「従業員にISMS研修を徹底したい。eラーニングでも可能だろうか」
近年、大手企業を中心に情報セキュリティ事故が相次ぎ、経営リスクとしての認識が一層強まっています。
2024年6月には、大手総合エンタテインメント企業グループのサーバーがランサムウェアを含む大規模なサイバー攻撃を受け、広域的なシステム障害が発生しました。
同グループの出版事業での受注停止、Webサービスの全面停止といった事業活動の停滞に加えて情報漏えいも確認されるなど、多大な損失を被った事例です。
情報セキュリティにおける脅威は多様化・高度化しており、こうした被害に遭う可能性は、企業や事業の規模にかかわらず高まっています。被害を防ぐには、全従業員へのISMS教育の徹底と継続がガバナンス強化の観点から不可欠です。
現在、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の教育のために、eラーニングを導入する企業が増えつつあります。eラーニングは多数の従業員に一斉に質の高い教育を届けられる上、教育担当者の負担も軽減できるため、ISMS教育と非常に相性が良いのです。
この記事では、ISMSの基本から、eラーニングによる研修導入のメリット、学ぶべき内容、教材選定のポイントまでを網羅的に解説します。ISMS教育の方法を検討する際にお役立てください。
企業向けeラーニングシステム10件をポイントごとに比較! ⇒ 「eラーニングシステム徹底比較Book」を無料ダウンロード
eラーニングの活用で効果を上げるには、適切な運用をするのが必要不可欠です。本記事では、eラーニング活用のメリットや代表的…
AIで要約
- eラーニングによるISMS研修は、全社に質の高い教育を展開できる上、教育担当者の負担も大幅に軽減します。
- 研修では、フィッシングメールなど具体的な脅威への対策や、情報漏えい発生時の報告フローといった実践的な知識を学びます。
- 教材は、網羅的な内容か、最新の脅威に対応しているか、学習意欲を維持する工夫があるかという視点で選ぶことが重要です。
ISMSとISMS認証とは?
ISMSとはInformation Security Management Systemの頭文字を取った略称で、情報セキュリティマネジメントシステムを意味します。eラーニングの効果について見ていく前に、ISMSとISMS認証の概要を解説します。
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とは?
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とは、企業や組織が保有する情報を保護するための管理体制を構築・運用し、継続的に改善していく仕組みです。
具体的には、ウイルス対策ソフトやファイアウォールの導入、電子データの暗号化、社内インフラの構築といった全社的に取り組む技術的な対策や、従業員への情報セキュリティ教育などの人的・組織的な管理がISMSに含まれます。
情報セキュリティに関する社内ルールや対策の立案と全社への共有、実施後の定期的な評価や監査、そして改善策の検討というPDCAサイクルを回し、組織全体でセキュリティレベルを維持・向上させることが重要です。
ISMS認証(ISO/IEC 27001)とは?
ISMS認証とは、ISMSの構築・運用が国際規格「ISO/IEC 27001」に適合していることを、第三者機関が認証する制度です。
ISO/IEC 27001は、ISMSを確立して実施するための要求事項を定める国際規格で、以下の情報セキュリティにおける3つの要素をバランスよく維持・管理し、情報を適切に管理するためのフレームワークです。
- 機密性:権限のない個人や組織による情報の利用を制限する
- 完全性:情報が改ざんされず、正確な状態を保つ
- 可用性:権限を持つ個人や組織が必要なときに情報にアクセスできる
ISMS認証を取得すれば、情報セキュリティ管理において一定の基準をクリアしている企業・組織であることが証明されます。
それによって取引先や顧客からの信頼を獲得しやすくなり、また入札や取引でISMS認証取得を前提条件とするケースが増えていることから、企業価値向上にもつながります。
独立行政法人情報処理推進機構が発表した「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査報告書」1によると、取引先からのセキュリティ対策要請に応じた企業の割合は、ISMS認証取得企業が、取得していない企業の約1.5倍となっています。
そして、セキュリティ要請に応じたことが取引につながったと回答した企業の割合は、ISMS取得企業が、取得していない企業の約2.5倍となっており、ISMS認証取得が企業間取引に良い影響を与えていることがうかがえます。
なぜeラーニングによるISMS研修が必要なのか?7つのメリット
次に、企業がeラーニングによってISMS研修を実施するメリットについて解説していきます。
メリット1: ISMS認証の取得・維持
ISO/IEC 27001では、従業員(組織の構成員)がISMSの運用に必要な力量を備えていることが求められます。情報セキュリティに関わりのある全ての部門や従業員に、十分な教育が必要です。
また、ISMS認証は取得時に審査機関による審査があり、取得後も定期的に審査を受けなければ維持できません。そのため、審査の目的やプロセスを従業員が正しく理解し、協力する体制が不可欠です。
これらに対応するには、全社的かつ継続的な教育が必要であり、eラーニングはその基盤を支える有効な手段といえるでしょう。
メリット2:全従業員で情報セキュリティを確保
情報セキュリティ事故の多くは、従業員の不注意や誤操作といったヒューマンエラーに起因します。そのため、担当部門だけではなく、全従業員が等しく情報セキュリティについての正しい知識を持ち、行動することが重要です。
eラーニングであれば、部署や勤務地を問わず一斉に教材を配信できるため、全社的な教育に最適です。従業員一人一人がISMSの基本要件やポリシー、手順、ガイドラインを理解し、実務で遵守することが、組織全体の情報セキュリティを確保する鍵となります。
メリット3:教育内容の統一性と一貫性
ISMSにおいて重要な点は、組織全体で情報セキュリティ方針に関する共通認識を持ち、全従業員が一貫した行動を取れる組織体制を築くことです。
eラーニングを活用すれば、全従業員に対して内容が統一されたコンテンツを提供できるため、自社の情報セキュリティに関する方針やルールを正確に、かつ一貫して伝えることが可能です。
これにより、情報の伝達漏れや解釈のばらつきを防ぐとともに、実践レベルでの対応力を高めることができます。組織の規模を問わず、教育の質を均一に保てる点が大きな強みです。
メリット4:教育やコストの面における効率性
eラーニングは、受講者が時間や場所の制約を受けず、業務の合間など自分のペースで学習できる点が大きな利点です。加えて対面での集合研修やセミナーと比べて、講師の手配や会場費用が不要なため、コストを抑えつつ質の高い教育を多数の従業員に提供できます。
さらに、eラーニングシステム(LMS:学習管理システムともいいます)を活用することで、研修計画の登録、受講案内、申し込み受け付け、リマインドメールの自動配信といった業務を効率化でき、教育担当者の負担も大幅に軽減されます。
メリット5:他の教材との組み合わせが容易
多くのeラーニングシステム(LMS)では、関連するテーマの複数の教材を指定して受講者に届けることが可能です。それにより、情報セキュリティの教材と他のテーマの教材を組み合わせて全社教育を実施できます。
例えば、コンプライアンスなど、情報セキュリティに関連性の高い重要なテーマと連携させて一括で学べるようにすることで、学習効果を高めるとともに、多角的な視点でリスクを考える姿勢の醸成につながります。
メリット6:学習進捗の記録・追跡、評価がしやすい
多くのeラーニングシステム(LMS)には、学習の進捗やスキルの習得状況を可視化する機能が備わっており、受講者ごとの学習履歴や評価結果が自動で記録されます。これによって、理解度に応じたフォローアップが容易になり、より効果的な教育の実施につながります。
また、テスト結果をリアルタイムで確認することも可能です。正解数などの定量的データによって各従業員の理解度を明確に把握できるため、ISMSや情報セキュリティに関してどのような知識が浸透していないかを判断しやすくなります。
メリット7:コンテンツの更新と継続的な学習がしやすい
組織の情報セキュリティ管理は、継続的な改善が求められます。これに対応するためには、教育内容も常に最新の情報に即した内容へとアップデートされなくてはなりません。
eラーニングであれば教材の改訂や追加が容易で、全従業員に対して迅速に最新版を配信できます。従業員が常に情報セキュリティの最新知識を身に付けられる環境を整えることで、多様化・高度化する情報セキュリティにおける脅威に、柔軟に対応できる組織づくりが可能です。
マイクロラーニングのメリット・デメリットを解説!⇒「マイクロラーニング大全」を無料でダウンロードする
ISMS研修で学ぶべき4つのプログラム
eラーニングを使ったISMS研修では具体的にどのような内容を学ぶべきなのでしょうか。ここでは代表的なプログラムを紹介します。
基本的な情報セキュリティ知識
情報セキュリティの知識は、現代のビジネスにおいて不可欠な要素です。サイバー攻撃や、悪意ある関係者による情報の持ち出し・改ざんなどの内部不正、誤送信など、情報セキュリティにおける脅威は日々多様化・高度化しており、一度の事故が企業の信用や顧客基盤を大きく揺るがす恐れがあります。
企業・組織の情報を守るための管理体制の確立と継続的な改善の推進というISMSへの取り組みを企業が行う意義は、単なるルールの遵守にとどまらず、信頼性の高い組織としての姿勢を内外に示すことにあります。
ISMSを組織全体で有効に機能させるためには、従業員一人一人が情報の取り扱いに対する基本的な知識を持つことが重要です。
具体的な脅威と対策
情報セキュリティにおける脅威が年々多様化している現状を学ぶ必要があります。代表的な脅威としては、ウイルス感染やランサムウェアによるファイルの暗号化、標的型攻撃メールを通じた不正アクセスなどがあります。
特に巧妙に偽装されたフィッシングメールは、従業員がうっかりID・パスワードなどの認証情報や個人情報、業務上の機密情報などを入力してしまう可能性が高く、被害が拡大しやすい傾向にあります。
また、従業員が個人のSNSで業務に関わる情報を発信することも企業の機密情報流出や信用失墜につながる可能性があり、SNSに関する適切なルールづくりと教育が欠かせません。
加えて、内部関係者による不正な情報の持ち出しや改ざんなども無視できないリスクです。情報へのアクセス権限の管理や監視体制の強化と並行して、従業員への倫理教育も重要な対策の1つです。
社内ルール
情報セキュリティを確保するためには、従業員一人一人が社内ルールを理解し、それに沿って行動することが重要です。
例えば、パスワードの適切な管理は基本中の基本であり、使い回しの禁止や定期的な変更、複雑な文字列の設定などが求められます。また、顧客の個人情報など機密情報を扱う際には、利用範囲や保管方法といった取り扱いに関するルールを遵守する必要があります。
さらに、「クリアデスク」(離席時に書類を机上に放置しない)、「クリアスクリーン」(離席時にPCなどの画面に情報を表示したままにしない)の実施も、情報漏えい防止に大きく貢献します。
その他、業務用PCやスマートフォンを社外に持ち出す場合や、万が一紛失した場合の対応手順も周知しなくてはなりません。
情報セキュリティ事故(セキュリティインシデント)発生時の対応
万が一、情報漏えいやウイルス感染などの情報セキュリティ事故(セキュリティインシデント)が発生、または疑われる場合には、迅速かつ正確な対応が被害の最小化につながります。
そのためには、事前に定められた報告・連絡・相談(いわゆる「報・連・相」)のフローを、研修によって従業員全員が把握しておくことが不可欠です。
例えば、疑わしいメールを開封した、業務端末の挙動が不審であるといった場合には、速やかに上司や情報セキュリティ部門へ連絡し、指示を仰ぐ必要があります。
自己判断での対応や放置は、被害の拡大につながりかねません。適切な初動対応が、その後の調査や回復、再発防止策の実施を円滑に進める鍵となります。
ISMS研修で使用するeラーニング教材のチェックポイントと具体例
次に、ISMS研修ではどのようなeラーニング教材を使用すれば高い効果が得られるのか、チェックすべきポイントと教材の具体例を解説します。
ISMS研修におけるeラーニング教材のチェックポイント
ISMS研修においてeラーニング教材を選定する際は、以下の3つの重要なポイントを押さえる必要があります。
ISMSの基礎・実践知識から、実際の運用まで網羅的な内容か
教材の内容は、ISMSの基礎知識から実務的な運用までを網羅した構成であることが大前提です。一般的な知識を身に付けるだけでなく、自社で起きた事例を織り込むなど、従業員の危機意識を高め、実践につながる内容が学べるかを確認しましょう。
最新の脅威に対応した内容か
AIを悪用した標的型攻撃など、最新の脅威に対応した内容を含んでいるかどうかも重要な評価軸です。
進化する情報セキュリティの脅威の内容を反映した最新の教材を導入することで、実効性の高い研修につながります。
受講者が飽きない工夫があるか
教材は、記憶に残りやすい動画やアニメーション、画面操作を必要とするクイズ・テストなどを組み合わせ、受講者が飽きずに学習を進められるよう工夫されたものが理想です。
文字や音声のみの教材は、内容構成が単調になりがちで退屈に感じやすく、学習効果が限定されてしまう可能性があります。
次に、以上の3つのポイントを押さえたeラーニング教材の例として、ライトワークスの教材をご紹介します。
教材(1):ISMSのエッセンス:ISMSの基礎・実践知識、社内ルールの事例など
ライトワークスのeラーニング教材「ISMSのエッセンス」は、ISMSについての包括的な理解を促します。情報漏えいの防止をはじめとする情報セキュリティ強化を目的に、企業全体での意識向上と知識の共有を図る内容となっています。
ISMSの概要から、導入・運用に関する実践知識、具体的な社内ルール事例まで、網羅的に学習することができます。ISMSの理論にとどまらず、実際の業務に生かせる事例や運用方法も学べるため、階層を問わず全従業員に有用な教材です。
また、各章に確認テストが用意されており、理解度を可視化できる点も特長です。受講者に対して内容の理解と定着を促すだけでなく、企業側が教育効果を把握することにも役立ちます。
無料トライアルあり!「ISMSのエッセンス」 ⇒ 詳しく見る
教材(2):ISMS・一問一答:ISMSの概要や実践知識に関するテスト
ライトワークスのeラーニング教材「ISMS・一問一答」は、ISMSに関する知識を確認し、定着を図るためのテスト形式の教材です。
ISMSは組織として情報セキュリティを包括的に管理する枠組みであり、有効に機能させるためには全ての従業員が基本的な考え方や運用ルールを理解している必要があります。
この教材では、ISMSの概要から実務的な知識まで幅広い内容の問題が出され、受講者は採点結果によって自らの理解度を客観的に把握することが可能です。回答するというアウトプットと、採点結果を踏まえて解説を再確認するという再インプットを通して学習内容の定着を図ります。
ISMS研修の一環として活用することで、従業員一人一人に情報セキュリティの重要性を再認識させ、社内のルールや方針に基づいた行動を取るよう促す効果が期待できます。
ISMSについての知識を確認!「ISMS・一問一答」 ⇒ 詳しく見る
なお、ライトワークスでは、eラーニングシステム(LMS)とeラーニング教材が一体化したオールインワンサービス「CAREERSHIP GROWTH」を提供しています。
多機能、高性能なシステムと1000本以上の豊富な教材がそろっており、運用・管理や教材選定の手間を削減しつつ、より効果的な研修運営の実現をサポートします。
自社に最適なeラーニングシステムを探すなら ⇒ 「企業向けeラーニングシステム比較eBook」を無料で読む
まとめ
ISMSとはInformation Security Management Systemの頭文字を取った略称で、情報セキュリティマネジメントシステムを指します。ISMS認証の取得は企業の信頼性向上に大きく貢献します。
eラーニングでのISMS研修の実施には以下のメリットがあります。
- ISMS認証の取得・維持
- 全従業員で情報セキュリティを確保
- 教育内容の統一性と一貫性
- 教育やコストの面における効率性
- 他の教材との組み合わせが容易
- 学習進捗の記録・追跡、評価がしやすい
- コンテンツの更新と継続的な学習がしやすい
また、ISMS研修では主に以下の内容を学びます。
- 基本的な情報セキュリティ知識
- 具体的な脅威と対策
- 社内ルール
- 情報セキュリティ事故発生時の対応
ISMS研修に適したeラーニング教材のチェックポイントとして以下の3つがあります。
- ISMSの基礎・実践知識から、実際の運用まで網羅的な内容か
- 最新の脅威に対応した内容か
- 受講者が飽きない工夫があるか
このポイントを押さえたeラーニング教材の例としてライトワークスの教材を紹介しました。
- ISMSのエッセンス:ISMSの基礎・実践知識、社内ルールの事例など
- ISMS・一問一答:ISMSの概要や実践知識に関するテスト
ISMS研修の継続的な実施は、組織全体の情報セキュリティ管理の基盤づくりに直結します。eラーニングを活用することで、効率的・効果的な教育施策の実施が可能です。
ライトワークスでは、ISMSをはじめ、関連テーマに関する研修に最適なeラーニング教材を多数取りそろえています。教材の詳細や導入支援など、お気軽にお問い合わせください。
- 独立行政法人情報処理推進機構「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査報告書」,2025年5月公表,P13,(閲覧日:2025年6月27日) ↩︎