【ウェビナーレポート 12/12開催】JTBの研修はなぜ「社員を動かす」のか~人的資本経営における人財育成の効果を最大化する仕組みとは~
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近年、人的資本経営の実践のため、多くの企業が研修を通して人への投資を行っています。その投資の効果を最大化するために重要なのは、研修を受けた社員に満足感を与えることではなく、研修を通して自律的な行動変容を起こすことです。
当社では、2023年12月12日、「人的資本経営における人財育成の効果を最大化する仕組みとは」と題して、株式会社JTB 中村 彰秀 様にご登壇いただき、ウェビナーを開催しました。
軸となるテーマは「環境変化に対応した人財育成戦略」、「人財開発の価値を向上させる具体的な仕組み」、「社員の自律を高めるための仕掛け」の3つです。
ウェビナーの後半には、当社社員が「ブレンディッドラーニング:集合研修をオンラインで運用する」についてご紹介させていただきました。
本稿では、このウェビナーの内容を詳しくお伝えします。
【開催概要】
開催日時:12月12日(火)11:00-12:15
費用:無料
形式:ウェビナー(Zoom)
スピーカー:株式会社JTB グループ本社 人財開発チーム シニアコンサルタント(企画担当) 中村 彰秀 氏
目次
環境変化に対応した人財育成戦略とは:事業ドメイン拡大に伴う人財育成の必要性
事業統合によって人事施策の必要性が高まる
JTBは2018年、地域別・事業別で独立していたグループ企業15社を経営統合しました。経営統合後もJTBが持続的に発展していくには、事業モデルの改革と同時に、社員の能力開発を行うことが不可欠でした。
なぜかというと、例えば、今までカウンターで個人のお客様の対応をしていた社員が、経営統合後は法人のお客様対応や教育旅行(修学旅行など)のフィールドで活躍するというように、今までと異なる環境で働くケースが出てくるからです。
つまり、働く環境が変わっても、社員が能力を発揮するための人事施策が必要になったわけです。
そこで、まずはカルチャー改革を経営基盤に据えました。経営統合まで別会社として成長してきたグループ会社同士で、カルチャーを合わせていこうという方針です。
「JTBならではの価値」を生み出すためのキャリア改革
その施策の一つとしてキャリア改革が行われました。キャリア改革で目指したのは、一人一人の自己発揮と自己実現に向かう力を掛け合わせ、「JTB ならではの価値」を創出・提供することです。
そのために重要なのが、社員一人一人の幸福を実現するキャリア自律と、会社のその時々のビジョンに合わせた経営方針の具体化です。この2つの成長ベクトルを合わせることにより、競争力の基盤強化が可能になると考えました。
さらにキャリア改革で重要なのが、次の3つのパラダイムシフトです。これらは後に、JTBの社員研修の効果を高める土台となりました。
- キャリア開発の主体を変えるキーワード 『 キャリアオーナーシップ 』
:社員が会社に頼らず自分でキャリアを開発する - キャリアの築き方を変えるキーワード 『 市場価値 』
:社員が活躍したい領域や必要な能力を自分で考える - マネジメントを変えるキーワード 『 キャリアコンサルティング力 』
:部下のキャリア開発を支援する
このような施策を実施するため、仕事を通じた成長プロセス(成長スパイラル)、つまり経験学習サイクルを作りました。このサイクルを元にセルフ・キャリアドック(企業が社員のキャリア形成を積極的に支援する仕組み)も整備しています。
コロナ禍を踏まえた事業・人材戦略の見直し
このようにさまざまな環境整備を行った矢先に始まったのが、コロナ禍です。ツーリズム産業の需要が蒸発しビジネスが大打撃を受けたのはもちろん、業界の人財流出という事態にも陥りました。
そこで、JTBはコロナ禍を踏まえた中期経営計画において、旅行以外の領域にメインの事業を拡大する経営の抜本的な立て直しと、人財戦略の見直しを行います。
経営戦略として事業領域を広げるということは、旅行だけでなく、さまざまな専門分野に通じた人材を育成する必要があります。
JTBはこのビジョンを実現するため、次のように「会社が行うこと」と「社員が行うこと」を明確に分けました。
- 会社は社員に成長と挑戦の機会を提供し、組織風土の改革・構築を行う
- 社員はJTB社員の共通の価値観「One JTB Values 」に心から共感し、経営方針を体現する「自律創造型人財」を目指す
以上が、経営統合からコロナ禍を経て、大きな事業改革の中で行われた人財育成の流れです。会社の目指すビジョンや人財に関する基本方針を、目に見える形で人財戦略につなげていくというのが大変重要なポイントとなります。
人財育成の価値を向上するための仕組み:社員のキャリア開発と自律した学びを促すJTB ユニバーシティ
自律創造型人財を育成する「JTBユニバーシティ」
JTBでは、JTBグループ横断型人財開発プラットフォーム「JTBユニバーシティ」で人財育成を行っています。
「JTBユニバーシティ」とは、JTBの経営方針を体現する自律創造型人財を育成するためのプラットフォームです。年間800本以上の研修とeラーニング等により、社員の能力・キャリア開発支援、学びを基軸とした組織風土の改革支援を行い、人財育成を促進します。
従来のJTBユニバーシティの研修は、社員の満足度は高いものの、研修施設から会社に戻ると学んだことを全て忘れてしまい、意識・行動変容にはつながらないという実態がありました。
この実態から、「学んだことを忘れてしまうのに、会社はなぜ人財に多額の投資(=研修)をするのか」という疑問と危機感を持ち、それが研修改革を始めるきっかけとなりました。
研修の価値は「社員の行動変容」
その後、JTBでは、研修を構成する一連の流れを「研修バリューチェーン」と名付け、研修を作るプロセスの見える化に成功しています。
通常、研修は実施することに焦点が当たりがちですが、本当に大切なのは研修実施前のデザインと、研修実施後のフォローの部分になります。そして、研修が最終的に生み出す価値が「社員の行動変容」なのです。
研修の効果を測定するため、研修前、研修中、研修後とさまざまな施策を行いましたが、一番苦労したのは研修後の「行動変容の見える化」でした。
レッスンルーブリックで行動変容を見える化
行動変容を見える化するために考案したのが、レッスンルーブリックです。ルーブリック評価とは、主に学校・大学のアクションラーニングなどで評価に用いられるもので、学習の到達状況を評価する基準をいいます。
このルーブリック評価からヒントを得て、JTB独自のレッスンルーブリックを作り評価することにしました。
以下は指導社員フォロー研修でのレッスンルーブリックの例です。
研修アンケートの見直し
さらに、研修アンケートも大幅な見直しを行っています。
今までの研修アンケートでは、「研修に満足しましたか?」という問いに対してほとんどの社員が「概ね満足」と回答するため、研修担当者は「研修は有意義で、特に改善の必要はない」と判断してしまうケースがありました。
この状態では研修のデータとして全く客観性がなく、最終的には研修担当者の思い込みで研修が作られてしまいます。
そこでアンケートを改良し、研修前の期待値(期待していた/していなかった等)と研修後の期待値(期待以上だった/期待外れだった等)を尋ねるようにしました。この設問により、研修前と後の研修に対する期待値の変化を指標化しEMO値と名付けました。これで研修の「実感価値」を測ります。
そしてアンケートの中に、行動変容の兆しを確認するための「職場に戻ってからの行動がイメージできますか?」という質問を加えました。これが最も重要な指標になります。
この質問は、自己効力感、言い換えれば、自信がどのように変化したかを調べるものです。十分できている、概ねできている、あまりできていない、できていない の4段階で尋ねます。
行動変容のポイントは研修前の期待値
さまざまな実証実験を重ねた結果、「職場に戻ってからのイメージが「十分できている」」人ほど自己効力感が高まり、職場に戻って行動変容を起こしやすいとわかりました。
さらに、ここまで得られた事実から「職場に戻ってからのイメージが十分できている人を増やすことが研修後の行動変容につながる」という仮説を導き出し、そこを目指そうとしました。しかし、ここで新たな問題が発生します。
「行動イメージが「十分できている」人を増やすには、研修のどこを直せばよいのか?」という問題です。
これを解決するためにアンケートの回帰分析を行い、さまざまな検証を行いました。その結果、「研修前の期待値が高ければ行動イメージは十分できる」という事実が判明しました。
つまり、「職場に戻ってからのイメージが十分できている」人を増やすには、研修前の期待値を高めることが重要だったのです。
したがって、期待値が高い状態で研修を受講すれば十分に行動イメージができ、研修後の行動変容につながりやすいということを最終的な結論としました。
社員のキャリア自律への取組について:JTB版セルフ・キャリアドックの構築に向けた支援強化
「キャリア自律」はJTB成長の原動力
先述のとおり、社員の行動変容には研修前の期待値を上げることが重要ですが、その鍵となるのがキャリア開発です。
JTBでは、価値を創出する源泉は人財だと考えています。会社の成長を促す、社員一人一人の成長の原動力となるものこそキャリア自律なのです。
JTBでは現在、社員のキャリア自律を促すセルフ・キャリアドックを実施しています。社員が自分の理想の姿、「こうなりたい」というビジョンを描き、そのためにはどのような学習が必要か考え、自分への期待値を高められる状態を目指しています。
セルフ・キャリアドックの具体的な施策
セルフ・キャリアドックでは、社員が年間の目標を決める際に「キャリア目標」を立てます。キャリア目標とは、4~5年後の自分の理想の姿を描いたものです。
そこから逆算して「今年(1年目)は5年後の理想の姿に向けて何をするか」考え、中間面談で上司と進捗を確認します。最終的な目標の評価は目に見える数値だけでなく、「理想の姿に向けて今年はこれだけ頑張った」という努力も対象としています。
他にもさまざまな関連施策がありますが、特にご紹介したいのが「学びのサマーフェスティバル」です。
「学びのサマーフェスティバル」は社員参加型の、セミナーを中心としたイベントです。JTBの事業や社会情勢など幅広いテーマが扱われます。
2023年は8月14日~25日までの2週間で行われました。
海外を含めたグループ会社社員や社長をはじめとする役員など、63組が登壇し、意見発表を行っています。この63組は、会社側の「あなたの学んだことや周りに伝えたいことを、オンラインで発表してください」という呼びかけに自ら手を挙げた人たちです。
視聴数(アーカイブ含む)は延べ1万人を超えており、多くの社員が関心を持っている証左といえるでしょう。
キャリア自律への取り組みは今後も続けていく必要がある
このようなご紹介をすると順調にキャリア自律を推進しているように見えますが、課題は尽きません。社員自身の意識の問題、会社の制度整備等、個所マネジメント、組織風土などにおいて、まだまだ取り組むことが多いという認識です。
まとめ
JTBの研修がなぜ人を動かすのか、重要なポイントは以下の3点です。
- 経営の意思と人材戦略をマッチングさせている
- 研修バリューチェーンによって研修自体の価値を向上させている
- キャリア自律によって社員自身の動機付けと支援する風土が作られている
JTBは2018年からキャリア改革・研修改革を進め、さまざまな環境変化に合わせて進歩を続けてきました。今後も研修の効果の向上に取り組み、社員一人一人の幸福と会社の成長につなげて参ります。
LWからの情報提供:「ブレンディッドラーニング:集合研修をオンラインで運用する」
ブレンディッドラーニングをLMSで運用するメリット
ブレンディッドラーニングとは、集合研修とeラーニングを組み合わせ、双方のメリットを「いいとこ取り」した学習方法です。研修効果の向上が期待できるほか、LMS(学習管理システム)で運用すれば一元管理が可能であり、運用の手間も軽減されます。
しかしながらLMSのベンダーである当社には、「LMSを導入したとして、集合研修をオンラインで運用するイメージがわかない」という声が多く寄せられます。
そこで、今回は当社の統合型LMS(学習管理システム)「CAREERSHIP」で集合研修を運用するとどうなるかという解説をさせていただきます。
まず、ブレンディッドラーニングの大きなメリットは、あらゆるデータを取得できることです。
LMSを利用せずに集合研修を実施する際の課題として、対象者へのメール案内や参加者リスト作成、事後アンケートの集計といったアナログな作業の発生のほか、以下のようなリスクも挙げられます。
◆メールに関するリスク
・宛先設定工数がかかる
・誤送信リスクを常にともなう
◆データに関するリスク
・研修に関わる各種データが分散していて活用できない
・受講者のアクセス先もバラバラで運用負荷が高い
LMSの導入によって、管理者、受講者ともにアクセス先が点在していたフローがLMSに集約されます。それぞれのデータもLMSに集約され、振り返りや分析が可能になります。
LMSの活用により、受講者は集合研修の申込から事前学習、集合研修、事後アンケート、事後課題までを一連の流れで行うことができます。
LMSで研修の課題を解決
LMS導入前後で状況がどのように変化したか、1つ事例をご紹介しましょう。
当社のLMS「CAREERSHIP」を導入したある企業様は、「研修に莫大な運営コストがかかっている」「データ収集・活用ができていない」という2つの大きな課題を抱えていました。
LMSの導入後は、運営コストがおよそ10%減少し、改善のためのデータ活用も進んでいます。特にデータ収集によって、今まで決まっていなかった効果測定の方法が定まったというケースです。
ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」注目機能
「CAREERSHIP」では、レッスンルーブリックを掲載することができます。研修申請前にプロパティ画面からルーブリックを確認し、自身の現在地や目標を明確に認識できるような仕組みです。
さらに、CAREERSHIPでは研修アクションプランシートも活用できる機能をご用意しています。
アクションプランシートは、研修前、研修中、研修直後、研修後1カ月、研修後3カ月のそれぞれのタイミングで、研修から得る/得た学びをどのようなアクションに変えていくかを言語化し、進捗をウォッチし続ける仕組みです。
アンケートとコースダイアリー機能を活用し、その時点でのアクションプランを記録、上司と共有できるため、その後のフォローアップにも活用できます。
最後に:LMSで研修のDX化を
アナログで管理されていた集合研修をLMSでDX化することにより、コスト削減と新たな価値の創造が可能になっています。研修運営のDX化を当たり前にして、その先にある、より社員が自ら学びたくなる研修をデザインしてみてはいかがでしょうか?
エンタープライズ向けNo.1の統合型LMS
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eラーニングや研修管理、アンケート配信、社内SNSなど、人材育成に必要なあらゆる機能を網羅し、大企業の膨大なアクセスや複雑な組織形態、多様な教育施策に対応できる数少ないシステムです。
*2021年4月現在、グループ会社を含む、当社調べ