キャリアデベロップメントとは?人事戦略におけるメリットと企業事例を解説
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「従業員のキャリア自律を推し進めたいが、人材の流出が心配だ」
今、国内の企業は採用難・人材不足という課題に直面する中で、多くの人事担当者が既存の従業員の能力開発による生産性向上に関心を寄せています。
一方で従業員側は、多様な働き方の浸透に伴い、キャリア形成と会社とを切り離して考える人も増えてきました。自身のキャリアを第一に考え、今の職場に限らず、常によりスキルアップできる環境を求めています。
企業としては従業員が高いスキルを身に付けたなら、転職はせずに自社で生かしてほしいところです。従業員が自律的にキャリアを形成するよう促しながらも、それに伴う人材流出のリスクは防がなくてはなりません。
そのような難しい課題の解決策として注目されているのが、長期的な視点で従業員の能力開発を行う「キャリアデベロップメント」です。キャリアデベロップメントへの取り組みによって、従業員の自律的な成長が期待できます。企業がそれを支援することで、仕事への意欲や企業への帰属意識の向上も可能です。
本稿ではキャリアデベロップメントの概要と実施の方法、さらに大手企業における導入事例も紹介しています。
企業側の求める人材の育成と、従業員の理想のキャリアの実現を同時に行う仕組みづくりに興味をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
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目次
1. キャリアデベロップメントの概要
キャリアデベロップメント(Career Development)とは、日本語ではキャリア開発を意味します。長期的な視点で従業員のスキルや能力を開発していく取り組みで、人材育成の効果的な手法として注目されています。
まずはキャリアデベロップメントの考え方や重要性など、概要を確認していきましょう。
1-1. キャリアデベロップメントの考え方
キャリアデベロップメントを定義する上で重要なのが、求める人材を育成したい企業側と、理想のキャリアを実現したい従業員側の、双方向からの取り組みであることです。
従来の人材育成といえば、企業が求めるスキルや経験値を身に付けさせることが主な目的でした。しかし現在では従業員の自律的な成長を促すために、従業員の希望も尊重しながらキャリア開発を進めていく企業が増えています。
1-2. キャリアデベロップメントの重要性
キャリアデベロップメントは、従業員のキャリア自律を実現するためになくてはならない要素です。
キャリア自律とは、企業主導で従業員のキャリアを形成していくのではなく、従業員自身がキャリアプランを設計し、その実現に必要な学習や業務を主体的に選択して、取り組もうとする状態を指します。キャリア自律は、経済産業省が将来の産業構造の転換を見据えて策定した人材政策においても、重要視されています[1]。
終身雇用制度や年功序列が慣例であった時代に行われていた、企業主導のキャリア形成は、従業員にとって「会社にやらされている」という印象が強いものでした。
しかし、終身雇用が崩壊した現在は、「キャリア形成を会社に頼れないが、どうすれば良いか」と不安に思う従業員も少なくありません。キャリアデベロップメントでは、従業員が自分自身のキャリアデザインを起点に取り組むことで、おのずとキャリア自律の意識が育まれます。
また、キャリアデベロップメントの取り組みを通して、従業員は「自分の理想のキャリア形成を会社が応援してくれている」と捉えます。結果として従業員エンゲージメント(組織に貢献したいという意欲)が向上し、離職率の低下やより良いパフォーマンスの発揮へとつながっていきます。
実際に、従業員の主観的なキャリア充足度(キャリアやスキルに対する希望度・実現度)が高い組織ほど、従業員エンゲージメントが高い傾向にあるという調査結果が存在します[2]。
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1-3. 「キャリアデザイン」や「キャリアドリフト」との違い
キャリアデベロップメントと似た用語として、「キャリアデザイン」と「キャリアドリフト」が挙げられます。しかし、この2つはそれぞれの意味において、キャリアデベロップメントと根本的な違いがあります。
まずキャリアデザインとは、従業員が目指すべきキャリアを描くことです。そこには企業側の求める人材像が介在することはなく、あくまでも従業員側の理想だけを追求した計画となります。
従業員のキャリアデザイン実現を、社内研修や人事制度によって企業が後押しするという構図が、従業員のキャリア自律を促します。キャリアデベロップメントに取り組む際は、まず従業員主体のキャリアデザインから始めるのが効果的です。
そして、キャリアドリフトは、そもそもキャリアデベロップメントやキャリアデザインのような長期的な視野を持ちません。
その時々の状況の変化に応じて、柔軟にキャリアを形成していく考え方を指します。社会の変化のスピードが速く、終身雇用制度が崩壊し雇用が流動化した現在、あえてキャリアの長期目標を持たず臨機応変に対応できるという点が注目されています。
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2. キャリアデベロップメントプログラム(CDP)と関連する人事施策
次に、キャリアデベロップメントを実行するためのシステムである、キャリアデベロップメントプログラム(CDP)について解説していきます。
2-1. キャリアデベロップメントプログラム(CDP)とは?
キャリアデベロップメントプログラムは、英語表記のCareer Development Programの頭文字を取って、CDPとも呼ばれます。CDPは、社内外の研修や戦略的な人材配置などさまざまな人事施策によって従業員のキャリア開発を目指す取り組みです。
まず従業員と企業とで将来的に目指すべき人材像のすり合わせを行い、その実現のために必要なスキルや経験をお互いに確認します。企業はそれに基づいて従業員の計画的なスキル・経験の獲得を支援していきます。
2-2. キャリアデベロップメントプログラム(CDP)を促進する制度
CDPを実施する際は、以下のような人事制度と併用することで効果が高まります。ここでは、5つの制度の具体的な内容について解説します。
- 自己申告制度
- ジョブローテーション
- 社内FA制度
- 社内公募制度
- キャリア面談
自己申告制度
自己申告制度とは、従業員が人事配置やキャリアに関する自らの希望を企業側に申告する制度です。
企業が決定して一方的に通達するのではなく、事前に従業員の意思を確認し、できる限りそれに沿うように配慮することで、従業員は新しい業務に前向きに取り組めるようになります。
自己申告制度を導入すれば、企業側は従業員のキャリアに関するニーズを把握しやすくなり、企業側の理想の人材像と従業員が希望するキャリアのすり合わせをスムーズに進めることが可能です。
ジョブローテーション
ジョブローテーションとは、従業員を定期的に配置換えし、多様な部門や職種を経験させる制度です。
従業員が理想のキャリアについて考えるには、まずどのような仕事があるのかを知らなくてはなりません。ジョブローテーションを経験する中で、より自身の将来像がイメージしやすくなります。
また企業にとっても従業員にさまざまな業務を経験させることで、一人一人の適性を把握し、将来的にどのような役割を担ってほしいのかが明確になるでしょう。
社内FA制度
社内FA(フリーエージェント)制度では、従業員が配属を希望する部署に対して、自身の能力や適性をアピールできる制度です。
欠員補充など企業側の都合ではなく、あくまでも従業員側の発信によって異動が検討・実施されるため、従業員が主体的にキャリアを形成していくCDPとは非常に相性が良い制度といえます。
社内公募制度
社内FA制度と対になるのが、企業側が欠員補充などを目的として社内の人材を募集する社内公募制度です。
社内FA制度と異なり企業側の都合による異動になりますが、従業員の希望が叶った場合には理想のキャリア構築のための経験を積む機会になります。
キャリア面談
キャリア面談とは、従業員のキャリア形成支援を目的として、上司と部下で目指すべきキャリア像について話し合う場のことです。
定期的なキャリア面談は、リアルタイムでの従業員のニーズを把握するために欠かすことはできません。従業員側にとってもキャリアを意識する機会となり、キャリア構築へのモチベーションを保ちやすくなります。
キャリア面談の効果を高めるためには、上司と部下との信頼関係が大切です。管理職は普段から部下との小まめなコミュニケーションを心がけ、キャリアについて相談がしやすい関係を築いておく必要があります。
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3. キャリアデベロップメントプログラム(CDP)の実施方法
次に、CDP実施の具体的な流れについて解説します。CDPは以下の5つのステップで進めていきましょう。
Step1.従業員の希望と適性の把握
Step2.企業側のニーズと従業員の希望のすり合わせ
Step3.キャリア形成の道筋の具体化
Step4.配属と十分な研修・教育の実施
Step5.定期的なチェックと修正
Step1.従業員の希望と適性の把握
まずは従業員側のキャリアの希望や適性を確認します。
従業員が自身のキャリアにおけるCDPの必要性を理解し、主体的に取り組むためには、企業側に従業員の意思を尊重する姿勢が求められます。CDP導入の第一段階として、従業員のニーズを丁寧にくみ取りましょう。
キャリアの希望を確認するには上司との1対1の面談を、適性の確認にはアンケートやテストを実施しても良いでしょう。
Step2.企業側のニーズと従業員の希望のすり合わせ
次に、企業側が求める人材像と、Step1で確認した従業員側の希望のすり合わせを行います。
企業側は経営方針や事業展開の予測などに基づいて、どのような人材が今後組織で必要とされるのか、理想の人材像を明確に説明しましょう。従業員が希望するキャリアを実現できるよう、双方が納得できるキャリアプランを追求します。
Step3.キャリア形成の道筋の具体化
最終的に到達すべき人材像が明確になれば、次はそこに至るまでの道筋を考えていきます。
まずは現時点での従業員のスキルレベルと目標とするキャリアとのギャップを明らかにし、それを埋めるために必要なスキルや経験を洗い出しましょう。
そしてそれらを習得することを目的とした集合研修・eラーニング、OJTなどによる教育や配置転換、前章で紹介した自己申告制度などの人事制度を組み合わせ、プログラムを設計していきます。
Step4.配属と十分な研修・教育の実施
具体的なプログラムが設計できれば、その内容に沿って教育や人事施策を実施します。
特に組織再編や新しい企業戦略を打ち出すときは、CDPを実施しやすいタイミングです。従業員が新しい業務を経験できるように配置転換をしたり、LMS(Learning Management System:学習管理システム)を導入してスキル管理を行ったりするなど、スキルアップの環境を整えましょう。
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Step5.定期的なチェックと修正
配置転換・異動や研修などを実施した後は、どれだけ成果が得られているかのチェックも必要です。
CDPは長期的にキャリアを形成するものですが、1つ1つの取り組みがどれだけ従業員のスキルアップにつながったかを検証し、本人にフィードバックを行うプロセスは大変重要です。
従業員があまり成長を実感できていない、研修やeラーニングなど教育の効果がいまいちといった場合は、プログラムの見直しを行う必要もあるでしょう。また従業員のキャリアの希望や、企業が求める人材像に変更があった場合も、いち早くすり合わせを行わなくてはなりません。キャリア面談を活用して、定期的な現状確認や内容の修正を行いましょう。
4. キャリアデベロップメントプログラム(CDP)がもたらすメリットとデメリット
CDPに取り組む前に、それによってもたらされるメリットとデメリットをよく理解しておく必要があるでしょう。ここではそれぞれについて詳しく解説します。
4-1. キャリアデベロップメントプログラム(CDP)のメリット
CDPを実施するメリットは、主に以下の4つです。
- 自発性・主体性の高い従業員の育成
- エンゲージメントの向上
- 離職率の低下
- 従業員のキャリアや能力の可視化
自発性・主体性の高い従業員の育成
CDPへの取り組みは、従業員の主体性を高め、自発的な成長を促します。
CDPによって、従業員は自身が現時点で保有するスキルと、将来的に目指すべきキャリアを意識することになります。理想のキャリアを実現するために不足しているスキルが何かが明確になり、そのギャップを埋めるためには今何を学び、どのような業務で経験を積めば良いかが見えてくるでしょう。
自身の理想のキャリアへと至る正しい道筋さえ分かれば、そこへ向かう意欲がおのずと高まっていきます。組織から指示されるのを待つのではなく、自身のキャリア形成を見据えて自発的に動く人材へと成長できるでしょう。
エンゲージメントの向上
CDPに基づいて業務に取り組むことで、従業員のエンゲージメント向上も期待できます。
CDPの概念がない場合、従業員は研修参加の指示や人事配置を企業側の都合と捉え、「やらされ感」を感じやすくなります。
一方CDPは企業側の取り組みであると同時に、従業員自身の理想のキャリア形成をも目的としているため、従業員は「会社は自分のことも考えて指示や辞令を出してくれている」と、前向きに捉えることができるのです。
さらに与えられた業務で経験やスキルを得ることができれば、理想のキャリア実現に着実に近づいているという達成感や成長の喜びが得られ、日々の業務を通じてエンゲージメントが高まっていきます。
関連 ▶ 従業員エンゲージメントとは 定着率の向上と組織の成長をもたらす鍵 (弊社ブログサイトへ移動します)
離職率の低下
離職率の低下も、CDPを導入するメリットの1つです。
キャリア形成という目的を意識せず、ただ目の前のノルマを淡々とこなすだけでは、従業員は仕事に意欲を感じにくくなります。人間関係のストレスや待遇への不満などを理由に、簡単に離職してしまう可能性もあります。
一方、企業と従業員とで共にCDPに取り組んだ場合、従業員は今の職場で将来的に自身が望むキャリアを獲得できるという、明確なビジョンとモチベーションが得られます。それが今の職場にとどまる動機付けとなり、目の前の業務もそのために必要な過程として、意欲的に取り組むことができます。
従業員のキャリアや能力の可視化
CDPによって、企業は従業員のキャリアや能力を正確に把握することができます。
現在どの部署にどのようなスキルや経験を有する人材が所属しているか可視化できるだけでなく、各従業員が今後どのようなスキルを獲得するかという、未来の組織の在り方まで予測することができます。
全ての従業員のスキルや経験値などの情報を一元管理して人事戦略を立てることを「タレントマネジメント」といいます。タレントマネジメントは限られた人的リソースを活用する手段として注目されている経営手法の1つです。CDPによって従業員の能力を可視化することは、タレントマネジメントの実践にもつながります。
関連 ▶【事例あり】タレントマネジメントとは?能力の見える化で人事戦略を変える
4-2. キャリアデベロップメントプログラム(CDP)のデメリットと対策
CDPの導入にはメリットもありますが、一方でデメリットがあることも理解しておかなくてはなりません。ここでは以下の4つのデメリットとその対策について解説します。
- 人材流出の恐れがある
- 現代の人事評価制度に合わない
- グローバル化に対応しにくい
- AI導入によりCDPの存在感が小さくなる
人材流出の恐れがある
CDPを実施する際には、人材の流動化が進む現代のビジネスの情勢を考慮に入れておかなくてはなりません。
今は高いスキルを持った人材はより良い条件を求めて、積極的に転職活動を行う時代です。従業員のキャリア開発を行った結果、従業員は獲得したスキルを持って他社へと移ってしまう可能性もあります。
そのため、企業側は従業員のスキル向上とともに、エンゲージメントを高める施策も行う必要があります。獲得したスキルを「この会社のために役立てたい」と思ってもらうことが大切です。
現代の人事評価制度に合わない
CDPの取り組みと人事評価制度の不一致も、従業員のモチベーションを低下させる一因になります。
従来のCDPは終身雇用や年功序列の考え方を前提として設計されていました。人事評価もそれに合わせて制度設計がされており、従業員はCDPに取り組むことで高い評価が得られたのです。
しかし現在は成果主義が浸透してきたこともあり、終身雇用や年功序列に基づいた従来のCDPへの取り組みが評価されにくいという側面があります。
従業員に納得してもらうためには、業務の実績と同様にCDPの取り組みも評価されるようにするなど、評価制度との整合性を取らなくてはなりません。
グローバル化に対応しにくい
肝心のCDPの内容が、自社の事業展開に適合していないケースにも注意が必要です。
特にグローバル化が進む現在、国内の従業員育成だけを想定したCDPをそのまま適用していると、グローバル人材や外国人材、現地人材の育成で十分な成果を挙げることができません。
人材の多様化や海外拠点の状況に対応したCDPの整備が必要です。
AI導入によりCDPの存在感が小さくなる
ビジネスのあらゆる場面でAIの活用が進む現在、今後はCDPの重要性が弱まるリスクもあります。
AIを活用した人事システムは、現時点での従業員の実績やスキルといったデータを分析し、スピーディーで合理的な人事管理を行います。
人事管理の負担を軽減し、すぐに成果を挙げるという点ではAIは非常に効果的です。成果を得るために長期的な取り組みを必要とするCDPよりも、AIが重視される可能性はあるでしょう。
しかし企業が従業員のキャリア形成を支援するCDPは、従業員を機械的に管理するAIの施策よりも、従業員の組織への帰属意識やモチベーションを高める効果があります。CDPの実施では企業と従業員との協働という側面を強調し、AIはそれを実行するためのツールとして活用するのが良いでしょう。
5. キャリアデベロップメントプログラム(CDP)の導入事例
最後に、CDPを実際に導入している企業の事例について解説します。
5-1. アフラック生命保険株式会社
がん保険や医療保険を販売するアフラック生命保険株式会社では、組織内の各職務で必要とされるスキルや経験を記載した「職務記述書」が全社に公開されており、従業員はその職務記述書の内容を参考にしながらCDPを作成します。
CDPの作成方法をガイドする「CDPプレイブック」やキャリアデザイン研修の機会も従業員に与えられており、組織を挙げてCDPの作成を支援しているのが特徴です。
アフラック生命保険株式会社のCDP作成は、あくまでも従業員の任意です。しかし、2023年の時点で「作成済み」の従業員が42%、「作成中」と「今後作成予定」の従業員が合わせて47%と、キャリア開発の施策が浸透していることがわかります[3]。
5-2. IHIグループ
国内の三大重工業の一角を成すIHIグループの人財育成は、個々の従業員のキャリア開発を目的としたCDPに基づき、「面談・コーチング」「業務機会」「研修」「キャリア開発・変更」という4つの取り組みによって進められています。
従業員は自身のキャリアプランをどのように実現していくか、上司と面談で話し合います。そして必要な業務経験や研修での学びを得て、従業員はキャリアプランに適宜修正を加えながら、キャリア開発を進めていくという流れです。
個々の従業員が自律的にキャリアを形成していく仕組みが重視されているため、面談では上司が方針を指示するのではなく、コーチングによって従業員自身のやる気を引き出し、主体的にキャリア開発を取り組む姿勢を促します。
5-3. 株式会社J-オイルミルズ
主に食用油脂を製造・販売する株式会社J-オイルミルズは、人財戦略として従業員の自律的キャリア開発に力を入れており、CDPを実施しています。
同社の従業員は「キャリアデザインシート」に、キャリアプランだけでなく将来的な自身の理想像、価値観や志向といった内容までを記入していきます。
そしてキャリアデザインシートに書かれた内容に基づいて上司と面談を行い、「理想の自分になるためには具体的に何をしなくてはならないか」を1つ1つ明確化していくのです。
同社では、従業員がキャリア開発に必要な業務経験が積めるよう、キャリアチャレンジ制度やキャリア選択制度といった社内制度を設けています。
6. まとめ
キャリアデベロップメントとは、長期的な視点で従業員のスキルや能力を開発していく取り組みです。従来の企業主導のキャリア形成ではなく、従業員の希望を尊重して、双方のニーズをすり合わせて行われるところに意義があります。
個人のキャリア形成を企業が担う時代ではなくなった今、キャリアデベロップメントは、従業員のキャリア自律において重要な取り組みとなっています。また、企業がそれを支援することでエンゲージメント向上が期待できます。
キャリアデベロップメントと似た用語である「キャリアデザイン」と「キャリアドリフト」との違いは以下のとおりです。
キャリアデザイン:従業員が目指すべきキャリアを描くこと。企業側の求める人材像は介在しない。
キャリアドリフト:キャリアデベロップメントやキャリアデザインのような長期的な視野を持たず、その時々の状況の変化に応じて、柔軟にキャリアを形成していく考え方。
キャリアデベロップメントを実現するプログラム(CDP)は、以下のような人事制度との併用によって効果が高まります。
- 自己申告制度
- ジョブローテーション
- 社内FA制度
- 社内公募制度
- キャリア面談
また具体的にCDPを進めていく手順は以下のとおりです。
Step1.従業員の希望と適性の把握
Step2.企業側のニーズと従業員の希望のすり合わせ
Step3.キャリア形成の道筋の具体化
Step4.配属と十分な研修・教育の実施
Step5.定期的なチェックと修正
キャリアデベロップメントにはメリットとデメリットがあり、それぞれ以下のものが挙げられます。
メリット
- 自発性・主体性の高い従業員の育成
- エンゲージメントの向上
- 離職率の低下
- 従業員のキャリアや能力の可視化
デメリット
- 人材流出の恐れがある
- 現代の人事評価制度に合わない
- グローバル化に対応しにくい
- AI導入によりCDPの存在感が小さくなる
また本稿では、実際にCDPを導入している事例として、以下の3つの企業の例を解説しました。
- アフラック生命保険株式会社
- IHIグループ
- 株式会社J-オイルミルズ
キャリアデベロップメントは従業員のキャリア自律を実現し、エンゲージメント向上を図る上でも重要な施策です。従業員が主体性を持ってキャリアを描き、自社の理想とする人材へ成長してほしいと望まれるなら、CDPの導入を検討してみてはいかがでしょうか?
[1] 経済産業省『未来人材ビジョン』,P69, 102, (閲覧日:2024年6月5日)
[2] モチベーションエンジニアリング研究所「『従業員エンゲージメントとキャリア充足度」に関する研究結果を公開」,(閲覧日:2024年5月31日)
[3] アフラック生命保険株式会社「多様な人財の力を引き出す人財マネジメント戦略」,(閲覧日:2024年5月20日)
参考)
株式会社日本能率協会マネジメントセンター「キャリア自律とは?企業が支援する際のポイントから企業事例までを詳しく解説」,https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0076-careerziritsu.html(閲覧日:2024年5月21日)
株式会社スペイシー「キャリアドリフトとは?特徴や実践するためのポイントや実例も解説!」,『3rd ROOM by Spacee』,https://media.spacee.jp/carrier-drift/(閲覧日:2024年5月21日)
株式会社アスカ「キャリアドリフトとは【メリットなどについて具体的な例と合わせて解説します】」,『グローバル採用ナビ』,https://global-saiyou.com/column/view/carrier_drift(閲覧日:2024年5月21日)
株式会社ラフール「キャリアデベロップメントとは?改めて知りたい意味や導入法の解説」,『Well-Being Workers』,https://survey.lafool.jp/mindfulness/column/0106.html(閲覧日:2024年5月21日)
株式会社Schoo「キャリアディベロップメントとは?得られるメリットと導入方法や課題を解説」,『Schoo for Business』,https://schoo.jp/biz/column/953(閲覧日:2024年5月21日)
ピーシーフェーズ株式会社「CDP(キャリアデベロップメントプログラム)とは?導入メリット・制度の限界、導入方法まで解説!」,『shouin+ブログ』,https://media.shouin.io/what-is-the-career-development-program(閲覧日:2024年5月21日)
株式会社IHI「人材育成」,https://www.ihi.co.jp/sustainable/social/diversetalent/rearing/(閲覧日:2024年5月20日)
株式会社J-オイルミルズ「人財育成」,https://www.j-oil.com/sustainability/social/hr_development/(閲覧日:2024年5月20日)