及が加速すると考えられます。
ナレッジマネジメントの自動化により、セールスチームがより戦略的な活動に集中できるようになることが期待されます。未来では、これらの技術がセールスイネーブルメントの成功をさらに後押しすることでしょう。
[1] 公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2023 概要」,2023年12月22日公表,P2-3,(閲覧日:2024年6月12日)