HR Tech とは?導入メリットやトレンドをご紹介[業界カオスマップ付]
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「HR Techというのは人事の煩雑な業務を劇的に楽にしてくれるものらしいが、具体的には一体どのようなものなのだろう?」
「戦略人事」が叫ばれるようになり、経営方針に基づいた施策を積極的に提案・実施しなくてはならない人事部門の方も増えていると思います。
しかし、採用から育成、評価など、人事部門が担当する業務は多岐にわたっています。そこのところを効率化していかなければ、戦略の立案や実行にリソースを割くことはできません。
そこで注目を集めているのが「HR Tech(HRテック)」です。HR Techを導入することによって、労務管理を効率化したり、採用力を強化したり、効果的な人材育成や人材活用を図ることができます。
最近HR Techは何かと話題になっていますし、展示会でも多くのサービスが紹介されています。株式会社オデッセイによる「HRTechに関する市場調査」によると、今後HR Techの導入を考えている人事担当者は6割以上もいることがわかっています。[1]
しかし、その実態や真のメリットを理解されている方は、多くはないのではないでしょうか?
戦略人事の推進に伴い「人事担当者の本業」はより経営戦略に近いものになっており、より積極的・創造的な貢献が求められています。
HR Techを使いこなすことは、今後の人事戦略の内容とスピードを左右すると言っても過言ではありません。
本稿では、HR Techとは何か、導入するメリットや注意点、業界カオスマップを用いた業界全体図と市場規模、HR Techの代表的なサービス、国内外のトレンドなどを網羅的にご紹介します。
「HR Tech」のほか、「ARCSモデル」や「エンプロイアビリティ」など、近年話題の人事系キーワードについて詳しく知りたい場合は、163の用語を解説している「人事用語事典」(無料)をご利用ください。⇒ ダウンロードする
目次
「HR Tech」とは何か?概要と背景
まずは、「HR Tech」の用語の意味と、「HR Tech」が注目されている背景について解説し、「HR Tech」の実際の導入状況について説明します。
「HR Tech」とは?
「HR Tech」とは、人事を意味する「HR: Human Resources」と、技術を意味する「Technology」を組み合わせた造語であり、Human Resources Technologyの略です。
金融とテクノロジーを掛け合わせたFin Tech(Finance×Technology)」は良く知られています。他にも、教育とテクノロジーを掛け合わせた「Ed Tech(Education×Technology)」、農業とテクノロジーを掛け合わせた「Agri Tech(Agriculture×Technology)」などがあります。
このようにさまざまな領域に先端技術を掛け合わせたビジネスを「xTech(クロステック)」と呼びます[2]。「HR Tech」はその人事領域版というわけです。
一般的には、AIやビッグデータ、クラウド等の最新の技術を活用し、採用や育成、給与計算、人事評価などの人事労務管理を効率化し、効果を最大化することを指します。
具体的な例としては、採用管理システムや学習管理システムなどのツールが挙げられます。
言い換えれば、「HR Tech」とは人事部門の生産性の向上をサポートする手法のことです。
「HR Tech」が注目されている背景とは?
なぜ今、HR Techへの関心が高まっているのでしょうか。その背景には以下のようなものがあります。
- 人事業務の一層の効率化の必要性
- テクノロジーの発展
- 人事部門に求められる役割の変化
人事業務の一層の効率化の必要性
まず、人事業務をさらに効率化せざるを得なくなったことが挙げられます。
少子高齢化による労働人口の減少により、人材の確保が一層難しい状況になっています。
また、働き方改革によって生産性の向上が求められるようになり、最近ではテレワークで働く人が増えるなど、働き方も多様化しています。
優れた人材を獲得し、育成し、エンゲージメントを高め、さらに人事部門自身の生産性も上げていくには、まずは手間のかかるルーティン作業の負担を減らしていかなくてはなりません。
そのためには、人事業務の一層の効率化が必要となっています。
テクノロジーの発展
クラウド、ビッグデータ、AI等に代表される第4次産業革命を経て、テクノロジーが発展し、あらゆる産業においてこれまでになかった技術を活用し、業務に変革を起こせる時代になりました。それは人事業界も例外ではありません。
これらによって、業務の効率化ができるようになっただけではなく、従業員のスキルや勤怠状況など膨大なデータを可視化し、一元管理できるようになりました。
また、かつてはテクノロジーを活用しようにもオンプレミス型がメインであったため、サーバー設置費用や保守費用がかかり、非常に高額なコストが障壁になっていました。
しかし、今では手軽なクラウドサービスが増え、費用面・運用面ともに気軽に活用できる状況になりました。
こうした点も、「HR Tech」を取り入れやすい状況につながったと考えられます。
人事部門に求められる役割の変化
「戦略人事」という言葉にあるように、人事部門は一層経営戦略に資する貢献が求められています。
これまでは、人事は管理部門の一つとして定常的な業務の遂行を主な役割としてきました。しかし、これからは経営の「戦略パートナー」として、創造的・戦略的な業務を担う必要があります。
さらに、終身雇用制度の崩壊、新卒一括採用の見直しが進む中、採用・育成・配置・評価・キャリア開発・組織開発といった分野においては特に、柔軟かつ一人一人の人材にフォーカスしたマネジメントが求められます。これを、従来の様に人事担当者の経験や勘で行うのは困難です。
そこで、データとデジタル技術を活用することになります。いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)[3]です。これにより、人材に関するデータを駆使して、人的マネジメントのやり方を抜本的に変え、新たな価値創造に結び付けていくことができるのです。
このような技術革新が、HR Techというジャンルを生み出し、次世代へ向けた変革を促していると言えます。
「HR Tech」の導入状況
実際のところ、HR Techの導入状況はどうなっているのでしょうか。
HR総研による「人事系システムに関する調査」によると、人事系システムに最も導入されているのは「給与管理」システムであり、80%を占めていることがわかっています。
また、「勤怠(就業)管理」システムが第2位(64%)、第3位が人事管理システム(59%)と続いています。[4]
図)導入している人事系システム
引用元:「HR総研:人事系システムに関する調査【1】人事系システムと人事管理システム」,『HRpro』(閲覧日:2020年9月11日)
同調査によると、今後改修や導入を検討している人事系システムの第1位は、「人事管理システム」(29%)、第2位は「勤怠(就業)管理」システム(26%)、第3位が「給与管理」システム(21%)でしたが、第4位以降は「タレントマネジメント」(14%)、「人事考課(パフォーマンス管理)」(11%)、「マイナンバー管理」(11%)、「eラーニング」(11%)と続いています。
図)改修、追加開発、新規導入を計画している人事系システムや機能
引用元:「HR総研:人事系システムに関する調査【1】人事系システムと人事管理システム」,『HRpro』(閲覧日:2020年9月11日)
同調査からは、勤怠管理や給与管理といった基本的なシステムを揃えたら、タレントマネジメントや評価といった業務のシステム化へのニーズがあることが見て取れます。
「HR Tech」を導入するメリットと、導入する際の注意点
次に、HR Techを導入するとどのようなメリットがあるのか、そして導入する際にはどういったことに注意していけばよいのかを説明します。また、HR Techを導入した企業の先進事例として、日本アイ・ビー・エム株式会社の事例をご紹介します。
「HR Tech」を導入するメリットとは?
HR Techを導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。特定社会保険労務士の榊裕葵氏は、以下の5つを積極的メリットとして挙げています[5]。以下、榊氏の見解を元に、メリットをご紹介します。
(2) 社員の労務管理や福利厚生の質の向上
(3) 企業全体の効率化への波及効果
(4) 企業の売上や収益への貢献
(5) 従業員満足度の向上
(1) 人事労務部門の効率化
榊氏は、人事労務部門の効率化こそが、HR Techを導入することによる最も直接的なメリットであると述べています。
例としては、「勤怠管理システムでの、勤怠の自動集計化による集計工数の削減」などが挙げられます。
こうした日常業務だけではなく、採用活動や人事評価にも、HR Techは効率化に貢献するとしています。
(2) 社員の労務管理や福利厚生の質の向上
HR Techを導入することで、人事労務部門だけではなく、社員の労務管理や福利厚生の質も向上します。
例えば、労働時間管理のHR Techを導入し、各社員の残業時間をリアルタイムで把握できれば、負荷調整が可能になるといったことが挙げられます。
(3) 企業全体の効率化への波及効果
人事労務部門によるテクノロジー導入の成功体験ができれば、それを企業全体に水平展開できます。
例えば、経理部門のフィンテック導入や営業部門のCRM(顧客管理)システム導入につながると考えられます。
(4) 企業の売上や収益への貢献
HR Techの導入によって人事労務部門の業務が効率化されることで、コストが下がります。
例えば、これまで外注していた業務を内製化してアウトソーシングのコストを下げることができるようになります。
また、人事労務部門のコストダウンによって生じる人的余力を、より売上や利益に貢献する部門に配置転換することにより、企業の売上や収益に貢献できるようになります。
(5) 従業員満足度の向上
HR Techの導入により人件費の余力が生まれ、賞与や昇給によって従業員満足度を高められます。
また、単純事務作業をHR Techによって削減することで、社員をより「人にしかできない」業務に特化することができるようになります。
さらに、業務を効率化・標準化することにより環境が整備され、多様な働き方の実現にも貢献できるようになるでしょう。
このように、HR Techを導入するメリットは、人事部門だけではなく、社員や企業全体にも波及するものであるということがわかります。
「HR Tech」を導入する際の注意点
それでは反対に、HR Techを導入する際に気を付けなければいけないことは何でしょうか。以下の2点が挙げられます。
- 導入前に、「HR Techを導入することで何を解決したいのか」を十分に検討すること
- HR Techによって浮き彫りになった課題は、「人」が解決するという意識を持つこと
導入前に、「HR Techを導入することで何を解決したいのか」を十分に検討すること
HR Techは、「導入すれば自社の課題をなんとなく解決してくれる魔法の道具」ではありません。導入と活用は、あくまで人(企業)の目的と意向によります。
安易に導入しても活用しきれなかったり、何が解決したのかがわからないようでは、せっかく導入しても意味がなくなってしまいます。
まずは自社の本質的な課題は何なのかを十分に検討し、どういう状態になればよいのか(ゴールは何なのか)を社内で目線合わせした上で、「課題に対するソリューションとしてどのHR Techがふさわしいか」を選んでいく必要があります。
HR Techによって浮き彫りになった課題は、「人」が解決するという意識を持つこと
HR Techの導入によって、人事に関する大量のデータを可視化し、データを活用することができるようになりますが、課題を解決するのはあくまで「人」です。
例えば、メリットの項で挙げたように、勤怠管理に関するHR Techを導入した場合、社員の残業時間を簡単に把握できるようになります。
しかし、データから読み取れる情報をもとに課題を把握し、どのように解決していくのかを考える部分は、「人」が対処していかなければなりません。
HR Techはツールに過ぎません。自社の課題を解決していくのはあくまで人であるという意識を忘れないようにする必要があります。
上記のように、HR Techを導入する際には「自社の課題を考え、解決していくのは人事担当自身である」ということをしっかりと認識しておく必要があります。
「HR Tech」を導入した企業の先進事例-日本アイ・ビー・エム株式会社
それでは、実際に「HR Tech」を導入して成果を挙げている企業の事例として、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)の事例を紹介します。
ICTの分野などで幅広くサービスを展開している日本IBMは、変化するビジネスモデルに対応し、常に最先端の技術に対応できる優秀な人材を求め続けてきました。
そこで、かねてより認識されていた人事上の3つの優先課題を解決に導くべく、HR Techを導入し、成果を上げてきました。
1つ目の課題は、優秀な社員を獲得するために「社員に世界基準となるような包括的(インクルーシブ)で現代的な職場体験を提供する」ということです。
この課題に対しては、世界中で情報交換ができるチャットツールや、社内での部署を超えた協業を可能とするSNSツール、ウェブ会議ツール、ファイル共有ツールなどのHR Techを導入・活用しています。
これらにより、組織や空間といった壁を越え、時間的な節約を図ることもできるようになりました。
2つ目の課題は、「次世代のリーダーを採用、選抜、育成し、そのリーダーの決断や決裁を支援すること」です。
ここには、現場のリーダーの決裁権が大きいという外資系企業ならではの背景があります。
また、ビジネスモデルが劇的に変わり決断や決済が迫られる中で、リーダーには常にデータに基づいたエビデンスが求められることも、一つの背景と言えるでしょう。
この課題に対しては、アンケートによるサーベイや社員のコメントなどのデータを分析して、社員の感情を視覚化し、リーダーへ推奨アクションを提示するというHR Techが導入されています。
多角的に社員の憂慮事項を分析し、アラートがあればリーダーにディスカッションなどを提案する機能などもあり、社員の離職防止にもつながっているということです。
他にも、部下の給与決定要素の分析と昇給の推薦の際に、AIを用いたHR Techツールが活用されるなど、HR Techを通したリーダーへの様々な支援が行われています。
3つ目の課題は、「社員のスキルを向上させ、会社が保有するスキルを増やしていくこと」です。
社員がスキルを向上させようとすることは、社員がキャリアを構築することにつながるため、日本IBMはこの3つ目の課題を最も重視しています。
まず、社員がシステム上で自身のキャリアとスキルに関する情報を入力にすると、データ分析に基づき、各社員が現在保持しているスキルの種類や質・量などが本人と上司に提示されます。
すると、自分自身のスキルの現状と社内で求めているスキルの現状が明らかにされます。
その上でAIが個々のスキルレベルを推定し、学習コンテンツなどを推奨することで、社員のスキルアップ支援をしています。
また、キャリア支援については、チャットボットを通してAIに送り、検討、支援しています。
その他、学習プラットフォーム「Your Learning」が用意されています。
「Your Learning」では、社内外の学習コンテンツの検索や評価を知ることが可能なほか、その人に合ったコースの提案も可能だということです。
このように、日本IBMは人事のあらゆる領域やプログラムにHR Techを積極的に活用し、人事上の課題を解決してきました。
これらの取り組みに対し、「AI、ビッグデータ、ソーシャル、モバイル、フィードバックを柱に、社員のエンゲージメントを高め、効率的でプロアクティブな人事管理を実現した」という内容で、2017年には第2回HRテクノロジー大賞[6]が贈られました。
「PART.3 ケーススタディ 先進事例に学ぶ CASE1 日本IBM」,『まるわかり!HRテクノロジー』,日本経済新聞出版社(日経MOOK),2020.
「HR Tech」業界カオスマップで見る業界全体図と、「HR Tech」業界の市場規模
本章では、HR Techの具体的なサービスを紹介する前に、HR Tech業界の全体図と、市場規模を紹介します。
「HR Tech」業界の全体図
まず、「業界カオスマップ」をもとに、業界の全体図を把握しましょう。
図)HR Tech業界カオスマップ(2019年10月15日現在)
引用元:一般社団法人日本中小企業情報化支援協議会(JASISA)『HR Techナビ』
同カオスマップによると、2019年10月時点で、国内では9カテゴリー449のサービスが提供されています。
カテゴリーは、大きく以下の8つに分けられています(「その他」を除く)。
- HCM(全体)
- 求人
- 採用
- エンゲージメント
- 労務管理
- アルムナイ
- People analytics
- アウトソーシング
同カオスマップからは、特に「求人」「採用」「エンゲージメント」「労務管理」といったカテゴリーで、多くのサービスが提供されていることが見て取れます。
「HR Tech」業界の市場規模
HR Tech業界の市場規模はどのくらいなのでしょうか。
ミック経済研究所の調査[7]において、HR Techクラウド(=クラウドやAIなどの技術を活用して人事・人材管理業務を支援する製品・サービス)の2019年度の国内市場規模は349億円であり、前年の256.4憶円から136.1%の成長であると発表されました。
HR Techクラウドの市場規模は、「2024年度には1700憶円の市場規模にまで成長する」と予測されています。
そして、その成長の背景には、働き方改革や就業形態の多様化があると分析し、人材採用・確保や人材活用・定着を支援するサービスの重要性が高まっているとしています。
以上、カオスマップと市場規模からは、HR Tech業界は非常に参入企業が多く、さまざまなサービスが乱立している状況であることがわかります。
一方で、冒頭に述べた通り「今後HR Techの導入を考えている人事担当者は6割以上もいる」ので、需要は大変大きく、HR Tech業界には大きな伸びしろがあると言えます。
特に採用やエンゲージメントといったカテゴリーでのサービスの需要が今後も増えそうです。
「HR Tech」の代表的なサービス例
本章では、前掲したHR Tech業界カオスマップをもとに、多くのサービスが提供されている「求人」「採用」「エンゲージメント」「労務管理」のカテゴリーから、代表的なサービス例を紹介します。
求人系
前掲したカオスマップでは、求人系のカテゴリーには、アルバイトから新卒・中途、業界・地域に特化したものなど、さまざまなサービスが紹介されています。
カオスマップ内にはありませんが、求人サービスの代表例としては、SNS的な要素を前面に出した「Wantedly」が挙げられます。
採用系
採用系のカテゴリーでは、採用広報から採用マーケティング、採用管理や適性検査、スキル測定などのサービスが紹介されています。
中でも採用管理に関するサービスが多く紹介されていますが、代表的な採用管理システムとしては、採用管理プラットフォームの「HERP Hire」(カオスマップ掲載なし)や、株式会社ビズリーチが提供する採用クラウドサービス「HRMOS採用」が挙げられます。
採用に関するHR Techを取り入れることで、これまで人事部門の負担になっていた応募者の管理や選考プロセスの日程調整などを効率的に行うことができるようになります。
これにより、より重要な応募者の見極めや比較検討に注力できるようになります。
エンゲージメント系
エンゲージメント系では、総合的なものから、オンボーディング、目標管理・設定、人材開発・人材育成、人事評価・配置、社内コミュニケーション・SNS、ウェルネスといった分野のサービスが提供されています。
人事評価・配置の分野では、主に「タレントマネジメント」のサービスが紹介されています。
「タレントマネジメント」とは、従業員のタレントや業務経験・スキルなどをデータとして一元管理し、人材の適正配置や育成・教育に活用する人事管理の方法です。
代表的なサービスとしては、人事評価や人材配置のプラットフォームとなるクラウド人事ソフトを提供する「カオナビ」が挙げられます。
社員同士で感謝のメッセージやポイントを送り合う「Unipos」(カオスマップ掲載なし)もエンゲージメント系サービスの一つです。
また、新型コロナウイルスの影響で実地型の集合研修ができなくなり、代替手段としてニーズの高まったeラーニングも、このカテゴリーに入ります。
当社が提供する学習管理システム(LMS: Learning Management System)である「CAREERSHIP®」(カオスマップ掲載なし)は、eラーニングだけでなく集合研修やウェビナーの管理機能を搭載し、さらに従業員のスキルの保有状況と習得プロセスを可視化する機能を有した総合的な人材開発プラットフォームです。 ⇒ 詳しく見る
労務管理系
労務管理のカテゴリーでは、総合的なものから、勤怠管理、給与計算、給与前払い/即日払いなどのサービスが紹介されています。
勤怠管理の代表的なサービスとしては、勤怠管理クラウド市場シェアNO.1(2020年9月時点)の「KING OF TIME」や、従業員1000人以上の大企業でシェアの高い「バイバイタイムカード」が挙げられます。
勤怠管理に関するHR Techを取り入れることで、日々の打刻作業や打刻漏れ修正を効率化したり、勤怠集計を効率化することができます。
さらには、給与計算ソフトとの連動によっても効率化が見込めます。
最近では、新型コロナウイルスの影響でテレワークをする従業員が増え、タイムカードや社内システムを利用した打刻が難しい状況となっています。
クラウド型の勤怠管理ツールであれば、どこにいても出退勤の打刻が可能であり、管理者も勤怠管理がしやすくなるというメリットがあります。
給与計算の代表的なサービスとしては、勤怠管理、給与計算、年末調整、入退社手続きといった機能を1つのソフトの中に持っている「人事労務freee」(カオスマップ掲載なし)や、勤怠・労務管理との連携がしやすい「Money Forward給与」が挙げられます。
給与計算に関するHR Techを取り入れることで、勤怠ソフトとの連携ができたり、支給や控除、給与明細の配布等を効率化することができます。
労務管理の総合的なサービスとしては、人事労務手続き領域に強みを持つ「SmartHR」が代表として挙げられます。
新入社員の情報収集から入社手続きなどの基幹機能以外にも、他の給与計算ソフトからデータを取り込むことで、年末調整などのさまざまな手続きに対応したり、WEB給与明細を発行したりすることが可能です。
以上、4つのカテゴリーにおいて、代表的なサービスを紹介しました。
カテゴリーごとに分けて紹介をしましたが、他のサービスとの連携により、さらに業務の効率化が図れる状況であることもご理解いただけたかと思います。
榊裕葵『日本一わかりやすいHRテクノロジー活用の教科書』,日本法令,2019
関連 ▶ 勤怠管理システム比較10選 ニューノーマルな時代のトレンドを解説!(弊社ブログサイトへ移動します)
「HR Tech」のトレンドと今後の可能性
ここまで「HR Tech」が注目された背景や現状を説明してきましたが、本章では現在のトレンドと今後の可能性についてご紹介します。
「HR Tech」国内のトレンドと今後の可能性
前掲したHR Tech業界カオスマップを見てもわかるように、現在日本では多くのHR Techサービスが乱立している状態であり、自社に合ったツールを選ぶのがなかなか難しい状況です。
HRテクノロジー・コンソーシアム理事の民岡良氏は、「HRテクノロジーの現状と将来展望 2020年版」発行記念特別セミナーにて、HR Techのトレンドについて以下のように解説しています。
これからの主役は、エクスペリエンスを高めることに直接寄与するソリューション。これは、例えば「あなたの今後のキャリアプランに最も影響のあるスキルギャップを埋めるためには、今期中にこのラーニングメニューを受講したほうが良い」とAIが従業員ごとにパーソナライズした提案をすることや、見落としているタスクについてのリマインドをチャットボットがおこなうことを指す。[8]
民岡氏の解説からは、前述した日本IBMの先進事例が正にそうであったように、「社員自らが、AIやチャットボットといったHR Techの強力なサポートのもと、様々な体験をすること」が今のトレンドであることがわかります。
そして国内のHR Techの今後の動向として、慶応義塾大学の岩本隆教授は、「今後も、AI、センサー、音声、画像・映像など、さまざまな新たなテクノロジーを活用したアイデアが提案され、新たなHRサービスが市場で展開されることが期待されている」と述べています[9]。
特にAIの発達により、HR Techはさらに発展を遂げると考えられています。
例えば現段階でも、人間の自律神経の状態などを収集してパフォーマンスを最大化させようとするソリューションや、従業員の健康を管理して企業の健康経営を担う役割を果たすソリューションもあるといいます[10]。
HR Techは、従業員が一層パフォーマンスを上げていく手段として活用され、人事部門だけではなく、より経営に近しい「経営課題を解決するためのテクノロジー」へと進化していく可能性があると言えるでしょう。
「HR Tech」海外のトレンドと今後の可能性
次に、海外のトレンドと今後の可能性について見てみましょう。まずは、市場の状況を説明します。
海外では、HR Techのサービスは「HCM(Human Capital Management:人的資本マネジメント)アプリケーション」と呼ばれています。
2018年の市場規模はすでに259憶ドル、日本円で約2兆8490億円(1ドル=110円で換算)です。現在、市場シェアの大半は、欧米企業が占めています。
慶応義塾大学の岩本教授によると、「欧米などではあらゆる人事データをワンストップで活用可能な仕組みができている状態」だということです[11]。
また、jinjer HR Tech総研所長の松葉治朗氏は、日本の人事においては管理システムが細分化しているのに対し、「アメリカと日本の大きな違いは一元管理かどうかであること。アメリカでは、勤怠管理や人事、給与、経費などがすべてひとつのシステムで管理できるオールインワンプラットフォームが主流」と説明しています[12]。
HCM=総合型・全体型のHR Techソリューションであり、海外(特にアメリカ)では総合型が主流という傾向があることをまずは押さえましょう。
HCMアプリケーションの2019年の市場シェアを見ると、以下の10社が世界の市場シェアの68.2%を占めています。
図)2019年のHCMアプリケーション市場シェア
順位 | アプリケーションベンダー |
1 | Microsoft |
2 | Workday |
3 | SAP |
4 | Ultimate Software |
5 | Oracle |
6 | Paycom |
7 | Ceridian |
8 | Cornerstone OnDemand |
9 | Paylocity |
10 | ADP |
引用元:Albert Pang, Misho Markovski and Andrej Micik. Top 10 Cloud HCM Software Vendors, Market Size and Market Forecast 2019-2024,Apps Run The World, February 13, 2020, (閲覧日:2020年9月22日)
HRテクノロジー・コンソーシアム理事の民岡良氏は以下のように述べています。
上記のような大手のベンダー以外にも、さまざまなスタートアップ企業がHR Tech事業に参入しています。
「ある機能に特化したソリューションを提供するベンダーがアメリカではどんどん増えてきており、日本でもその傾向にある。イチ機能だけでいいから、イケてるものを作り、あとはシームレスに連動させるエコシステムを築き上げるのがトレンドになっている」[13]
このように、大手アプリケーションベンダーだけでなく、多くのスタートアップがHR Tech市場を盛り上げている状況であることがわかります。
では、HR Techの世界的なトレンドとはどのようなものなのでしょうか。世界最大のHR Techイベントである「HR Technology Conference & Exposition」の2019年のイベント参加者のレポートによると、世界的なトレンドを示すテーマとして、「Experience(体験)」がキーワードになっていたということです。
同イベントに参加したオデッセイ代表取締役社長の秋葉尊氏は、このキーワードを以下のように説明しています。
具体的には、従業員のモチベーションを高めて離職を抑制することなどを目指す「Employee Experience(従業員体験)」、あるいは、採用応募者の入社確率を高めることを目的とした「Applicant Experience(応募者体験)」に関連した各社の取り組みだ[14]
秋葉氏は、Employee Experience(従業員体験)について、「主に、企業とのあらゆる接点で発生する経験が従業員にもたらす価値のこと」と定義しています。
またApplicant Experience(応募者体験)については、「応募者が選考期間中に的確で配慮のあるサポートを受ける(良い体験をする)ことで、入社意欲が向上し入社確率を高めるといった効果が狙い」としています。
同イベントに参加したレジェンダ・コーポレーション株式会社 HRイノベーション研究所所長の才藤孔敬氏も、「AI・VR・ブロックチェーンなどの尖った先進的なテックはあまり目立たず、エンプロイーエクスペリエンスの改善や、従業員のためのツール・テック、従業員が主役といった講演や出展が多く見られ、HR Tech分野の変化を感じた」と語っています[15]。
これらより、これからの人的マネジメントでは、従業員個人が主体となる潮流があり、HR Tech業界においても「体験(Experience)」に関連したサービスがトレンドになっていくと考えられます。
最新の「HR Tech」のトレンドを知る方法
最後に、最新のトレンドや動向を知る方法として、以下のイベントを紹介します。
・HR Technology Conference &Exposition
前節でも紹介しましたが、世界最大級のHR Techに関するイベントが、「HR Technology Conference &Exposition」です。
イベントに参加すると、最新のトレンドや今後の動向がわかるかと思いますので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。
⇒ イベントの詳細を見る
関連 ▶ HR Tech企業のトレンドまとめ!海外カンファレンス2020レポート(弊社ブログサイトへ移動します)
まとめ
「HR Tech」とは、人事を意味する「HR: Human Resources」と、技術を意味する「Technology」を組み合わせた造語であり、Human Resources Technologyの略です。
一般的には、AIやビッグデータ、クラウド等の最新の技術を活用し、採用や育成、給与計算、人事評価などの人事労務管理を効率化し、効果を最大化することを指します。
具体的な例としては、採用管理システムや学習管理システムなどのツールが挙げられます。
HR Techが注目されている背景は、以下の3つが考えられます。
- 人事業務の一層の効率化の必要性
- テクノロジーの発展
- 人事部門に求められる役割の変化
HR Techを導入するメリットは、以下の5つが挙げられます。
(1) 人事労務部門の効率化
(2) 社員の労務管理や福利厚生の質の向上
(3) 企業全体の効率化への波及効果
(4) 企業の売上や収益への貢献
(5) 従業員満足度の向上
一方で、HR Techを導入する際の注意点としては、以下の2つが考えられます。
- 導入前に、「HR Techを導入することで何を解決したいのか」を十分に検討すること
- HR Techによって浮き彫りになった課題は、「人」が解決するという意識を持つこと
HR Techを導入した企業の先進事例として、日本アイ・ビー・エムの事例を紹介しました。
同社は、あらかじめ設定されていた人事上の3つの優先課題に対し、HR Techを積極的に活用し、課題の解決に成功しました。
「HR Tech業界カオスマップ」によると、国内のHR Tech業界のカテゴリーは、大きく以下の8つに分けられています。
- HCM(全体)
- 求人
- 採用
- エンゲージメント
- 労務管理
- アルムナイ
- People analytics
- アウトソーシング
同カオスマップからは、特に、「求人」「採用」「エンゲージメント」「労務管理」といったカテゴリーで、多くのサービスが提供されていることが見て取れます。
HR Techクラウド(=クラウドやAIなどの技術を活用して人事・人材管理業務を支援する製品・サービス)の2019年度の国内市場規模は349億円であり、前年の256.4憶円から136.1%の成長となっています。
また「2024年度には1700憶円の市場規模にまで成長する」と予測され、今後の更なる発展が見込まれています。
「HR Tech」の代表的なサービス例として、求人系、採用系、エンゲージメント系、労務管理系の4つのカテゴリーからサービスを紹介しました。
「HR Tech」国内のトレンドとしては、「従業員のエクスペリエンスを高めることに直接寄与するソリューション」を挙げました。
また今後の動向としては、特にAIの発達による新たな発展が見込まれています。
「HR Tech」の海外のトレンドとしては、まず、あらゆる人事データを一元管理できる「HCM(Human Capital Management:人的資本マネジメント)アプリケーション」が主流であることを押さえました。そして、「Experience(体験)」が業界のキーワードになっており、今後の業界の動向に影響すると考えられます。
HR Techは魔法の道具ではありませんが、業務を効率化し、従業員一人ひとりや企業全体のパフォーマンスを最大化する強力なツールです。
自社の課題を十分に検討した上で、ぜひ、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
[1]「全国の人事担当に聞いた「HRTechに関する市場調査」HRTechで活用すると効果的な最新ITツール第1位は「AI」 今後HRTechの導入を考えている人事担当者は6割以上!」,『PRタイムズ』,2019年3月5日 (閲覧日:2020年9月17日)
[2] 岩本隆著,労務行政研究所編「世界と日本におけるHRテクノロジーの動向」,『HRテクノロジーで人事が変わる AI時代における人事のデータ分析・活用と法的リスク』,労務行政,2018, p32.
[3] 経済産業省は、DXを次のように定義している。“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。“ 経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0」,2018年12月,https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf (閲覧日:2020年10月2日)
[4] 「HR総研:人事系システムに関する調査【1】人事系システムと人事管理システム」,引用元:「HR総研:人事系システムに関する調査【1】人事系システムと人事管理システム」,『HRpro』(閲覧日:2020年9月11日)
[5] 榊裕葵『日本一わかりやすいHRテクノロジー活用の教科書』,日本法令,2019,p19-21.
[6] 2016年より、HRテクノロジーや活用において先進的な企業や、HCMアプリケーションの先進ベンダーを表彰。経済産業省が後援し、慶應義塾大学の岩本隆教授が委員長を務める。2020年の第5回HRテクノロジー大賞では、日本アイ・ビー・エム株式会社のラーニング・エクスペリエンス・プラットフォーム(LXP)である『Your Learning』が大賞となった。「第5回 HRテクノロジー大賞 授賞企業決定!」,『HRpro』(閲覧日:2020年10月5日)
[7]日川佳三「HRTechクラウド市場が急成長、2020年度は前年度比136.4%の476億円へ─ミック経済研究所」,『IT Leaders』,2020年1月21日(閲覧日:2020年9月24日)
[8] WingArc1st「「HRテクノロジーの現状と将来展望 2020年版」発行記念特別セミナーレポート」,『データのじかん』, (閲覧日:2020年9月22日)
[9] 岩本隆著,労務行政研究所編「世界と日本におけるHRテクノロジーの動向」,『HRテクノロジーで人事が変わる AI時代における人事のデータ分析・活用と法的リスク』,労務行政,2018, p42.
[10] 岩本隆教授「HRテクノロジー分野別の動向と今後の展望」,『まるわかり!HRテクノロジー』,日本経済新聞出版社(日経MOOK),2020,p45.
[11]岩本隆教授「HRテクノロジー分野別の動向と今後の展望」,『まるわかり!HRテクノロジー』,日本経済新聞出版社(日経MOOK),2020,p44.
[12] WingArc1st「「HRテクノロジーの現状と将来展望 2020年版」発行記念特別セミナーレポート」,『データのじかん』 (閲覧日:2020年9月22日)
[13] WingArc1st「「HRテクノロジーの現状と将来展望 2020年版」発行記念特別セミナーレポート」,『データのじかん』 (閲覧日:2020年9月22日)
[14] 秋葉 尊(オデッセイ 代表取締役社長)「世界的トレンドはAIと「エクスペリエンス」─注目を集めるHRTechの現在地:第1回」,『IT Leaders』 (閲覧日:2020年9月22日)
[15] 「HRはテクノロジーから“エクスペリエンス”へ。HR Technology Conference&Expo 2019報告会レポート」,『HR Trend Lab』 (閲覧日:2020年9月22日)
参考)
労務行政研究所編『HRテクノロジーで人事が変わる AI時代における人事のデータ分析・活用と法的リスク』,労務行政,2018.
榊裕葵『日本一わかりやすいHRテクノロジー活用の教科書』,日本法令,2019.
『まるわかり!HRテクノロジー』,日本経済新聞出版社(日経MOOK),2020.
大藤千佳「HRテックが求められる背景とは」,「Iot」,2019年11月12日,https://iotnews.jp/archives/138042 (閲覧日:2020年9月16日)
高橋実,ITmedia「テクノロジーは全てを解決しない 人事担当者が知っておくべき「HR Tech」の実像」,『戦略人事の時代』,https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2006/03/news005.html(閲覧日:2020年9月16日)