キャリアパスとは 優秀な人材確保につながる、従業員の意欲向上施策
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「キャリアパス」とは、「職歴(キャリア)」と「道筋(パス)」を組み合わせた言葉で、企業におけるキャリアアップへの道筋です。近年では「キャリアパス制度」と呼ばれる、自社のキャリアパスを明確化した人事制度を導入する企業も増えています。
企業において従業員の意識を高め、能力を向上させることは企業の成長にもつながる大きな要素です。企業側がキャリアアップへの具体的な道筋を示すことができれば、従業員一人一人が目標意識を持ちやすくなるでしょう。
本稿では、キャリアパスとは何か、キャリアパス制度導入のメリット、具体的なキャリアパスの事例などを紹介します。
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目次
1. キャリアパスとは
キャリアパスとは、企業において従業員がある職位や職務に就くまでにどのような業務経験やスキルなどが必要かといった、キャリアを得るための過程や道筋を指します。
人事制度の一つとして社内基準を明確化する、つまりキャリアパスを示すことで、従業員がどのようなスキルが必要でそのために何をすればよいか、そしてそのスキルを身に付けると何ができるのか、目標意識を持って取り組むことが期待できます。
終身雇用制度と年功序列制度が機能していた時代は、在職年数が長くなれば職位も給与も右肩上がりになっていくので、従業員は自分のキャリアについて特に考える必要はありませんでした。
しかし、時代は変わり転職が当たり前の現在、さまざまなバックグラウンドを持った人材が同じ職場にいることも珍しくありません。このような状況においては、企業は従来のように「在職期間が何年だとこのポスト」と従業員に示せなくなっています。
キャリアパスを明示することは、企業にとって経営計画に沿った適切な人材育成・配置につながります。また従業員にとっては、自分のスキルや能力が企業においてどの辺りに位置しているのかが分かり、目標設定がしやすくなります。
キャリアプラン、キャリアデザイン、キャリアアップとの違い
キャリアパスと間違えやすい言葉として「キャリアプラン」「キャリアデザイン」「キャリアアップ」の3つが挙げられます。以下の表で、それぞれの違いを確認しましょう。
用語 | 意味 |
キャリアパス | 企業において従業員が特定の職位や職務に就くために必要な業務経験、順序などを示したもの |
キャリアプラン | 個人が将来の職業や仕事の目標を設定し、実現するためのプロセスを考えること |
キャリアデザイン | 職業人としての理想と、そこに至る計画を描くこと。より広く「人生設計」との捉え方も |
キャリアアップ | 仕事においてスキルや地位を向上させ、より高い役職や報酬を得ること |
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キャリアラダーとの違い
キャリアパスと同様、キャリアの道筋を示す考え方としてはキャリアラダーが知られています。
キャリアパスは組織における昇進のルートを示すもので、例えば営業職から企画職へといった職種間の異動も含むことが特徴です。
一方キャリアラダーは、専門的な技能の習熟度合いが分かる指標であり、原則的には同一職種のなかでのキャリアアップに必要なステップを表現したものといえます。
そのため、職種間の異動も前提としたキャリア開発にはキャリアパスを、より専門的なスペシャリストのキャリア開発にはキャリアラダーを使う、という風に考えるとよいでしょう。
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2. キャリアパス制度を導入するメリット
企業がキャリアパス制度を導入することにより、下記のようなメリットがあります。
- 優秀な人材の確保と定着
- 従業員の成長促進
優秀な人材の確保と定着
企業が採用段階でキャリアパスを示すことで、応募者は自らの夢や目標達成につながるか検討できるため、採用時や入社後のミスマッチを防ぐことができます。
キャリアパス制度の内容が魅力的で充実したものであれば、企業の印象もよくなり、向上心の高い、意欲的な人材が集まりやすくなるでしょう。そして、従業員はその企業でキャリアアップを図っていくことになるので、人材の定着が期待できます。
従業員の成長促進
キャリアパス制度は従業員の成長を促します。目標意識が生まれ、自分が目指す職位やレベルに達するために、スキルを習得したり、今の業務に意欲的に取り組んだりするようになるでしょう。個々人の成長は、結果として企業全体の成長につながります。
一方で、スキルアップのために研修への参加や資格取得を強要したり、成績を全社に公表して優劣を競わせたりするなど、企業のエゴが優先し、従業員一人一人に向き合っていない事例も少なくないようです。
キャリアパス制度を従業員一人一人の成長につなげるには、上司と部下の信頼関係に基づいた職場環境を整えることが大前提であることを念頭に置く必要があります。
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3. キャリアパスの事例
業種や職種によってキャリアパスは異なります。どのようなキャリアパスがあるか、具体例を紹介します。
営業職
営業職のキャリアパスには、以下が挙げられます。
- 営業のスペシャリストとして現場で活躍し続ける道
- 営業課長や営業部長などの管理職となり、部署の営業戦略を立てながら部下の育成や管理をする道
- 企画や人事など別部門へ異動し、営業の経験を生かして業務をする道
- 従業員時代の経験を生かして独立・起業・開業し、企業と契約を結んで収入を得る道
介護職
介護職のキャリアパスは、基本的には一般職からスタートし、介護福祉士や社会福祉士などの資格を取得して総合職に昇格、その後経験を積むことで主任、課長、部長と職位が上がっていきます。
評価項目に専門的な知識や技術だけでなく「情意(やる気、意欲)」の項目が設けられていることが、介護職のキャリアパス制度の特徴です。
また、少子高齢化により従業員不足が深刻な介護職では、従業員の定着のためキャリアパス制度を活用する動きも見られます。
厚生労働省が定める「介護職員処遇改善加算」制度では、要件のひとつとして下記のような「キャリアパス要件」が明示されています。要件を満たすことで、事業所は介護職員の賃金改善に充てることを目的に、介護職員1人当たり最大月額3万7千円相当の加算を受け取ることができます。
Ⅰ…職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をすること
Ⅱ…資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けること
Ⅲ…経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
参考)厚生労働省「「介護職員処遇改善加算」のご案内」,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000199136.pdf(閲覧日:2024年6月26日)
4. まとめ
キャリアパスとは、企業において従業員がある職位や職務に就くまでにどのような業務経験やスキルなどが必要かといった、キャリアを得るための過程や道筋を指します。
キャリアアップのための転職が当たり前になり、また働き方が多様になっている現在、従業員に目指すキャリアへの道筋を明示するには、キャリアパス制度の導入が有効です。これにより、企業と従業員のベクトルを合わせることができるようになります。
企業がキャリアパス制度を導入する効果としては、以下が期待できます。
- 優秀な人材の確保と定着
- 従業員の成長促進
充実したキャリアパス制度は、従業員に目標意識を持たせ、業務への意欲を高めます。個々人の成長は、結果として企業の業績向上や成長につながっていくでしょう。