【人事向け】リテンション施策とは?成功事例と効果的な施策を解説

リテンション施策とは、従業員の定着率向上を図る施策のことです。近年、20~30代の若い世代の転職志向が高まっており1、既存の従業員の定着・育成を図るリテンション施策は、多くの企業にとって取り組むべき課題といえるでしょう。

現在の職場との相性や転職したい理由は人それぞれのため、リテンション施策は単独の取り組みで効果が上がるわけではありません。

それでは、どのような退職理由が多いのでしょうか。2022年に実施された調査結果によると、上位の理由として下記が挙げられています。

  • 1位…「仕事上のストレス(人間関係、職務適性など)」
  • 2位…「会社・仕事の将来性・安定性が持てない
  • 3位…「給与・待遇の不満
  • 4位…「キャリアアップ・スキルアップに繋がらない
  • 5位…「人並みの生活(健康や生活の満足度)を送りたいため2

(アンケート対象は直近1年以内に転職し、正社員で就業している20~59歳の男女)

このようなことから、従業員の不満を解消するためには、従業員が働きがいや働きやすさを実感できるよう、複数のリテンション施策を行うことが重要です。

この記事では、リテンション施策とは何かという基本から、重要視される理由、効果的な施策、企業の成功事例まで網羅的に解説します。

キャリア開発の考え方から具体的な方法までわかりやすく解説! ⇒ キャリア開発実践ガイドBookをダウンロードする(無料)

LEARNING SHIP

キャリアマネジメントとは、従業員が自身でキャリア目標を決定し、達成に向け計画的に行動することです。企業の人材育成やキャリ…

社員の“やりたい”と“できる”を活かす!キャリア形成を支える「モチベーション × スキル」の可視化

AIで要約

  • リテンション施策とは、従業員が企業に長く定着するための様々な取り組みです。
  • 少子高齢化や人材競争激化により、既存従業員の定着・育成が重要になっています。
  • 効果的な施策の柱は、評価・報酬、成長支援、働きやすい環境、社内交流の活性化です。

リテンション施策とは?簡単にいうと「従業員の定着策」

リテンション施策とは、従業員の定着率を高めるために行う施策のことです。具体的には、従業員のモチベーション向上働きやすい環境づくりスキルアップ支援など、さまざまな取り組みが含まれます。

優秀な人材を採用するだけでは、企業の成長を維持することはできません。せっかく採用した人材が定着せずすぐに辞めてしまうと、新たに採用活動を実施しなければならないため採用コストの増加につながります。

また、業務の引き継ぎや新しい人材の育成に時間がかかり、生産性が低下する可能性があります。さらに、経験豊富な従業員の退職により、企業にとって貴重なノウハウが失われてしまうケースもあるでしょう。

リテンション施策は、これらの課題を解決し、企業の成長を支える重要な戦略です。効果的なリテンション施策を実施することで、企業は優秀な人材を確保し、持続的な成長を実現できるでしょう。

なぜ今、リテンション施策が重要なのか?

近年、リテンション施策が重要視される大きな要因として、労働力不足の深刻化人材獲得競争の激化の2つが挙げられます。

まず、少子高齢化により生産年齢人口(15~64歳)は減少を続け、企業の人材確保を困難にしています。内閣府の「令和4年版高齢社会白書」3によれば、2020年に7509万人だった生産年齢人口は、2050年に5275万人まで減少すると予測されています。

優秀な人材の採用が困難になることから、既存の従業員を定着させるリテンション施策が、企業の持続的な成長に必要不可欠になっているのです。

また、グローバル化デジタル化の進展に伴い、企業間の競争は激化しています。優秀な人材はより良い待遇やキャリアアップの機会を求めて転職する可能性が高まるため、人材流出を防ぐ施策が多くの企業にとって課題となっています。

このようなことから、優秀な人材を確保・育成につながる戦略的リテンション施策立案と実施の重要性が増しているといえるでしょう。

人材育成計画の方法から効果的な教育手法までこれ1冊で解説! ⇒ 「人材育成大百科」を無料ダウンロードする

多角的に展開!効果的なリテンション施策4つの柱

人材流出を防ぐためには、職場環境や待遇など多角的に見直すことが必要です。ここでは、効果的なリテンション施策につながる4つの柱について解説します。

納得感のある評価・報酬制度

優秀な人材に定着してもらうためには、評価システムの公平性と透明性を高めることが重要です。評価基準を明確化し、評価プロセスをオープンにすることで、従業員の納得感を高めることができます。

評価項目には、業績だけでなく、プロセス行動特性なども含め、多面的に評価しましょう。例えば、目標達成度、業務遂行能力、チームへの貢献度、問題解決能力などを評価項目として設定し、それぞれの項目に具体的な評価基準を設けることで、評価の客観性を担保できます。

また、努力を適切に評価し、報酬に反映することも重要です。昇給や賞与、インセンティブなど報酬体系を見直し、従業員のモチベーション向上を図りましょう。

例えば、目標達成度に応じて賞与額を決定したり、特別な功績を残した従業員には特別賞を授与したりするなど、従業員の努力を目に見える形で評価することで、さらなる成長の促進が期待できます。

このように納得感のある評価・報酬制度を構築することで、従業員のモチベーション向上、ひいては企業の業績向上に大きく貢献するでしょう。

キャリアアップを支援!成長できる環境づくり

リテンション施策においては、従業員の成長意欲に応えられるよう、スキルアップ・キャリアアップの機会を提供することも重要です。

具体的には、研修制度資格取得支援などが挙げられます。社内研修や外部研修、オンライン学習プラットフォームなどを活用し、従業員のスキルアップを支援しましょう。また、資格取得にかかる費用を補助する制度も効果的です。

さらに、キャリアプランの作成支援メンター制度も有効です。従業員が自身のキャリアについて考える機会をつくる、キャリアプラン実現に向けて必要なスキルや経験などが分かるようキャリアパスを明確化するなど、従業員の計画的なキャリア形成をサポートしましょう。

メンター制度では、先輩従業員が後輩従業員の相談に乗り、キャリア形成のアドバイスや業務上の指導を行うことで、成長を促進します。

これらの取り組みを通じて、従業員が自身の成長を実感できる環境が整えば、従業員の企業への貢献意欲も高まるでしょう。

働きやすい職場環境づくり

従業員が安心して長く働くためには、制度や文化といった多角的な視点から働きやすい環境づくりを進めることが重要です。

物理的な面では、フリーアドレスによる柔軟なワークスペースの提供や、カフェテリアなどリラックスできる施設の整備などが挙げられます。

柔軟な働き方ができる制度の導入も効果的です。リモートワークフレックスタイム制などを導入することで、従業員のワークライフバランスの推進につながります。

また、従業員が安心して働けるよう、ハラスメントを許さない文化の醸成も重要です。ハラスメント対策として、相談窓口を設置したりハラスメント研修を実施したりする他、発生した際には適切な対応を行い、被害者の保護と再発防止に努めましょう。

福利厚生の充実も、従業員の満足度向上につながります。健康診断や育児・介護との両立支援といった基本的な福利厚生に加え、社員旅行やレクリエーション活動といった従業員の交流を深めるためのものも効果的です。

社内コミュニケーションの活性化

社内コミュニケーションの活性化は、従業員同士の相互理解を深め、一体感の醸成につながります。

例えば、部署やチームの垣根を越えた交流を促進するために、社内イベント懇親会などを開催することは有効です。オンラインツールを活用したイベントであれば、リモートワークの従業員も気軽に参加できます。

また、日常的にコミュニケーションを取りやすい環境を整備することも重要です。例えば、チャットツール社内SNSを導入すれば、気軽に情報共有相談ができるようなります。業務に関係ない話題も気兼ねなく話せるような雑談スペースの設置も効果的です。

さらに、従業員の意見を尊重し、風通しの良い組織文化を醸成することも大切です。提案制度アンケートなどを活用し、従業員が意見を伝えやすい環境を整えましょう。従業員の声を反映した業務改善を実施できれば、従業員の企業への帰属意識を高めることにつながります。

ただし、形式的にコミュニケーション施策を実施するだけでは十分ではありません。従業員へのアンケートやヒアリング、日頃のコミュニケーションを通して従業員の意見を収集し、ニーズに合った施策を講じましょう。

伸びる企業に学ぶ!効果的なリテンション施策事例集

ここでは、リテンション施策の成功事例として、株式会社NTTデータ、株式会社エー・ディー・ワークス、三井化学株式会社の3社を紹介します。

株式会社NTTデータ(情報・通信業)

株式会社NTTデータでは、「人材=貴重な資産」と考え、従業員の多様性を尊重した上でリテンションに努めています。具体的なリテンション施策としては下記が挙げられます。

従業員がグローバルに交流できる多様な機会の提供

入社した従業員の早期定着のために、オンボーディングセッションを国内・海外各地で実施しています。加えて、組織の枠を超えて交流できるよう、企業が大切にする価値観について従業員同士が語り合う「Values Weekワークショップ」や、表彰なども行っています。

場所にとらわれない働き方

従来のリモートワーク制度を見直し、実施日数上限の撤廃や、自宅以外の場所での実施可能にしました。また、リモートワークの普及に伴い増加してきた従業員の諸経費負担を減らすため、リモートワーク手当を創設しています。

さらに、多様な働き方を支援するため、リアルとリモートをミックスしたハイブリッドワークに対応する制度の適用も始めています。組織・プロジェクトの状況などに応じて働き方を選択できるようになっており、2022年度リモートワーク率71%でした。

柔軟な勤務時間の実現

従業員が柔軟に働けるよう、フレックスタイム制裁量労働制を導入しています。加えて、2020年10月にはコアタイムを撤廃した「スーパーフレックス制度」を導入し、多様で先進的な働き方の実現に取り組んでいます。

従業員のワークライフバランスを推進

リフレ休暇アニバーサリー休暇などを設け、有給休暇の取得を推奨しています。取り組みの結果、有給休暇の取得実績は2020年以降増加しており、2022年度の平均有給休暇取得実績は1人当たり16.6日となりました。

株式会社エー・ディー・ワークス(不動産業)

株式会社エー・ディー・ワークスは、金銭的報酬を中心にリテンション施策を行っています。具体的な取り組みは下記の通りです。

外部競争力を重視した報酬設定

市場報酬水準を常に調査した上で採用時の報酬水準設定や従業員の報酬改定を行い、人気企業に匹敵する報酬水準維持しています。人材のマーケットバリュー(市場価値)を考慮した適切な報酬を提示することで、大手企業の優秀人材獲得にもつながっています。

キャッシュ型LTI

業績目標が達成されれば、個人業績に関係なく向こう3年間にわたって固定額を支給しています。一度確定したLTIは、その後の業績の影響を受けずに支給されるため、将来の報酬が担保されます。これにより従業員のモチベーションアップや企業に対する信頼感の醸成につながっています。

新卒入社者を対象に譲渡制限付き株式を付与

新卒入社者に対して、通常の報酬に加えて、5年間にわたり譲渡制限付き自社株式を付与しています。自社株式を保有することにより、新卒入社者のリテンションの他、経営への参画意識の向上、企業へのロイヤリティーの醸成、投資・資産運用への理解の促進につながっています。

このような取り組みの結果、2010年には44人だった従業員が2018年には155人と、8年間で3倍以上に増加しました。

しかし、同社は金銭的報酬には一定のリテンション効果があるものの、従業員の自律を促す効果は限定的であると考えています。

そのため、金銭的報酬に加えて、内的報酬(達成感や自己成長の実感などの心理的な報酬)を得られる仕組みづくりにも取り組み、従業員のモチベーションや向上心を引き出していくようです。

三井化学株式会社(製造業)

三井化学株式会社は、「人材の獲得・育成・リテンション」を人材に関する課題の1つと特定し、課題解決に向けて下記のような取り組みを行っています。

グローバル従業員エンゲージメント調査

全従業員を対象にエンゲージメント調査を実施し、継続的なモニタリングと改善アクションを実施しています。改善アクションの実例としては、「交流イベント、勉強会の実施など職場内コミュニケーションの強化」「表彰制度の活用」「キャリアや日常業務に関する1on1面談の実施」などが挙げられます。

競争力のある報酬水準の設定

報酬は各国・地域の労働市場において、法律を遵守した上で競争力のある報酬水準になるよう設定されています。報酬水準は定期的に見直し、2023年度、2024年度には一般社員と管理社員のベースアップを実施しています。

また、人事制度が公正公平に運用されるよう、給与・賞与・評価・昇給などの体系を社則やハンドブックなどで従業員に公開しています。

業績評価を反映した報酬

各人が設定した職務目標達成度行動による業績評価が行われ、結果が報酬に反映されます。目標設定に関しては上司が目標設定面談を年1回行う他、評価結果のフィードバック面談も年1回実施しています。これらを通して各従業員の特性を把握し、適切なサポートをすることで人材育成を図っています。

また、賞与額は評価区分ごとに一律ではなく、個人のパフォーマンスに応じて細かく調整できる仕組みを取り入れています。

多様な働き方を促進する制度の整備

従業員がそれぞれの事情に合った働き方ができるよう、就業制度を見直しています。

例えば、テレワーク制度を改定し、月4日以上の出社を条件としてテレワーク可能日数を大幅に拡大、コアタイムなし・労働時間を1カ月単位で管理するフレックスタイム制の整備などです。加えて、副業の解禁服装自由化社内公募制度も実施しています。

また、失効した年次有給休暇を積み立て、介護や育児などの理由で出勤できない場合に取得できる特別休暇を入院・通院でも利用できるよう制度改定し、治療と就業の両立を後押ししています。

他にも、従業員のワークライフバランス促進するため、結婚休暇リフレッシュ休暇社会活動休暇など多様な制度を設けています。

キャリア開発の考え方から具体的な方法までわかりやすく解説! ⇒ キャリア開発実践ガイドBookをダウンロードする(無料)

まとめ

リテンション施策とは、従業員の定着率を高めるために行う施策のことです。近年、少子高齢化による労働力不足、企業間の人材獲得競争の激化などにより、優秀な人材の採用が困難になっています。

このようなことから、既存の人材の定着・育成を図るリテンション施策が、多くの企業にとって重要視されているのです。

リテンション施策は多角的に実施する必要があります。効果的なリテンション施策につながる4つの柱は下記の通りです。

  • 納得感のある評価・報酬制度:評価基準の明確化、努力やプロセスの適切な評価と報酬への反映など
  • スキルアップ・キャリアアップ支援:研修制度や資格取得支援など
  • 働きやすい環境づくり:リモートワークやフレックスタイム制の導入、ハラスメント相談窓口の設置など
  • 社内コミュニケーションの活性化:社内イベントや社内SNS、従業員アンケートの活用など

リテンション施策の成功事例として、下記3社を取り上げました。

(1)株式会社NTTデータ

  • 従業員がグローバルに交流できる機会の提供
  • リモートワークやフレックスタイム制、裁量労働制の導入など、多様な働き方の実現
  • リフレ休暇・アニバーサリー休暇などを設け、有給休暇取得を推奨するなどワークライフバランスの促進  など

(2)株式会社エー・ディー・ワークス

  • 市場報酬水準を基にした競争力のある報酬設定
  • 業績目標が達成されれば、個人業績に関係なく向こう3年間にわたって固定額を支給するキャッシュ型LTIの実施
  • 新卒入社者を対象とした譲渡制限付き株式の付与  など

(3)三井化学株式会社

  • エンゲージメント調査・改善アクションの実施
  • 競争力のある報酬水準の設定と定期的な見直し
  • 業績評価を反映した報酬
  • テレワークやコアタイムなしのフレックスタイム制などによる柔軟な働き方の促進
  • 結婚休暇・リフレッシュ休暇など、従業員のワークライフバランスを考慮した制度の整備  など

これらの企業事例は、複数のリテンション施策を組み合わせて実施することで、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上を図っています。

自社に合ったリテンション施策を積極的に導入し、優秀な人材の定着・育成につなげましょう。

  1. 株式会社明治安田総合研究所「「働き方に関するアンケート調査」を実施!明治安田総合研究所が働き方や転職、リスキリングについて大調査!」,P21(閲覧日:2024年12月11日) ↩︎
  2. 新井卓二,宮口昂,加藤大一朗「転職満足者の働く目的と退職・転職決定理由~転職プロセスからみる因子分析~」,『山野研究紀要』,第30号,2022年,P4(閲覧日:2024年12月11日) ↩︎
  3. 内閣府「令和4年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況」,P4(閲覧日:2024年12月11日) ↩︎

参考)
株式会社NTTデータグループ「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」,『NTT DATA』,https://www.nttdata.com/global/ja/about-us/sustainability/dei/workstyle/(閲覧日:2024年12月11日)
経済産業省「「経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会」報告書 事例集」,https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/pdf/20190329_03.pdf(閲覧日:2024年12月11日)
株式会社ADワークスグループ「新卒従業員を対象とする株式報酬制度に伴う 譲渡制限付株式の発行(第7回)に関するお知らせ」,2024年6月12日公表,https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/20240612527194/(閲覧日:2024年12月11日)
経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~ 実践事例集」,2022年5月公表,https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0_cases.pdf(閲覧日:2024年12月11日)
三井化学株式会社「人材マネジメント」,『Mitsui Chemicals』,https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/society/employee/engagement/index.htm(閲覧日:2024年12月11日)

企業向けLMS徹底比較

>会社案内パンフレット、各種事例、eラーニング教材サンプル、調査資料をダウンロードいただけます。

会社案内パンフレット、各種事例、eラーニング教材サンプル、調査資料をダウンロードいただけます。

会社案内パンフレット、各種事例、eラーニング教材サンプル、調査資料をダウンロードいただけます。

CTR IMG