ナレッジマネジメントで業務効率化!成功のポイント、事例も解説
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ナレッジマネジメントとは、個人が持つ知識や経験を組織全体で共有し、活用することで企業の業績アップを目指す経営手法です。
従来に比べて雇用形態・勤務形態が多様化している中、従業員同士の情報共有や継承が難しい場合も多くなっています。
そこで近年、ナレッジマネジメントが優秀な従業員やベテランの知識を企業内で共有・活用し、業務効率化を図る方法の一つとして注目されています。
この記事では、ナレッジマネジメントの基礎知識や、ナレッジマネジメントを成功させるポイント、企業の導入事例などを紹介します。
目次
1. ナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメント(knowledge management)とは、個人が持つ知識や経験を組織全体で共有し活用することで、企業の業績アップを目指す経営手法です。
個人が持つノウハウや経験、顧客情報などを企業内で共有することで、業務の効率化や新たなイノベーションの発生が期待できます。
2. ナレッジマネジメントが注目される理由
実は、「ナレッジマネジメント」は新しい概念ではありません。朝礼やミーティングでの情報共有は昔から多くの企業で取り入れられており、これらもナレッジマネジメントに該当します。
では、なぜ今、ナレッジマネジメントが注目されているのでしょうか。以下のような理由が考えられます。
- 働き方改革
- 人材の流動化や働き方の多様化
- IT技術の進歩
2-1. 働き方改革
働き方改革では、残業規制による長時間労働の是正や、フレックスタイム制・勤務間インターバル制度による多様で柔軟な勤務ができるような環境整備が推進されています。
企業側には、今までより少ない時間と労力で、今までと同等かそれ以上の成果を出し続けることが求められ、生産性向上が避けられない課題となっています。
そこでナレッジマネジメントにより、業務についての知識を従業員間で共有し、手法を学ぶだけでなく改善方法や新たな手法を発見することで、業務効率化や時間短縮をはかり、生産性を向上させようとしているのです。
関連 ▶ 生産性向上とは 働き方改革で必須 事例や公的助成金・優遇税制を解説(弊社ブログサイトへ移動します)
2-2. 人材の流動化や働き方の多様化
終身雇用制度が崩壊しつつある近年では、必ずしもひとつの企業に定年まで勤め上げるとは限らない状態になり、従業員の入れ替わりが頻繁に起こっています。
また、働き方の選択肢が増え、フレックスタイム制の利用やテレワークをする従業員もおり、教える側と習う側が一緒の場にいることが前提のOJTが難しくなっています。先輩の「暗黙知」が若手へ自然に継承される環境が少なくなり、従来の「見て覚える」ナレッジマネジメントが通用しなくなっているのです。
これらのことから、暗黙知をマニュアルなどの形式知に変換し、蓄積・活用していく必要性が高まりました。
2-3. IT技術の進歩
以前は、暗黙知を形式知化する方法はそれほど充実してはいませんでした。しかし現在は、統計学やAIの導入が進み、情報の蓄積や共有がより簡単にできるようになっています。
IT技術の進歩も目覚ましく、効果的に情報共有ができるツールも多く開発され、広まっています(6章参照)。IT技術を利用することで、従来はOJTにより時間をかけて自然に継承されてきた暗黙知を、より短い時間で、効率的に継承することができるようになりました。
変化が激しく先行き不透明な社会の中では、効率的に知識をデータ化して蓄積・活用し、新たな価値を創造することにより企業の競争力を高めていくことが不可欠です。今後、ITを活用したナレッジマネジメントはますます重要性を増してくるでしょう。
3. ナレッジマネジメントのメリット
企業がナレッジマネジメントを導入するメリットは、以下のようなものがあります。
- 生産性向上
- 企業競争力の強化
- 業務の属人化を防ぐ
3-1. 生産性向上
個人が持つ顧客情報や機械操作のコツ、接客対応などの情報をデータベースやマニュアルに落とし込むことで、誰でもその情報を得ることができ、スムーズに業務をこなせるようになります。
例えば、「複数の営業担当者が同一の顧客に営業をかけていた」「機械操作のコツを知らないために作業の時間がかかりすぎていた」ということがなくなり、業務効率化、時間短縮が可能になり、生産性向上につながります。
3-2. 企業競争力の強化
ナレッジマネジメントの導入により、企業内の誰でも必要な情報にアクセスできるようになります。若手従業員でもベテランのノウハウを均一に取り入れられるため、個人のスキルアップはもちろん、企業全体として能力が底上げされます。
また、例えば、営業部員が技術部の情報を参照したり、技術部員が販売事業に関する情報を入手したりできるため、部署間の情報共有・交換が活発になります。複数の部署が関わることで新しいアイディアも生まれやすくなり、企業競争力が高まります。
3-3. 業務の属人化を防ぐ
業務において「この仕事はこの人に全て任せている」という属人化は少なくないでしょう。しかし、その従業員がいなくなった時に、一から同レベルの人材を育成するには多大な労力と時間がかかってしまいます。
近年、ノウハウを持ったベテランの退職や、テレワークやフレックス制を前提にした勤務形態が広まっています。そのため業務の継承がうまくいかないリスクが高くなっており、属人化を防ぐことは重要です。ナレッジマネジメントにより普段から情報共有をしておけば、このリスクを避けることができます。
人材の流動性が高い業界や、働き方改革により生産性向上が求められる環境においては、ナレッジマネジメントによるメリットは、より大きくなるでしょう。
4. ナレッジマネジメントの基礎理論
ナレッジマネジメントの理解を深めるには、以下のナレッジマネジメントの基礎理論について知っておくことが必要です。
- 形式知と暗黙知
- SECIモデル
4-1. 形式知と暗黙知
ナレッジマネジメントでいう「ナレッジ」には以下の2種類があります。
形式知:明確な数値やマニュアル等の文書、データ化された知識
暗黙知:ベテランや優秀な従業員の「カン」や「コツ」、経験から培われたノウハウなど、明確に表すことが難しい知識
ナレッジマネジメントでは、感覚的な知識である暗黙知をいかにして形式知化し、共有するのかがポイントになります。
4-2. SECIモデル
ナレッジマネジメントの第一人者である一橋大学の野中郁次郎教授は、SECI(セキ)モデルという基礎理論を提唱しています。以下の4つのスパイラルによって知識の集積と新しい価値の創出を繰り返し、組織の財産となる知識を築いていきます。
①共同化 (Socialization)(暗黙知→暗黙知)
共同化は、共通体験を通じて個人の暗黙知を互いに共感し合う段階です。ここでは暗黙知は暗黙知として伝えられます。例えば、ベテラン従業員の感覚的な「カン」や「コツ」について、「先輩の背中を見て覚える」、「技術を盗む」という状況です。
②表出化 (Externalization)(暗黙知→形式知)
表出化は、共通の暗黙知から、明示的な言葉や図で表現された形式知としてのコンセプトを創造する段階で、暗黙知から形式知へ変換し共有します。例えば「カン」や「コツ」をマニュアルに落とし込んで可視化し、誰でも参照できるようにします。
③連結化 (Combination)(形式知→形式知)
連結化は、既存の形式知と新しい形式知を組み合わせて体系的な形式知を創造する段階です。例えば古いマニュアルを更新したり、システムを追加して効率化したりします。そこでさらに新しいアイディアが出たりもするでしょう。集積された知識を実際に活用し、新たなイノベーションも発生するプロセスです。
④内面化 (Internalization)(形式知→暗黙知)
内面化は、体系的な形式知を実際に体験することによって身に付け、暗黙知として体化する段階です。例えば、連結化で更新されたマニュアルを実践して、共同化の「カン」や「コツ」を体得し、自分のものにしていきます。その過程で自身の中に新たな暗黙知が生まれ、共同化に戻ります。
この4つのプロセスは、単なるサイクルではなく、既述のとおりスパイラルです。このスパイラルが個人→グループ→組織へと、互いに影響を与えながら拡がり、企業を強くしていきます。また、内面化を繰り返すたびに個人の知識レベルが向上し、ナレッジワーカーの育成にも貢献するでしょう。
ナレッジワーカーとは、専門的な知識や高度な知恵を活かして新しい価値を創り出す労働者のことです。「知識労働者」とも言われ、変化の速い今の社会に求められています。
5. ナレッジマネジメントを成功させるポイント
ナレッジマネジメントを成功させるには、以下のようなポイントがあります。
- 従業員へ必要性を周知
- 知識の集積だけで終わらせない
- 利用しやすいシステムの構築
5-1. 従業員へ必要性を周知
新しいシステムや考え方を全社に浸透させるには、従業員への周知が重要です。従業員によっては、自身が努力して習得した知識やノウハウを、誰にも教えたくないと考えることもあり得ます。
逆に、自身の知識を取るに足らないものと思い、形式知化することを考えすらしない場合もあります。このようなことを防ぐには、ナレッジマネジメントの目的や重要性、メリットを周知し、従業員が理解・納得したうえで取り組む必要があります。
5-2. 知識の集積だけで終わらせない
ナレッジマネジメントの目的は、知識を集積することではありません。集積した知識を活用して循環させ、知のスパイラルを創り出していくことです(4-2参照)。
そのため、知識をデータベース化やマニュアル化したところで満足せず、積極的に活用できる方法や仕組みを検討することが重要になります。
5-3. 利用しやすいシステムの構築
知識を集積する際、どのような情報を集積するのかも重要なポイントです。何でもかんでも情報共有していては、本当に必要な情報が埋もれてしまいます。
「どのような情報を共有するか」「どのような知識が有益なのか」「収集する情報の優先順位は」というような精査が必要です。
また、いくら情報量の多いデータベースでも、「必要な情報を見つけにくい」「情報を得るのに時間がかかる」状態では、利用するのが面倒になるばかりか、生産性が低下してしまいます。従業員それぞれが、どこにいてもスピーディに必要な情報にアクセスできるシステムが必要です。
どのようなナレッジマネジメントが最適かというのは、企業によって千差万別です。次章でナレッジの管理に利用できるツールを紹介しますので、自社に合ったシステム選びの際に、ぜひ参考にしてみてください。
6. ナレッジマネジメントのツール
ナレッジマネジメントを効率的に行うには、少なからずツールやシステムが必要となります。ナレッジマネジメントツールの種類には、主に以下のようなものがあります。知識の共有や活用の目的や仕方に応じて、必要なツール・システムを利用しましょう。
- ドキュメント共有系(グループウェア)
- 顧客情報管理系(CRM)
- 分析基盤構築系(データウェアハウス)
- 社内FAQ系(エンタープライズサーチ)
- 社内SNS系
6-1. ドキュメント共有系「グループウェア」
グループウェアは文書やスケジュールなどの共有・管理のほか、メールやチャット、電子掲示板など、文書やデータを共有するためのさまざまな機能を持つシステムです。別称「ナレッジ共有ツール」とも呼ばれています。部署やチーム単位での情報共有・交流に最適です。
代表例:「Garoon」「Note PM」
6-2. 顧客情報管理系「CRM」
CRMは「Customer Relationship Management」の略称で、顧客情報の管理を目的としたツールです。
顧客の会社情報や取引の実績・傾向をデータ化・分析し、新たなサービスの提案や取引につなげていくことができます。また、異動などで営業担当者が変わっても、今までの取引の記録が残るため、スムーズに引き継ぐことができます。
代表例:「Zoho CRM」「Sales Cloud」
6-3. 分析基盤構築系「データウェアハウス」
データウェアハウスは、さまざまなソースからのデータを一元的に保管し、分析に適した形へ変換して蓄積していくためのツールです。データ分析基盤構築としての役割があり、ナレッジとなるデータを保存する「倉庫=ウェアハウス」のような場として活用できます。
数年分の膨大なデータを、時系列な並び替えやグルーピングなどにより整理して保存することもできます。蓄積された膨大なデータを分析可能にすることで、経営に重要な意思決定をサポートしてくれるツールです。
代表例:「Amazon Redshift」「b→dash」
6-4. 社内FAQ系「エンタープライズサーチ」
企業内の情報を検索できるシステムです。Google検索やYahoo!検索の企業内版といえます。通常のWeb検索と同様、キーワードで社内の情報を検索することができるため、効率よくスピーディに情報を得ることができます。
代表例:「Neuron ES」「Quick Solution」
6-5. 社内SNS系
先述のグループウェアと同様、さまざまな機能を持ちながら、特にコミュニケーションの活発化を促す側面が強いツールです。TwitterやLINEのような感覚で気軽にコミュニケーションをとることができるため、新しい情報を速く共有できるというメリットがあります。
代表例:「TUNAG」「ナレカン」
必要なツールをうまく組み合わせ、自社に最適なナレッジマネジメントを進めていきましょう。
7. ナレッジマネジメントの企業事例
ナレッジマネジメントは、企業ではどのように実践されているのでしょうか。2つの事例をご紹介します。
7-1. 株式会社大林組
株式会社大林組は、総合建設事業や地域開発事業などを展開する大手企業です。同社では、社内各部門が提供す約1万件もの技術資料をITツールで一元管理することにより、従業員に必要かつ十分な技術情報を、誰もがいつでも的確に活用できるシステムを構築しました。
このシステムは、エクセルなどの表計算ソフトによる既存の管理台帳を活用して横断的に検索することが可能で、トップページからワンクリックで表示するポータルサイトから、絞り込み機能とキーワード検索を組み合わせて、技術資料をすぐに取り出せる仕組みとなっています。
例えば、コンクリート工事の担当になった社員は、このシステムを使い、施工計画や品質管理、安全管理やVE提案といった複数ジャンルの技術資料群から「コンクリート工事」に該当するものを的確に入手することができます。
さらにその中から「強度」をキーワードとして絞り込むこともできます。一方、技術資料の管理部門では、使い慣れた表計算ソフトによる管理台帳を更新するだけで、資料の追加や変更ができ、メンテナンス業務の省力化が図れます。
このシステムにより、従業員の技術力向上を実現できただけでなく、施工品質や安全性の向上と事業の効率化を図ることができました。
7-2. 株式会社テンポイノベーション
株式会社テンポイノベーションは、店舗物件の転貸借に特化した不動産事業を展開する企業です。
同社の営業担当者の業務内容は多岐に渡り、新入社員が即戦力レベルに到達するまでに、これまでは2〜3年の時間を要していました。新入社員はその間、成果が出せずにモチベーションを下げてしまうケースが多く、定着率が不安定な状態でした。
一方、毎月2名ほど新入社員が入ってくるため研修担当者にとっても資料準備などの負荷が大きいものでした。
また、研修担当者によって説明の表現や言葉選びが変わってしまうことにより、受講者に伝わるニュアンスに違いが生じるといった課題もありました。
そこで同社は、新入社員の早期戦力化・定着率向上と、研修担当者の負担軽減を目指し、アニメーション動画を活用した体系的な新入社員研修教材を導入しました。導入においては社内に分散していたナレッジを整理し、300本の動画教材化をしました。
これにより新入社員の成長速度を速めることができ、研修の質を高いレベルで均一化できました。その結果として、新入社員の早期戦力化・定着率向上につなげることができました。
また、研修担当者の負担軽減を実現でき、教える部分にかかっていた時間を、新入社員のサポートやケアに回せるようになりました。
どちらの企業事例も、知識を集積するだけでなく、本当に有益な情報を抽出し、うまく活用できる環境を整え、成果につなげています。
8. まとめ
ナレッジマネジメントとは、個人が持つ知識や経験を組織全体で共有し、活用することで企業の業績アップを目指す経営手法です。
個人が持つノウハウや経験、顧客情報などを企業内で共有することで、業務の効率化や新たなイノベーションの発生が期待できます。
ナレッジには以下の2種類があります。
形式知:明確な数値や文書、データ化された知識
暗黙知:ベテランや優秀な従業員の「カン」や「コツ」、経験から培われたノウハウなど、明確に表すことが難しい知識
ナレッジマネジメントでは、感覚的な知識である暗黙知をいかにして形式知化し、共有するのかがポイントになります。
ナレッジマネジメントの第一人者である一橋大学の野中郁次郎教授は、SECIモデルという基礎理論を提唱しています。以下の4つのスパイラルによって知識の集積と新しい価値の創出を繰り返し、組織の財産となる知識を築いていきます。
①共同化 (Socialization)(暗黙知→暗黙知)
②表出化 (Externalization)(暗黙知→形式知)
③連結化 (Combination)(形式知→形式知)
④内面化 (Internalization)(形式知→暗黙知)
今、ナレッジマネジメントが注目されるのには、以下のような理由が考えられます。
- 働き方改革
- 人材の流動化や働き方の多様化
- IT技術の進歩
ナレッジマネジメントには、以下のようなメリットがあります。
- 生産性向上
- 企業競争力の強化
- 業務の属人化を防ぐ
ナレッジマネジメントを成功させるには、以下のようなポイントが考えられます。
- 従業員へ必要性を周知
- 知識の集積だけで終わらせない
- 利用しやすいシステムの構築
ナレッジマネジメントツールには、以下のようなものがあります。
- ドキュメント共有系(グループウェア)
- 顧客情報管理系(CRM)
- 分析基盤構築系(データウェアハウス)
- 社内FAQ系(エンタープライズサーチ)
- 社内SNS系
ナレッジマネジメントを取り入れた企業の事例として、2つご紹介しました。
- 株式会社大林組
- 株式会社テンポイノベーション
グローバル化やIT技術の革新など、変化が速く激しい時代になっています。この中で自社が成長し続けるために、より効率的・効果的な知識の活用について検討してみてはいかがでしょうか。
参考)
株式会社大林組,プレスリリース2011年 01月 14日, 技術情報の登録・検索システム「OC-ナレッジ(オーシーナレッジ)」を構築,https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20110114.html (閲覧日2024年6月11日)