【事例あり】タレントマネジメントとは?能力の見える化で人事戦略を変える
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タレントマネジメントとは、従業員のタレント(talent:才能)・業務経験・スキルなどを一元管理し、人材の適正配置や育成・教育に活用するマネジメント手法です。
近年、人材を資本として捉えその価値を最大限に引き出す「人的資本経営」が企業に求められており、企業では限りある人材を適切に育成・教育することを重視する傾向が強まっています。
タレントマネジメントは、適材適所を実現しデータドリブンな育成・教育を行う、戦略的な人的資本管理を目指せる手法です。本記事では、タレントマネジメントについて、導入のメリットや注意点などを解説します。
目次
1. タレントマネジメントとは?その目的は?
タレントマネジメント(Talent Management)とは、従業員個人の経歴や能力などをデータとして一元管理し、全社的・組織的な視点で戦略的に人事施策を行うマネジメント手法です。
タレントマネジメントの概念は1990年代にアメリカで誕生し、日本では2010年代から注目され、広く知られるようになりました。
タレントマネジメントの最大の特長は、従業員の能力や経験をデータ化し、さまざまな切り口で分析を行った上で従業員の適材適所を実現し、それぞれの適性を有効活用することです。そして最終的な目的は、従業員を適正配置することで一人一人のパフォーマンスを上げ、企業を成長させることにあります。
1-1. タレントマネジメントとピープルアナリティクスの違い
タレントマネジメントと似た概念に「ピープルアナリティクス」があります。ピープルアナリティクスとタレントマネジメントの違いを以下に説明します。ピープルアナリティクス(People Analytics)は、従業員の属性や人事データの他に、PCや設備の利用履歴といった行動に関するデータなどの幅広い情報を収集・分析し、人事施策のみならず、組織改善や現場マネジメント、経営戦略などに活用する手法です。
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一方、タレントマネジメントとは、従業員一人一人が持つ資質や能力、経験などの情報をデータとして一元管理し、それを企業全体で共有・活用し、人材の配置や育成、評価、定着などに戦略的に活用する人材管理の手法のことをいいます。
従業員の情報をデータ化して活用する点は共通していますが、タレントマネジメントは人事施策を戦略的に行うものであるのに対し、ピープルアナリティクスは組織全体のパフォーマンス向上と課題解決のために従業員に関するデータを活用する手法です。この点が違いとして挙げられます。
2. タレントマネジメントが注目される背景
1990年代にアメリカで誕生したタレントマネジメントが、なぜ今、注目されているのでしょうか。その背景として、以下のことが考えられます。
- 年功序列から成果主義への移行
- 生産年齢人口の減少
- 人的資本経営への関心の高まり
年功序列から成果主義への移行
日本企業では、これまで終身雇用や年功序列が定着していました。しかしバブル崩壊以降は成果主義へと流れが変化し、結果として、人材の流動化やグローバル化が進んでいます。企業にとっては、従業員の育成や離職防止の施策の必要性が増しているのです。
生産年齢人口の減少
少子高齢化が進み、生産年齢人口は減少を続けています。それにより、企業は優秀な人材の採用が難しくなり、限られた人数で生産性をより高める必要に迫られています。
人的資本経営への関心の高まり
日本では2023年より、人的資本の情報開示が上場企業などを対象に義務化されました。人材の価値を最大限に引き出し、企業の成長につなげる人的資本経営が注目を浴びており、企業には従業員の価値をさらに高める人材マネジメントが求められています。
以上のような状況に対応するには、今いる従業員の能力やスキルを正確に把握し、それに沿った育成計画と最適なポストへの配置によって優秀な従業員を育成、また離職を防ぐことが重要です。そこで、タレントマネジメントが注目されるようになりました。
3. タレントマネジメント導入のメリット
タレントマネジメント導入のメリットを、企業側と従業員側のそれぞれの観点から整理してみましょう。
3-1. 企業のメリット
タレントマネジメント導入による、企業にとってのメリットは以下の通りです。
- 従業員を適性に合わせて配置できる
- 事業展開がスピーディーになる
- 従業員を戦略的に育成できる
- 人材採用に活用できる
- 適正な評価を与えることで従業員の離職を防ぐことができる
従業員を適性に合わせて配置できる
従業員個人の能力や業務経験、スキルなどをデータで一元管理するため、その能力を最大限に生かせるポストに迅速に配置することができます。
また、離職者が出た場合に、空いたポストに適した人材が社内にいるかどうか、すぐに確認することも可能になります。
事業展開がスピーディーになる
社内で人材データを一元管理することにより、事業部門と人事部との連携体制が取りやすくなるため、新規事業やプロジェクトの立ち上げの際に、スムーズに従業員の選抜ができるようになります。そのため、事業を迅速に展開することができます。
従業員を戦略的に育成できる
スキルなどの可視化により、的確な育成計画を立て実行できるようになります。それにより、自社の業績向上に貢献できる従業員を効率的に育成できます。
人材採用に活用できる
現在、どのような能力や業務経験を持った人材が不足しているかを可視化できるので、採用活動にも役立ちます。
適正な評価を与えることで従業員の離職を防ぐことができる
適材適所で実力を発揮する従業員に適正な評価を与えることができます。従業員は自信を深めて、さらに意欲的に仕事に取り組むようになるでしょう。結果として、優秀な従業員の離職を防ぐことにつながります。
このようなメリットから、タレントマネジメントを導入する企業は、今後ますます増えていくと予想されます。
日本における導入状況は、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会が報告した「企業IT動向調査報告書 2021」[1]によると、2016年度は導入済みの企業が6.6%でした。
その後緩やかに増加し、2020年度には11.2%に上昇しています。試験導入中・準備中・検討中を含めると36.7%に上り、導入が進んでいることが分かります。
図1 タレントマネジメントの導入状況
出典:一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書 2021」,P37,https://juas.or.jp/cms/media/2021/04/JUAS_IT2021.pdf(閲覧日:2024年2月8日)
また、売上高が高い企業ほど、タレントマネジメントの導入割合が高くなっているというデータも出ています。
3-2.従業員のメリット
タレントマネジメント導入による、従業員にとってのメリットは以下の通りです。
- 自身の能力を最大限に発揮できる
- 仕事が成功する好循環が生まれる
- キャリアアップに役立つ
自身の能力を最大限に発揮できる
適材適所が可能になるため、自身の能力を最大限に発揮しやすくなります。
仕事が成功する好循環が生まれる
適切な配置で存分に実力を発揮して仕事が成功すると、適正な評価を得て自信が付きます。すると次の仕事へのモチベーションもアップするという、好循環が生まれます。
キャリアアップに役立つ
自身の能力や業務経験がデータで整理されるので、これから自身に必要になる能力や足りない業務経験などを確認できます。
タレントマネジメントによって、従業員自身が主体的にキャリア形成を進める「キャリア自律」につながることは大きなメリットといえるでしょう。一人一人の成長が企業の成長につながっていくのです。
4. タレントマネジメント導入の成功事例
タレントマネジメントを導入し、成果を上げている企業の事例を2つ紹介します。
4-1. サントリーホールディングス株式会社
食品酒類総合企業グループのサントリーホールディングス株式会社は、「人」こそが経営の重要な基盤であるという「人本主義」の考えの下、さまざまな取り組みを進めています。
その中で、従業員一人一人の成長とキャリアビジョンを重視した「全社員型タレントマネジメント」を実践しており、個人と組織の成長を加速させる適材適所の実現を目指しています。
具体的には、総合人事システムを導入して、人事給与領域から従業員のスキルやキャリアビジョンなどのタレントマネジメント領域まで幅広い情報を一元管理し、現場と人事が一体となった人材開発や適材配置、組織改革を推進しています。
また、従業員単位で情報の閲覧および蓄積ができる「成長ノート」を、研修管理などとともにシステムで共有し、従業員からも参照しやすくすることで、自律的なキャリア形成を支援しています。
4-2. KDDI株式会社
電気通信業の大手企業であるKDDI株式会社は、「人財ファースト企業」=「人財を最も大切なリソースと捉え、経営の根幹に置く企業」への変革を進めています。その中で、タレントマネジメントシステムを導入し、人材マッチングや自律的なキャリア形成を促進しています。
例えば、従業員のキャリアプラン、希望部署、業務経験、技能、スキル、保有資格などのキャリア情報を蓄積し、全社に公開して、部門側が社内の人材にアプローチするなど、自ら希望するキャリアを叶える人材マッチングの仕組みを整備しています。
同社が活用しているタレントマネジメントシステムには、オープンな人材データベース、上司と部下の継続的かつ双方向のコミュニケーションを促す仕組み、新評価制度の対応、公募・副業による人材交流の活性化など、従業員一人一人が最大限の能力を発揮するための人材管理・育成の機能があるといいます。
同社はこのタレントマネジメントシステムの活用により、企業の持続的成長とともに従業員の成長の実現を目指しています。
5. タレントマネジメントシステム導入の注意点
タレントマネジメントは、人材データの収集はもちろんその活用や管理が不可欠です。データの分析や更新にも労力や時間がかかります。したがってタレントマネジメントシステムの導入が効率的です。
しかし、ただ導入するだけでは失敗に終わってしまう可能性があります。どのような点に気を付ければよいのでしょうか。
5-1. 収集する情報と、収集した情報の整理・システム維持の仕方を明確にする
従業員から情報を収集する際、闇雲にさまざまなデータを収集しても、情報量が多過ぎて必要なときに必要な情報が引き出せず、結局活用できない状況に陥りがちです。
まずは収集が必要な情報を洗い出し、収集後の整理・システム維持の方法を明確にすることが必要です。
5-2. トップダウンで導入の必要性を全社に周知する
従業員から情報を収集する際、プライバシーの問題もあり、情報提供に協力的でない従業員がいる場合があります。また、能力などに基づいた異動の際、異動元と異動先、双方の部署で従業員の情報が共有されなければなりません。人事部以外の全部署、全従業員の協力が必要です。
まずは経営陣がタレントマネジメントをしっかり理解し、目的や目標を定め、導入の必要性を全社に周知徹底することが重要です。
全社規模で社内の環境整備をすることで、タレントマネジメントの導入がスムーズになり、のちのちも使いやすいシステム構築が可能になります。
6. タレントマネジメントシステムを効果的に活用するには?
タレントマネジメントを成功させる鍵は、従業員の育成と適正配置を両輪で進めていくことです。
そこで、タレントマネジメントシステムに学習管理システム(LMS)を連携させると、より効果的に運用することができます。
LMSでは、学習計画の策定や能力開発の実施、教育履歴、習得スキルなど人材育成に関するデータが蓄積されます。
したがってタレントマネジメントシステムとLMSを連携することで、職務に必要な能力やスキルを可視化し、対象となる従業員に適切な教育を実施することができます。その結果、人材配置がより適切、効率的になるのです。
7. まとめ
タレントマネジメントとは、従業員個人の経歴や能力などをデータとして一元管理し、全社的・組織的な視点で戦略的に人事施策を行うマネジメント手法です。
タレントマネジメントの最大の特長は、従業員の適材適所を実現し、それぞれの適性を有効活用することです。
そして、その最終的な目標は、従業員を適正配置することで一人一人のパフォーマンスを上げ、企業を成長させることにあります。
タレントマネジメントに似た概念であるピープルアナリティクスとの共通点は、従業員の情報をデータ化して組織に生かす点です。相違点は、前者は人事施策を戦略的に実施するための手法であるのに対し、後者は組織全体のパフォーマンス向上と課題解決のために人材データを活用する手法である点です。
タレントマネジメントが注目される背景には、以下が挙げられます。
- 年功序列から成果主義への移行
- 生産年齢人口の減少
- 人的資本経営への関心の高まり
タレントマネジメント導入のメリットとして、以下が考えられます。
◆企業側のメリット
- 従業員を適性に合わせて配置できる
- 事業展開がスピーディーになる
- 従業員を戦略的に育成できる
- 人材採用に活用できる
- 適正な評価を与えることで従業員の離職を防ぐことができる
◆従業員側のメリット
- 自身の能力を最大限に発揮できる
- 仕事が成功する好循環が生まれる
- キャリアアップに役立つ
一方、タレントマネジメントを導入する際に注意しなければならない点もあります。
- 収集する情報、収集した情報の整理・システム維持の仕方を明確にする
- トップダウンで導入の必要性を全社に周知する
サントリーホールディングス株式会社とKDDI株式会社のタレントマネジメント導入事例を見てみると、両社とも従業員を企業の資本として捉え、タレントマネジメントシステムを活用して、人材配置や能力開発、キャリアアップ支援を戦略的に行っていることが分かります。
これまでの人事管理の方法ではなかなかうまくいかなくなってきた、とお考えの場合は、タレントマネジメントの導入を検討してみてはいかがでしょうか。その際、タレントマネジメントシステムとLMSを連携させると、より効果的な運用が期待できます。
[1] 一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書 2021」,P36-37,https://juas.or.jp/cms/media/2021/04/JUAS_IT2021.pdf(閲覧日:2024年2月8日)
参考)
Google LLC「ピープルアナリティクス」,「Google re:Work」,https://rework.withgoogle.com/jp/subjects/people-analytics#:~:text=%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%AB%20%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E4%BA%BA%E4%BA%8B,%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(閲覧日:2024年2月14日)
厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析-働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-」,https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/18/dl/18-1-2-2_03.pdf(閲覧日:2024年2月14日)
一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書 2018」, https://juas.or.jp/cms/media/2020/05/JUAS_IT2018_original.pdf(閲覧日:2024年2月14日)
株式会社リクルート「人事戦略を強化する最新の「タレントマネジメントテクノロジー」とは?」,『Recruit Works Institute』, https://www.works-i.com/column/tm_tech/detail001.html(閲覧日:2024年2月14日)
パーソルホールディングス株式会社「ピープルアナリティクスとは?定義や効果、活用フローを解説」,https://www.persol-group.co.jp/service/business/article/3457/(閲覧日:2024年2月14日)
一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書 2021」, https://juas.or.jp/cms/media/2021/04/JUAS_IT2021.pdf(閲覧日:2024年2月14日)
経済産業省「経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会 報告書事例集」,https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/pdf/20190329_03.pdf(閲覧日:2024年2月14日)
サントリーホールディングス株式会社「1899年の創業から続く「人本主義」」,https://www.suntory.co.jp/company/peopleculture/peopleculture1.html(閲覧日:2024年2月14日)
サントリーホールディングス株式会社「日本発のグローバル企業を実現する人材育成と成長機会」,https://www.suntory.co.jp/company/peopleculture/peopleculture2.html(閲覧日:2024年2月14日)
サントリーホールディングス株式会社「サントリーグループのサステナビリティ」,https://www.suntory.co.jp/company/csr/soc_resource/(閲覧日:2024年2月14日)
株式会社PR TIMES「サントリー、統合人事システム「COMPANY」で全社員型タレントマネジメントを推進~人事給与からキャリアビジョンまで一元管理し、適材配置や自律的キャリア支援に活用~」,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000148.000049399.html(閲覧日:2024年2月14日)
厚生労働省「実践事例 変化する時代のキャリア開発の取組み」,https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001085730.pdf(閲覧日:2024年2月14日)
KDDI株式会社「サステナビリティ統合レポート2022」,https://tobira.kddi.com/sustainabilityreport2022/material_issues/strengthening_management_3.html(閲覧日:2024年2月14日)
KDDI株式会社「サステナビリティ統合レポート2023」,https://www.kddi.com/extlib/files/corporate/ir/ir-library/sustainability-integrated-report/pdf/kddi_sir2023_j.pdf(閲覧日:2024年2月14日)
日本アイ・ビー・エム株式会社「KDDI、「ジョブ型人事制度」の実現に向けタレントマネジメントシステムを「SAP® SuccessFactors®」で刷新―新人事制度の実現をITで支援」,https://jp.newsroom.ibm.com/2021-06-09-SAP-Success-Factors#:~:text=%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%88%A9%E7%94%A8%E5%AF%BE%E8%B1%A1%E8%80%85,DX%E3%82%92%E9%80%B2%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(閲覧日:2024年2月14日)