リーダーになるすべての人に知ってほしい その戦略的役割と6つのソフトスキル

「君にはもっとリーダーシップを発揮してもらいたい」

このように言われたことのある方は多いのではないでしょうか?
しかし、そのために何をどうすればよいかについての具体的なアドバイスはなかったはずです。

その理由は簡単です。誰も正解を知らないからです。

  • そもそもリーダーの役割とは何なのか?
  • 具体的に何をすればリーダーシップを発揮したことになるのか?
  • そのためにはどのようなスキルが必要になるのか?

今さら人に聞けないこの重大な課題について、本稿は人間性心理学の生みの親であるマズローをヒントにして、具体的な回答を示していきます。これを手がかりにして、自分らしいリーダーシップを発揮してもらいたいと思います。

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リーダーになるすべての人に知ってほしい チームビルディングの極意

AIで要約

  • リーダーの戦略的役割とは、単なる管理者ではなく、チームの未来を描き、方向性を示すことです。
  • これからのリーダーには、自己認識やコーチング、問題解決など6つの重要なソフトスキルが求められます。
  • リーダーの最も重要な仕事は、メンバーの能力を最大限に引き出し、組織の成果に繋げることです。

答えは自分の中にある

まずはP・ドラッカーの衣鉢を継ぐ大御所のH・ミンツバーグに従って論を進めましょう。

「私の観察によれば、優れたマネジャーのなかには振り返りを重んじる人物がきわめて多かった。振り返りとはある経験が自分にとってどのような意味を持つかじっくり慎重に考えることだ。振り返りを実践するためにはある種の謙虚さが欠かせない。自分の無知を自覚している必要がある。私がヒーロー型マネジャーに批判的なのはこの点に不安を感じるからだ」

(ヘンリー・ミンツバーグ 2011 『マネジャーの実像』 日系BP社)

優れたマネジャーは振り返りを重んじるというミンツバーグの教えに従って、振り返りの実践から始めましょう。自分のキャリアを振り返って、次の質問に答えていただきたいと思います。

「自分が若手社員だったときに、うれしかったこと、はげみになったこと、つまり自分が職場で経験したポジティブな出来事を挙げてください」

筆者は予言者ではありませんが、みなさんがどのようにお答えになったかを当てることができます。答えは次のいずれかではなかったでしょうか。

(1)  「上司に褒められた」
(2)  「チャレンジングな仕事を任されて、それをやり切った」

自信を持ってこう言えるのは、中間管理職を対象にしたワークショップでこの質問を何百回もしているからです。おもしろいことに、どこの会社でも同じ答えが返って来るのです。

ここから、2つの課題を設定することができます。
一つは、リーダーとしてリーダーシップを発揮するためには、自分が若手時代にうれしかったことを今度はリーダーとして部下に経験させてあげればよいのではないか、ということです。
そしてもう一つは、なぜ回答がこの2つに集約されるのか、ということです。

前者はマネジャーに求められるスキルと直接的に関係しています。この視点で(1)と(2)をスキルに置き換えると、(1)がフィードバック、(2)が権限委譲ということになります。

人に関わることなので、このようなテーマを総称してアメリカでは「ソフトスキル」と言っています。したがって、本論が扱うテーマはリーダーに求められるソフトスキル、ということになります。

後者の「なぜみんな同じ答えになるのか」という問いに答えることは重要です。なぜならば、「自分の部下は世代が違うし、自分とはタイプも違う。自分がうれしかったことが部下にとってうれしいとは限らない。」という懸念があるからです。

したがって、この問いに答えることができれば、「自分が若手時代にうれしかったことを部下にも経験させる」というアプローチには普遍性があることになります。つまり、このアプローチは誰に対しても有効であるという仮説が検証されたことになります。

これについて理論的に説明してくれるのがマズローの欲求の5段階説です。

マズローの主張そのものに賛否はあるかもしれませんが、そのモデルは、人間のモチベーションに関する最も有力な仮説の一つとしてビジネス界で広く支持されています。

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マズローの欲求5段階説とビジネス

マズローによると、人間の行動は欲求を満たしたいという願望によって動機付けられています。
欲求には優先順位があって、低次の欲求が満たされると、上位の段階の欲求を満たそうとします。
これがモチベーションの源泉となります。

段階は5つあって、順番に言うと、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認の欲求となって、最高段階が自己実現の欲求となります。これがマズローの欲求の5段階説です。

5つの段階をビジネスの文脈で捉えると、次のような解釈が考えられます。

生理的欲求

人間が生命を維持するための睡眠欲・食欲・ 排泄欲が生理的欲求です。
これが満たされないと職務に耐えられません。
ただし、ここはマズローの主張とは若干違って、食べ物も寝床も確保されているけれども、職場で上位の欲求が満たされない結果として、「眠れない」、「食欲がない」という精神的不調が起こるというのが今日のビジネス界の実情と言えます。

安全の欲求

職場で不安や恐怖を感じることはないか、ということになります。
不確実で競争的な環境でこれからサバイバルするためにどうすればよいか、不当な差別やハラスメントを受けていないか、ということが課題になります。
因みに、2012年の厚労省の調査ではパワーハラスメントを受けたことがあるという非管理職の正社員(男と女)の割合はそれぞれ27%と29%となっています。
職場における安全の欲求は必ずしも満たされていないと言えます。

社会的欲求

社会的欲求は愛と帰属の欲求とも呼ばれ、社会的な集団に受け入れられたいという感覚を指します。
職場で期待される役割を果たすことで、友好的な人間関係を作れているか、ということです。
期待される役割を果たすためには、プロとして一人前のスキルを身につける必要があります。

承認の欲求

これは会社から認められているか、評価されているか、ということになります。
「上司から褒められた」というのは、承認の欲求が満たされたからうれしかったということです。

自己実現の欲求

仕事を通して「自分の生き方を実現している」という達成感を感じることが自己実現の欲求です。自分のビジョンを実現することと言ってもよいでしょう。
「チャレンジングな仕事を任されてやり切った」というのはこの自己実現の欲求と関係していると言えます。 

マズローの欲求5段階説
(図)マズローの欲求5段階説

マズローのモデルによって、「若手社員だったときに、うれしかったことを挙げてください」という質問に対する回答が2つに集約される理由が明らかになります。 

  1. 「上司に褒められた」は「承認の欲求」が満たされたことを示しています。
  2. 「チャレンジングな仕事を任されて、それをやり切った」は、「自己実現の欲求」が満たされたことを示しています。

つまり、マズローの5段階説の高次元の欲求に応えているのです。だから、回答が2つに集約されるのです。
高次元の欲求が満たされると、部下は大きなよろこびを感じ、成長を実感することができます。

これをリーダーの側から考えると、「部下を認める」「チャレンジングな仕事を任せる」ことは、人間の根源的な欲求を満たすことになるので、誰に対しても有効であることがわかります。また、仲間が欲しい(社会的欲求)、差別・ハラスメントの心配をしないで仕事をしたい(安全の欲求)という部下の声に応えることも有効と言えます。

マズローの欲求の5段階説を用いることで、リーダーの戦略的な役割を設定することができるのです。

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リーダーの戦略的役割と求められるソフトスキル

人間のモチベーションの構造を解き明かすマズローのモデルからリーダーの戦略的役割を規定することができます。それは、「部下がビジネスのプロとしての欲求を満たせるようにリーダーシップを発揮すること」となります。
ここからソフトスキルの具体的なテーマを以下の7つに設定することができます。

フィードバック

激化するグローバル競争でサバイバルしたいという安全の欲求、職場で期待される役割を果たして、仲間として受け入れられたいという社会的欲求を満たすためには、部下はプロとして一人前になる必要があります。
そのためにマネジャーは部下を効果的に指導しなければなりません。そのための方法が(ネガティブ)フィードバックです。

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キャリアデザイン

サバイバルは短期だけでなく長期的な課題でもあります。そのためにはプロフェッショナルとして目指すキャリアを考えなければなりません。
キャリアをどのように選択していけばよいかを考えるのがキャリアデザインです。リーダーは部下の相談に乗るために、キャリアデザインについての見識が求められます。

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ダイバーシティ

安全の欲求には、偏見を持たずに自分の個性を認めて欲しい、子供を持つ女性に代表されるマイノリティの社員の「自分たちの声も聞いてほしい」という課題もあります。そのためにはダイバーシティのマネジメントが求められます。

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チームビルディング

職場の仲間と一緒に充実した仕事をやっていきたいという社会的欲求を満たすためには、チームワークが必要です。そのためにはチームビルディングが課題になります。

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ストーリーテリング

仲間関係を維持したいという社会的欲求を満たすうえで、自分たちの属する組織に対する誇りや愛が重要な要素となります。
そのためには、組織のDNAを伝承する物語(伝説、エピソード)が大きな役割を演じます。
それを行うのがストーリーテリングです。リーダーは語り部の役割も果たす必要があります。

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ポジティブフィードバック

承認の欲求に応えるのがフィードバックの一つであるポジティブフィードバックです。
フィードバックには指導(ネガティブフィードバック)だけでなく、相手を評価するポジティブフィードバックがあります。

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権限委譲

部下の自己実現の欲求を支援するためにリーダーのできることが権限移譲です。
部下にチャレンジさせることと言ってもよいでしょう。チャレンジを乗り越えることで部下はプロとして自信をつけていきます。
マネジャーは究極的な欲求である自己実現の欲求を満たそうとする部下を応援する存在と位置づけられます。

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まとめ

マズローのモデルには、もう一つの重要なポイントがあります。それは、モチベーションの中に金銭的インセンティブがないことです。

金銭的なインセンティブがモチベーションの源泉となることは確かでしょう。しかし、お金はマネジャーの自由にならないのが普通です。そのため、「給料が低いから、部下にやる気がないのはどうしようもない」といった安易な認識に走りがちです。

これに対して、マズローのモデルは、金銭的インセンティブはモチベーションの本質ではない、あるいは、金銭的インセンティブ以外に戦略的なオプションが色々とある、ということを示唆しています。

打ち手が色々あるということは現場を預かるリーダーにとって励みになるメッセージとなります。

リーダーにしかできないことをする、これがリーダーにとって最も大事な役割のはずです。そうすると、業績を上げることは最も大事な仕事ではなくなります。なぜならば、部下だって業績を上げることに必死の努力をしているからです。

リーダーにしかできないこととは何か。

それは、部下のエネルギーを引き出し、その成長を後押しし、いいチームを作ることです。
これがリーダーの戦略的役割です。そして、この役割を果たすためには、次の6つのスキルがリーダーには求められることになるのです。

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テクノロジーは日進月歩で進化しています。そのため、ハードスキルは常に陳腐化する運命にあります。第一線のプロとしてのスキルを維持するだけでも大変です。これに対して、ソフトスキルは陳腐化することがありません。ありがたいことに習得したソフトスキルは一生の財産になるのです。

ぜひそれぞれの記事を参照し、あなたならではのリーダーシップの発揮につなげてください。

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