HRBPとは?経営と人事をつなぐビジネスパートナーが戦略人事を促進
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「HRBPというのは戦略人事の実践とどう関係するのだろうか?」
人事関連のお仕事をされていれば、戦略人事という言葉はすでに耳慣れていると思います。では、HRBPはどうでしょうか。
正確な意味は分からないものの、人事を意味する「HR」とビジネスパートナーを意味する「BP」が合わさっているので、何となくイメージできるかもしれません。
HRBPとは、経営者や事業責任者のビジネスパートナーとして、人と組織の面から事業成長をサポートする人事のプロフェッショナルのことです。経営陣と同じ視点を持ち、戦略人事を展開するうえで重要な役割を占めます。
しかし、日本企業の中では認知度はあまり高くないようです。HR総研が人事担当者に行ったアンケートによると、「HRBPという言葉を知っているか?」という問いに、36%が「知っている」と回答。29%が「聞いたことはある」と答えています。
また、興味深いことに、従業員1000人を超える大企業の方がHRBPの認知度が高く、77%が「HRBPは重要」と回答しています。[1]
HRBPは戦略人事の実践において重要なポジションを占めます。本稿では、HRBPの意味や役割、実際の導入事例をご紹介します。
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目次
HRBP(HRビジネスパートナー)とは?
HRBPとは、Human Resource Business Partnerを略したもので、エイチ・アール・ビー・ピーと読みます。HRビジネスパートナーとも呼ばれます。
HRBPは経営陣のビジネスパートナーとして、事業成長をサポートする人事のプロフェッショナルのことを指します。経営陣と同じ視点を持ち、戦略人事を展開するうえで重要な役割を占めるのが特徴です。
グローバル化が進む昨今の日本経済において、企業を成長させるには年功序列などの従来の評価システムにとらわれない、攻めの人事が不可欠と言われています。HRBPは単なる人事担当者ではなく、経営者のパートナーとして、人と組織の面から経営目標や事業計画の達成に向けた戦略的な人的マネジメントを展開します。
HRBPという考えは、1990年代にミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱した4つの人事機能(戦略パートナー、管理エキスパート、従業員チャンピオン、変革エージェント)に端を発します。 彼の著書「MBAの人材戦略」は世界中の経営者に大きな影響を与えており、その中でHRBPの重要性がうたわれています。海外で発祥した考え方ですが、日本経済でもHRBPの存在価値に注目が集まっています。
HRBPが日本企業で注目されている理由
HRBPは近年、日本企業においても注目を集めるようになっています。この理由を説明します。
HRBPは戦略人事の実践と深く関わる
戦略人事とは、企業の人事を経営戦略と一体的に推進する考え方です。グローバル化や人材不足が進む日本経済を生き抜く術として、昨今注目されています。
その戦略人事を展開するにあたり、重要な役割を持つのが人事のプロフェッショナルであるHRBPです。HRBPは経営陣と協力して、企業価値を高める人事マネジメントをサポートします。
今後も海外企業の参入や外国人材の流入による労働市場の変化などに対応するため、戦略人事を導入する企業の増加が予想されます。それに伴いHRBPのニーズも高まりを見せていくでしょう。
経営目標の達成に向けた人事が必要とされている
従来の人事制度は従業員の業務管理や効率的な運用管理に特化していました。しかし、終身雇用と年功序列が崩壊し、人材の流動性が高まりを見せる昨今のビジネス界で勝ち残っていくには、それだけでは不十分です。経営目標に直結した攻めの人事が必要なのです。
HR総研が「今後、人事に求められる役割」についてアンケートをした結果、51%が「ビジネスの成果に貢献する(戦略パートナー)」と回答しました。[2]給与計算や人材管理などのオペレーション業務だけではなく、経営目標を達成するための人事が不可欠な時代になっているのです。
HRBPは経営陣と肩を並べて、経営目標の達成を目指します。自社の経営を向上させるにはどのような人材が必要なのかを判断して、時には大規模な人事改革を実施することもあります。
人的マネジメントという観点から組織を変えていくには、HRBPのように人事面で大きな権限と実行力を持つプロフェッショナルが必要です。
労働人口が減少する市場で優秀な人材を確保できる
日本経済が抱える問題の一つに、少子高齢化に伴う労働力の減少があります。当然、「ヒト」がいなければ経営目標の達成はあり得ません。
優秀な人材を確保するには、自社が必要とする人材の採用計画や運用方法など、採用戦略を明確にする必要があります。さらに、自社社員が他社に流出しないように前もって対策を講じることも欠かせません。
HRBPは社内全体を見渡し、どの部署にどのような人材が必要なのかを把握し、経営目標を達成するための採用戦略に加わります。
また、従業員とのコミュニケーションを図り、社員が働きやすい環境を整えます。人材を適材適所に配置することでパフォーマンスの最大化、従業員満足の向上を目指します。
HRBPの役割
ここでは、HRBPの役割について解説します。HRBPには以下のような役割があります。
- 人事戦略の設計
- 従業員への情報伝達
- 現場の声を経営陣へ届ける
人事戦略の設計
HRBPは会社を成長させるための人事戦略の設計を行います。経営目標を達成するために必要な人材を明確にしたり、リーダー層を育成するための仕組みの構築などを担当します。人材開発と組織開発において、重要な役回りを担うのがHRBPです。
従業員への情報伝達
HRBPは経営者のパートナーとして行動しますが、従業員ともコミュニケーションを図り経営層とのパイプ役を担います。
戦略人事の一環として、大幅な人事異動を行うこともあるでしょう。その際、従業員への説明が不十分だと、理解が得られず社内で不満が募ります。
必要な改革の旗振りを行いながら、経営陣の決定や考えを社員一人ひとりにしっかりと伝える。社内の意識を一つの方向に向かってまとめ上げるのもHRBPの大切な役割です。
現場の声を経営陣へ届ける
人事戦略を成功させるにはトップダウンだけでなく、ボトムアップの発想も重要です。現場と経営陣の橋渡しを行ない、生の声を上層部に伝えるのもHRBPの役割です。
時には経営陣と従業員の板挟みになることもありますが、うまく取りまとめて組織改革を実現させることこそ、HRBPの腕の見せ所です。
HRBPとCHROの違い
HRBPとCHROの大きな違いは執行役員か否かです。HRBPは執行役員ではなく、経営者と人事の橋渡しを行います。一方、CHROは経営陣の一人として戦略人事を展開します。
HRBPが細部の人事戦略の設計等を行い、CHROは経営者レベルで人事マネジメントを取り仕切る、というイメージです。
HRBPに必要な能力
人事戦略において重要な役割を果たすHRBPには、どのような能力が必要なのでしょうか。主に3つの能力について取り上げます。
- ビジネスパーソンとしての視点
- 人事マネジメントに関するスキル
- コミュニケーション能力
ビジネスパーソンとしての視点
HRBPは単なる人事担当者ではなく、経営層と直にやり取りを行ない、対等な立場で経営改革を先導します。当然、人事の知識だけでなく、経営やビジネスに関する視点が欠かせません。
例えば、新しい市場に参入する際の市場調査や多方面からの情報収集は必須と言えるでしょう。また、変化の速い社会に対応するための方針転換や改善点の抽出など、経営者のパートナーとして俯瞰的に物事を解析するスキルが必要です。
人事マネジメントに関するスキル
HRBPは人事の観点から経営戦略を展開するので、人事マネジメントに関するスキルが必要です。従来の労務や法律関係の知識だけでなく、人材の能力やタレント力を見抜き、個々の能力を引き延ばすノウハウも求められています。
ヘッドハンティングなど他から人材を補充するだけでなく、経営改革の旗振り役としてリーダーシップを発揮し、次世代のリーダーを育成することもHRBPに必要な能力です。
コミュニケーション能力
HRBPは実際に現場に足を運び、従業員の声を聞き、抱えている問題の解決策を探ります。経営層に近い存在でありながら、「困ったときは相談してみよう」と思われる存在になることが理想です。
トップダウンの風習が強い日本企業では、従業員の本当の声を汲み上げるには、日ごろからコミュニケーションを図り、現場からの信頼を勝ち得ることが必要です。HRBPには、高いレベルでのコミュニケーション能力が求められます。
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HRBPの導入事例
国内の大手企業もHRBPの導入を始めています。いくつかご紹介します。
ジョンソン・エンド・ジョンソン
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、人事スタッフやビジネスユニットHRマネージャーの経験を持つ西川 絵里氏をHRBPに任命し、社員一人ひとりと向き合った人事マネジメントを展開しています。
西川氏は、HRBPとして、後継者の育成や働きやすい職場環境の構築、組織カルチャーの改変などに関して、課題設定やプランニング、実践までを担っています。
結果として在宅勤務の導入など、優秀な人材が自分らしく働き続けることが可能な会社に成長しています。
タペストリー・ジャパン合同会社(旧:コーチ・ジャパン合同会社)
「HRBPに必要なのはビジネスを理解する力」。そう語るのは、タペストリー・ジャパン合同会社のHRBP、山下 美砂氏です。HRBPとして積極的に経営陣とコミュニケーションを図り、組織や人材の見直しを行っています。
結果として、経営目標を達成するために必要なことが明確になり、移り変りの速い時代の中でも、フレキシブルに対応できる組織改革・人材改革が可能になっています。
まとめ
本稿では、HRBPとは何かについて解説しました。
HRBPとは、経営者や事業責任者のビジネスパートナーとして、事業成長をサポートする人事のプロフェッショナルのことです。経営陣と同じ視点・考え方を持ち戦略人事を展開するにあたり重要なポジションとなります。
HRBPが注目されている理由は以下の通りです。
- 戦略人事の重要性が高まっている
- 経営目標を達成するための人事が必要
- 労働人口が低下する市場で優秀な人材の確保
戦略人事の導入や外国人材の流入による労働市場の変化など、昨今の日本の企業が抱える問題を解決する手段の一つとしてHRBPが注目されています。
HRBPには以下のような役割があります。
- 人事戦略の設計
- 従業員への情報伝達
- 現場の声を経営陣へ届ける
人事戦略の企画・設計や従業員と役員陣との橋渡しなど、HRBPには大きな責任が委ねられています。
HRBPには以下のような能力が求められます。
- ビジネスパーソンとしての視点
- 人事マネジメントに関するスキル
- コミュニケーション能力
HRBPは単なる人事担当者ではないので、経営者としての視点が不可欠です。さらに、高いコミュニケーション能力も重要です。
経営目標を達成して、会社を成長させるためには、戦略的な視点が不可欠です。企業利益の根幹ともいえる「ヒト」をどのようにマネジメントするかは重要な課題となります。
効果的な人事マネジメントやグローバル化にも対応できる攻めの人事を展開するにあたり、HRBPは重要な役割を果たします。ご自身の会社でも、HRBPの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
[1] HR総研 人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】人事の機能は「管理部門」から「戦略パートナー」に
[2] HR総研 人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】「戦略人事」の重要性を認識するも、機能していない現実
参考)
HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】人事の機能は「管理部門」から「戦略パートナー」に
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=232
ISS Consulting: ビジネスをドライブする「HRビジネスパートナー」 Vol.5
https://www.isssc.com/special/interview/hr/hrbp/3689
人材・組織システム研究室: HRBPとして重要なことは、ビジネスを理解して、コモンゴールを共有すること
https://www.jinzai-soshiki.com/archives/jinji/21hrbp.html#:~:text=
SELECK: 人事とは経営である。DeNAとGAのHRBPが語る、本質的な人事の在り方
https://seleck.cc/1377#:~:text=