動的な人材ポートフォリオとは?構築ステップや活用法、情報開示についても解説

「動的な人材ポートフォリオの重要性は理解しているが、何から手を付ければよいだろうか」

人的資本経営の要として動的な人材ポートフォリオが注目されています。しかし、「従来の“適材適所”と何が違うのか」「どう経営戦略と結びつければいいのか」といったお悩みを持つ人事担当者の方も多いのではないでしょうか。

そして、この状況を避けられない経営課題へと押し上げているのが、深刻な労働力不足という社会背景です。

リクルートマネジメントソリューションズの調査1でも指摘されるように、これからの人材マネジメントは、「採用による量の充足」と「育成による質の向上」だけでなく、柔軟な「流動化」、つまり異動・配置で人材の最適化に取り組み、その価値を最大限に引き出すことが重要になります。

この「流動化」を、経営戦略と連動させながら実現するフレームワークこそが、動的な人材ポートフォリオなのです。

この記事では、動的な人材ポートフォリオの基本や、5ステップでの構築方法、そして実際の活用方法までを、先進企業の事例を交えながら分かりやすく解説します。自信を持って戦略的な人事施策を企画・実行するために、ぜひ“人的資本経営の実践ガイド”として参考にしてください。

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人的資本経営とは? 情報開示義務化の前に知っておきたいポイント
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AIで要約

  • 将来の事業目標から逆算して人材の量的・質的なギャップを特定し、採用や育成などの施策を経営戦略と連動させ続けることがポートフォリオ構築の本質です。
  • 制度導入を成功させるには人事部門だけで進めず、経営層や事業部門を初期段階から巻き込み、全社プロジェクトとして合意形成を図ることが不可欠です。
  • 人的資本経営の開示において投資家が重視するのは現状の数値ではなく、目標達成に向けた人材ギャップをどう埋めるかという未来へのストーリーです。
目次

人的資本経営と動的な人材ポートフォリオの基本

近年、企業経営の手法として「人的資本経営」が注目されています。

人的資本経営とは、人材を人件費がかかる「コスト」として捉えるのではなく、投資によって価値が高まる「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

そして、この経営思想を実践するための中核的なフレームワークこそが、動的な人材ポートフォリオなのです。まずは、その概要や役割について確認してみましょう。

動的な人材ポートフォリオは人的資本経営の中核フレームワーク

動的な人材ポートフォリオとは、企業の経営や事業の目標を実現するために、どのような人材がどのくらい必要かを考え、人材構成・配置を時代や環境の変化に合わせて見直していく戦略的アプローチを指します。

一言でいえば、「未来の事業計画に合わせて、どうやって最強のチームをつくるのか」を考えることです。動的な人材ポートフォリオは、人的資本経営という考え方を、実際の経営に生かすための中核的なフレームワークといえます。

具体的な運用としては、以下のように、あるべき姿(To Be)と現状(As Is)を比較し、そのギャップを常に把握して埋め続ける活動を行います。

あるべき姿(To Be)

3〜5年後の中期経営計画を達成するために、「どのようなスキルや経験を持つ人材が、どの部署に、何人必要なのか?」という未来の理想形を、経営計画や事業目標から逆算して具体的に描き出します。

現状(As Is)

現在、「どのような人材が、どこに、どれくらい存在するのか」を、スキル、経験、キャリア志向といった客観的なデータに基づいて正確に把握します。

ギャップの分析と打ち手の実行

「あるべき姿」と「現状」を比較し、そのギャップを特定します。そして、そのギャップを埋めるために、採用・育成・配置転換といった人事施策を計画的に、そして継続的に実行し続けます。

この、未来から逆算する「バックキャスティング」の思考で、常に人材の最適化を図り続けることこそが、動的な人材ポートフォリオの本質です。

なぜ「動的」でなければならないのか?

従来の人材管理は、年に一度の組織図更新のような「静的なスナップショット」になりがちでした。

しかし、時代は変わり、次の3つの大きな社会の潮流によって、人材ポートフォリオは「動的」であること、つまり、「変化を後追いするのではなく、変化に人事戦略を常に連動させ、適応し続ける状態」であることが不可欠となっています。

人的資本情報の開示義務化の流れ

経済産業省が公表した、人的資本経営のガイドラインである「人材版伊藤レポート2.0」2では、「動的な人材ポートフォリオ」が人的資本経営を実践するための5つの共通要素の1つとして明確に位置づけられました。

この背景には、人的資本情報の開示義務化という大きな流れがあります。

企業が開示する情報の内容として、「女性管理職比率」や「研修時間」などの数値だけでなく、「その人材戦略が、どう経営戦略と結びつき将来の企業価値向上につながるのか」が示されていることが重要です。

常に変化する経営戦略に合わせて、人材の現状と理想のギャップを把握し、その差を埋め続けるといった動的な仕組みなくして、説得力のある情報開示は不可能なのです。

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経営環境の激変

VUCAと呼ばれる予測不能な時代において、企業が変化に迅速に対応する「アジャイル経営」を行うには、経営戦略と人材配置を瞬時に連動させる必要があります。

動的な人材ポートフォリオを構築していれば、企業は経営戦略の変更に合わせて、必要な人材を迅速に集めたり、配置転換したりすることが可能になります。これが、組織の俊敏性(アジリティ)を高めることにつながるのです。

キャリア自律の時代

終身雇用制度の時代が終わりを迎えつつある中で重要になっているのが、従業員一人一人が自らのキャリアの主導権を握る「キャリア自律」という考え方です。

キャリア自律の姿勢を持つ優秀な人材を獲得するには、求職者に魅力的な成長機会とキャリアの透明性を提供し、「この会社で働けば成長できるか」「自分の目指すキャリアプランは実現できるか」といった問いに、明確な答えを示す必要があります。

そこで、動的な人材ポートフォリオが、企業と従業員の新しい関係性の基盤となります。個人の「成長したい」という意欲と、企業の「この事業を伸ばしたい」というニーズを結びつけ、双方にとって有益な関係を築くことで、従業員のエンゲージメントを高めるのです。

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【5ステップで実践】動的な人材ポートフォリオの構築方法

経営戦略と連動した動的な人材ポートフォリオの構築は、体系的なステップを踏むことで着実に進めることが可能です。ここでは、そのための具体的な5つのステップを解説します。

Step 1:経営戦略との連動:あるべき姿(To Be)の明確化

全ての出発点は、自社の中期経営計画や事業戦略を深く理解し、そこから将来のあるべき人材構成、すなわち、「To Beモデル」を描き出すことです。

このステップをしっかりこなすことで、人材ポートフォリオを経営の実態に即した実用的なものに仕上げられます。

「3年後、どの市場で競争優位を築くのか?」「そのために、どのような機能や能力が不可欠か?」といった問いを突き詰め、事業目標を達成するために必要な人材の質(スキルや専門性)と量(人員数)の両面から定義します。

Step 2:現状の可視化(As Is):客観的データに基づく人材アセスメント

次に、現状の人材構成である「As Isモデル」を正確に把握します。重要なのは、上司の主観的な評価や思い込みに頼るのではなく、客観的かつ科学的なデータに基づいて人材を評価することです。

収集すべきデータは、氏名や所属部署などの基本的な属性情報に加え、スキル、保有資格、過去の業務経験、パフォーマンス評価、キャリア志向など多岐にわたります。

特に、従業員の研修履歴や、それによって習得したスキルといったデータは、LMS(Learning Management System:学習管理システム)などを活用することで、客観的かつ一元的に収集・管理することが可能です。

こうしたデータ基盤を整えることで、これまで見過ごされてきた個々の才能や、組織全体の強み・弱みが定量的に浮き彫りになります。

Step 3:ギャップ分析:理想と現実の差異を定量的・定性的に把握

「To Beモデル」と「As Isモデル」を比較し、その差異であるギャップを分析します。このギャップ分析こそが、具体的な人事施策を導き出すための根幹となります。

ギャップは、人員数の過不足といった量的ギャップと、スキルや経験の質の差異といった質的ギャップの両方から捉える必要があります。

【ギャップ分析の事例】株式会社九州フィナンシャルグループ

株式会社九州フィナンシャルグループは、2030年のありたい姿である「地域価値共創グループ」の実現からバックキャスト(未来からの逆算)する形で、将来必要となる専門人材ポートフォリオ(To Be)を策定しました。

同社は2024年3月期の有価証券報告書において、現状(As Is)の専門人材の充足率が34%であること、そして2030年の目標達成には677人のギャップがあることを定量的に示しています。さらに、そのギャップの内訳を「法人コンサル」「IT・DX」といった分野別に人数を開示することで、課題の解像度を高めています。

ギャップを埋めるための具体的な施策として、「採用強化(リファラル・アルムナイ採用等)」「計画的育成(高度専門資格の取得支援等)」「戦略的人材活用」といったアクションプランも提示しています 。

Step 4:人材タイプの定義とスキルの構造化:組織の共通言語を創る

ギャップ分析をきめ細かく行い、組織全体で人材について議論するためには、共通言語が必要です。このステップでは、人材を評価・議論するための客観的な「モノサシ」を作るために、自社に合った人材タイプを定義し、スキルを体系的に構造化します。

例えば、以下のような作業を行うことで、評価や育成の精度が格段に向上します。

  • 「ジェネラリスト/スペシャリスト」×「創造的思考が得意/定型業務が得意」といった2軸のマトリクスで人材タイプを定義する
  • 「コミュニケーション能力」のような抽象的な言葉ではなく、「プロジェクトの進捗状況を、専門用語を避けて分かりやすく、チームメンバーに5分以内で要点を伝えられる」といった具体的な行動レベルでスキルを定義する

人材タイプを定義することで、プロジェクトの特性に応じた適材適所の配置が可能になるほか、組織の将来を見据えた採用・育成計画が立案できる、人事評価の客観性と公平性が保たれるといったメリットがあります。

なお、スキル構造化の方法はさまざまですが、全社で共有できる「スキルマップ」の作成は有効な手段の1つです。「スキルマップ」とは、職務や等級ごとに求められるスキルと、その習熟度レベルを一覧にしたものをいいます。

スキルマップの活用により、人材配置の最適化や、ベテランから若手へのスムーズな技能伝承などが可能になります。

【人材タイプ定義の事例】旭化成株式会社

旭化成株式会社は、高い専門性を持つ人材を「高度専門職」と位置づけています。同様に「デジタルプロフェッショナル人財」についてもレベル別に定義し、育成目標を設定するなど、目指すべき人材像を全社で共有しています。

さらに、これらの人材類型を基に、毎年、事業軸と機能軸の両面から必要な人材の質と量を洗い出し、現状とのギャップを可視化しています。

そのギャップを埋めるために、社内育成やキャリア採用だけでなく、M&Aによる人材獲得や、コーポレートベンチャーキャピタルを通じた外部連携といった多様な手段を組み合わせ、戦略的な人材ポートフォリオの構築を進めています。

Step 5:実行計画の策定:採用・育成・配置の具体的な打ち手

最後に、分析で見つかったギャップを埋めるためのアクションプランを策定します。

ここでいうアクションプランとは、ギャップ分析で見つかった人材の過不足(ギャップ)を、いつまでに・どうやって埋めるのかを定めた具体的な実行計画のことです。

この計画では、「採用」「育成」「配置」という3つの人事機能が、同じ目標に向かって連動することが重要です。

【実行計画の策定の事例】株式会社日立製作所

株式会社日立製作所および連結子会社は、経営戦略と人材戦略、そして具体的なKPI(重要業績評価指標)をツリー構造で整理し、個々の打ち手までを明確に連動させています。

例えば「社会イノベーション事業のグローバル拡大」という経営戦略に対して、「事業成長に必要なデジタル人財の確保・育成」や「グローバルでの経営リーダーの選抜・育成」といった人材戦略を明示しています。

さらに、それぞれの戦略には「デジタル人財数」や「リーダー候補の多様化状況」といったKPIが設定されており、実行計画の進捗と経営目標への貢献度を一体で管理する仕組みを構築しています。人事施策を単なる個別のアクションで終わらせず、経営戦略の達成に直結させているのです。

「作っただけ」で終わらせない!動的な人材ポートフォリオの戦略的活用法

動的な人材ポートフォリオの真価は、日々の経営活動や人事施策において、いかに戦略的に活用されるかにかかっています。

ここでは、主要な3つの活用法について確認していきます。

活用法1:戦略的人員配置とサクセッションプランニング

新規プロジェクトの立ち上げの際、そのときの状況に最適化された人材ポートフォリオを活用すれば、必要なスキルセットを持つ人材をデータに基づいて検索し、迅速にチームを組成できます。

また、将来の経営幹部などキーポジションのサクセッションプランニング(後継者育成計画)においても、候補者を早期に特定し、不足している経験を計画的に積ませるための戦略的な配置転換が可能になります。

活用法2:ROIを最大化するリスキリング・アップスキリング

動的な人材ポートフォリオによって組織全体のスキルギャップを明確にすることで、教育投資のROI(投資対効果)を最大化できます。

例えば、「DX推進のためのデータ分析スキル」養成など、戦略的に重要な領域への研修予算の集中投下によって、全従業員に一律で提供される「ばらまき型」の研修から脱却し、効果的な人材育成が実現します。

活用法3:採用戦略の高度化

人材の獲得競争が激化する中、動的な人材ポートフォリオは採用戦略の精度を格段に向上させます。

社内での育成では埋められないスキルギャップが明確になることで、外部から採用すべき人材の要件が具体的に定義され、採用のミスマッチを大幅に低減できます 。

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動的な人材ポートフォリオ導入の壁を乗り越える:成功のための3つのポイント

動的な人材ポートフォリオの導入には、多くの企業が直面する典型的な「導入の壁」があります。

ここでは、その壁としてよくある失敗例を挙げ、プロジェクトを成功に導くための3つのポイントを解説します。

ポイント1:「全社プロジェクト」として経営層・事業部門を巻き込む

【よくある失敗例】

人事部門だけで人材ポートフォリオの作成を進めた結果、現場の実態とかけ離れた「絵に描いた餅」になってしまった。

【ポイント解説】

動的な人材ポートフォリオの構築は、人事部門だけの仕事ではありません。経営層の強いコミットメントの下、事業部門を主体的に巻き込むことが成功の絶対条件です。

あるべき姿(To Be)の策定段階から事業部門の責任者を交えて議論することで、現場の納得感が高まり、真に戦略と連動した人材ポートフォリオが完成します。

この議論を実効性のあるものにするための具体的な対策として、経営トップやCHRO(最高人事責任者)、主要な事業責任者が参加する「人材委員会」のような会議体を設置することが挙げられます。

さらに、株式会社日立製作所のように、社長自らが経営リーダー候補者と1on1を行う3など、経営層が人材育成に直接関与すると、人事戦略は経営戦略と完全に一体化し、全社的な実行力を持つようになります。

ポイント2:スキル体系化における「スキル定義」と「データ品質」の壁を乗り越える

【よくある失敗例】

  • 「リーダーシップ」や「問題解決能力」といった抽象的なスキル項目を設定した上、具体的な行動基準が示されていないため、従業員が「何をどう評価すればよいか分からない」状態になってしまった。
  • 評価基準が不明確なため、従業員はスキル情報の入力をしない、あるいは「3(普通)」といった当たり障りのない自己評価を付けるようになってしまった。
  • 上記のような状態のため、スキルデータが集まらない、または収集したデータの信頼性が低いという事態に陥ってしまった。

【ポイント解説】

このような失敗を避けるためには、完璧主義を捨てることが重要です。これは、スキルの定義を曖昧にするという意味ではありません。

最初から全社・全部署で完璧なスキル体系(スキルマップ)を一度に作ろうとせず、まずは戦略的に重要な一部門や特定の職種に範囲を限定して「スモールスタート」で始めましょう、ということです。

まずは特定の範囲内でスキル定義の細分化(具体的な行動レベルへの落とし込み)を徹底的に行うアプローチが有効です。

この成功体験を基に、他部署へ横展開していくことで、全社的な導入を現実的なものにできます。

また、スキル定義の作業は、現場の管理職や従業員を巻き込んだワークショップ形式で進めるとよいでしょう。実務に即した具体的なスキルを行動基準に落とし込むことができ、誰もが納得感を持って評価できる共通言語が生まれます。

ポイント3:現場の心理的抵抗をプラスに変えるコミュニケーション

【よくある失敗例】

従業員に目的を伝えないままスキルデータの入力を依頼したため、「監視されているようだ」と反発を招いてしまった。

【ポイント解説】

「自分のスキルが監視されるのでは」といった従業員の不安を払拭するためには、丁寧なコミュニケーションが不可欠です。

経営トップ自らの言葉で、動的な人材ポートフォリオの作成が「管理や監視」のためではなく、「一人一人の成長と活躍を支援し、キャリアの可能性を広げる」ためのものであるというポジティブなメッセージを繰り返し発信し続ける必要があります。

さらに、入力したスキル情報に基づいて新しいプロジェクトへの抜擢や、希望する研修への参加が実現した、といった具体的な成功事例を積極的に共有することも極めて有効です。

従業員が「スキル情報を入力することが自分にとってメリットになる」と実感できれば、心理的な抵抗感は協力的な姿勢へと変わっていくでしょう。

企業価値を語る:動的な人材ポートフォリオの戦略的情報開示

動的な人材ポートフォリオの構築は、社内的な人事改革にとどまりません。その取り組みを社外のステークホルダー、特に投資家にどう説明し、企業価値の向上につなげるかという情報開示の視点が不可欠です。

例えば、中期経営計画で「DX戦略」を掲げた場合、投資家が真に注視するのは、現時点でのDX人材の多寡ではありません。「既存事業から成長分野へ、どのように人材をシフトさせ、生産性を向上させているか」という、経営戦略の変更に合わせて人的資本を再配分する「経営の機動力」そのものです。

動的な人材ポートフォリオは、この問いに答えるための客観的で説得力のある説明材料となります。

本章では、構築したポートフォリオをいかに社外へ説明し、企業価値向上につなげるかを解説します。

投資家が知りたいのは「未来へのストーリー」:ギャップとアクションプランの開示

投資家は、「研修時間は〇時間」、「女性管理職比率は〇%」といった断片的な人的資本情報だけを確認したいのではありません。

それらを含む人材戦略が、どのように経営戦略の実現に貢献するのかという「ストーリー」を知りたいのです。

「ストーリー」とは、「理想(To Be:経営目標)を実現するために、現状(As Is)とのギャップをどのような人材施策(アクションプラン)で埋めるのか」という一連の計画をいいます。

ストーリーを示すことで自社の人材戦略の信頼性は高まり、投資家に「人材戦略が経営戦略と直結していて、実現可能性が高そうだ」と判断してもらうための強力な材料となります。

【事例】三井化学株式会社

三井化学株式会社は、長期経営計画「VISION2030」の実現に向け、人材に関する3つの優先課題(ギャップ)を、以下のように特定しています。

  1. 人材の獲得・育成・リテンション
  2. 従業員エンゲージメント向上
  3. グループ・グローバル経営強化

併せて、それぞれの課題に対して、「グループ内のキャリア機会開示」や「組織・社員の対話強化」といった実行すべき方策(アクションプラン)を明確化し開示しています。

このように、自社が認識している人材課題(ギャップ)と、それに対する具体的な解決策(アクションプラン)をセットで示すことは、投資家に対して、企業が戦略的に課題解決に取り組んでいるという強いメッセージとなり、経営戦略の実現可能性に対する信頼を高めます。

「見られる意識」が社内変革を加速させる:情報開示の副次的効果

情報開示は、社外へのアピールだけでなく、社内にも大きなメリットをもたらします。

人的資本の情報開示の手引きである「人的資本可視化指針4では、人的資本の開示は経営者、投資家、そして従業員をはじめとするステークホルダー間の相互理解を深めるために不可欠であるとされています。

中でも、「投資家からのフィードバック」を開示情報や人材戦略に反映させていくという循環的な取り組みが重要視されています。つまり、「投資家に見られている」という意識を持つことが、経営層にとっては自社の人材戦略をより客観的に見つめ直し、議論を深める絶好の機会となるのです。

このように、社外への説明責任を果たすプロセスそのものが、結果として経営陣のコミットメントを高め、人的資本経営への取り組みを加速させるという好循環を生み出します。

人的資本経営を加速させるHRテックの活用

動的な人材ポートフォリオの議論を深める上で、その基盤となるのが「人材情報の統合」です。従業員のスキルや研修履歴、キャリア志向といったデータを一元的に可視化することで、初めて戦略的な議論が可能になります。

データの管理はExcelでも可能ではありますが、入力等のミス発生や管理の属人化といった問題が起きやすい点がデメリットです。

管理・更新のしやすさやセキュリティ対策、便利な機能による効率化などを考慮すると、LMS(学習管理システム)やタレントマネジメントシステムの導入がおすすめです。

例えばライトワークスの統合型LMS「CAREERSHIP」は、従業員一人一人のスキルや学習履歴、資格取得状況などをデータベース化するキャリアカルテ機能や、スキル可視化やスキルマップ作成に役立つスキル管理機能を備えており、人的資本経営の基盤構築を効率的に行うことができます。

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まとめ

動的な人材ポートフォリオとは、会社の経営や事業の目標を実現するために、どのような人材がどのくらい必要かを考え、人材構成・配置を時代や環境の変化に合わせて見直していく戦略的アプローチのことです。

人的資本経営という考え方を、実際の経営に生かすための中核的なフレームワークといえます。

具体的な運用としては、あるべき姿(To Be)と現状(As Is)を比較し、そのギャップを常に把握して埋め続ける活動を行います。

未来から逆算する「バックキャスティング」の思考で、常に人材の最適化を図り続けることこそが、動的な人材ポートフォリオの本質です 。

次の3つの大きな社会の潮流によって、人材ポートフォリオは「動的」であることが不可欠となっています。

  • 人的資本情報の開示義務化の流れ
  • 経営環境の激変
  • キャリア自律の時代

動的な人材ポートフォリオは次の5つのステップで構築できます。

Step 1:経営戦略との連動:あるべき姿(To Be)の明確化

Step 2:現状の可視化(As Is):客観的データに基づく人材アセスメント

Step 3:ギャップ分析:理想と現実の差異を定量的・定性的に把握

Step 4:人材タイプの定義とスキルの構造化:組織の共通言語を創る

Step 5:実行計画の策定:採用・育成・配置の具体的な打ち手

動的な人材ポートフォリオの主要な3つの活用法は次の通りです。

  • 戦略的人員配置とサクセッションプランニング
  • ROIを最大化するリスキリング・アップスキリング
  • 採用戦略の高度化

動的な人材ポートフォリオの「導入の壁」を乗り越える3つのポイントは次の通りです。

ポイント1:「全社プロジェクト」として経営層・事業部門を巻き込む

ポイント2:スキル体系化における「スキル定義」と「データ品質」の壁を乗り越える

ポイント3:現場の心理的抵抗をプラスに変えるコミュニケーション

動的な人材ポートフォリオの構築においては、次のような情報開示の視点も不可欠です。

  • 投資家が知りたいのは「未来へのストーリー」:ギャップとアクションプランの開示
  • 「見られる意識」が社内変革を加速させる:情報開示の副次的効果

動的な人材ポートフォリオの議論を深める上で、その基盤となるのが「人材情報の統合」です。LMS(学習管理システム)やタレントマネジメントシステムを活用すると、管理・更新などの作業を効率化できます。

動的な人材ポートフォリオは、経営戦略と人材戦略をダイナミックに連動させ、変化の激しい時代を勝ち抜くための経営そのものです。

この記事で紹介したステップやポイントを参考に、まずは自社の経営戦略と向き合い、将来どのような人材が必要になるのかを定義することから始めてみてはいかがでしょうか。

  1. リクルートマネジメントソリューションズ「人材マネジメント調査2025 ~労働力不足の新時代を切り拓く、これからの人材マネジメント~」(閲覧日:2025年9月29日) ↩︎
  2. 経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~」(閲覧日:2025年9月24日) ↩︎
  3. 経済産業省「事例-14株式会社日立製作所」,『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集』,P58,60(閲覧日:2025年9月29日) ↩︎
  4. 非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」(閲覧日:2025年9月24日) ↩︎

(参考)
金融庁「有価証券報告書のサステナビリティに関する考え方及び取組の開示例 4.『人的資本、多様性等』の開示例 株式会社九州フィナンシャルグループ」,『記述情報の開示の好事例集2024』,P25,https://www.fsa.go.jp/news/r6/singi/20241227/03.pdf(閲覧日:2025年9月24日)経済産業省「事例-01旭化成株式会社」,『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集』,P6, https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0_cases.pdf(閲覧日:2025年9月24日)
株式会社日立製作所「日立サステナビリティレポート2024 2023年度実績」,https://www.hitachi.com/content/dam/hitachi/global/ja_jp/sustainability/media/download/ja_sustainability2024.pdf(閲覧日:2025年9月25日)
経済産業省「事例-16三井化学株式会社」,『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集』,P66-67, https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0_cases.pdf(閲覧日:2025年9月29日)

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