DX人材とは?「スキルマップ」で全社的なリスキリングを促進
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「DX人材の確保や育成は、情報システム部門以外も対象になるのか?」
ここ数年、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の波は大きくなる一方です。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査[1]によれば、日本におけるDXの取り組みは従業員数が多い企業ほど進んでおり、従業員1001人以上の調査対象企業の94.8%がDXに着手しています。
しかし内訳を見ると、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」(50%)、「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」(30.5%)、「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」(14.3%)となっています。全従業員を対象にしたDXに取り組む企業は半数にとどまっているといえるでしょう。
組織のDX化は、IT(情報技術)に強い人材のみの職責と捉えられがちですが、DX化はIT化とはまったく別のものです。DX推進において、企業は従業員全体でリスキリングを促進していかなければなりません。
この記事では経済産業省の「デジタルスキル標準」に基づき、DX人材として専門職やそれ以外の従業員に求められる能力やスキルを解説します。またこうした人材を確保・育成する手段として「スキルマップ」を紹介します。最後にDX人材マネジメントの成功事例にも触れますので、ぜひ参考にしてみてください。
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1. DX推進において求められる人材像
まずIT化とDX化の違いを理解し、DX推進に必要な人材像をつかんでいきます。
1-1.IT化の対象は一部の人材、DX化の対象は全ての人材
ビジネス分野におけるデジタル技術やデータ活用が進むにつれ、企業では情報技術に精通する専門職としてIT人材が必要とされるようになりました。IT化とはこうした人材が情報システムの運営管理を担い、業務の効率化や省力化を目指すことを指します。
このようにIT化の目的が既存業務の改善である一方で、DX化は抜本的な組織変革です。
DX(Digital Transformation)の“Transformation”とは「改革、変革」という意味であり、「デジタルトランスフォーメーション」とは「デジタル技術によって生活やビジネスに革新を起こすこと」です。単なる業務改善にとどまらず新たなビジネスモデルの構築を企図しています。
組織構造や企業文化を改革し、ビジネスのあり方そのものを変えていくことを構想するDXの目的は、デジタルの力でこれまでにはなかった価値を見出し、新収益の創出を目指すことです。ここで主体となるのは、IT人材だけではありません。
全従業員がそれぞれの立場においてリスキリングを進め、DX人材として変革を起こすことが求められます。
関連 ▶ DX時代を生き抜く組織デザインとは?人材の確保・育成のための設計戦略(弊社ブログサイトへ移動します)
1-2. DX推進の方針を定め、求める人材像を明確化する
では、全社的にDXを進めるための人材確保や育成はどのように取り組めばいいのでしょうか。
ここで強調しておきたいのは、DX推進の方針と人材育成は表裏一体であるということです。企業として「何のためのDXか」を確実に定めることが、求める人材像を明確化することにつながっていきます。
具体的には自社の戦略ビジョンに沿い、デジタル技術によって何を変革していくのかをはっきりさせるということです。例えば製造業が既存製品に付加価値を付けることを目指すならば、生産プロセスの改善にとどまらずまったく異なるビジネスを生み出すためのデータ活用などが考えられます。
こうした変革を起こすためには、部門横断的に戦略ビジョンを共有し、全ての従業員がDX化を自分事として捉える必要があります。
企業としてのデジタル戦略を明らかにして求める人材像が定まれば、業務ごとに必要なスキルを定義し、適した人材をアサインできるようになります。そのための人材開発ツールとして、業務に必要なスキルを整理して可視化した「スキルマップ」が有効です。
1-3.東京都の人材育成方針と「デジタルスキルマップ」
東京都の取り組みは、DX戦略と人材育成方針をリンクさせて「スキルマップ」を活用している好事例として挙げられます。
東京都が戦略ビジョンとして掲げているのは、「デジタルの力でオール東京の行政課題の解決を図る」です。この意思と能力を有する「デジタル人材」の確保・育成を推進しており、都のデジタルサービス局と一般財団法人GovTech東京(2023年事業開始)が協働して都政のDX推進を担っています。
東京都がまずDXをけん引する専門職として確保・育成しているのは「ICT職」です。また一般の事務職などの職員もリスキリングを進めてデジタル技術に関する理解を深め、さらには各職場から「DXアンバサダー」を原則1人ずつ任命し業務改善を行っていきます。
出典:東京都デジタルサービス局「東京都デジタル人材確保・育成基本方針ver.2.0」, 2024年3月29日公表, P7, https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/digitalservice/jinzai002_3(閲覧日:2024年4月18日)
この中で、DX推進をリードするICT職のスキル項目やスキルレベルを可視化しているのが「デジタルスキルマップ」です。東京都では10個のジョブタイプに対して22のスキル項目と4段階のレベルを設定しています。各局の業務で求められるスキルと個人が保持するスキルを比較することで、過不足の把握が可能となります。
出典:東京都デジタルサービス局「東京都デジタル人材確保・育成基本方針ver.2.0」, 2024年3月29日公表, P13 , https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/digitalservice/jinzai002_3(閲覧日:2024年4月18日)
このようにDXスキルの需給状況が把握できれば、ICT職の能力開発や教育研修の策定が可能です。東京都では今後「DXアンバサダー」のツール活用に関するスキルも加えるなど、「デジタルスキルマップ」の指標や対象者の追加を検討しています。
東京都は今後も「デジタルスキルマップ」を更新しながら、都政の課題解決や新たなニーズ対応に向けて適材適所の配置やタレントマネジメントを進めていく方針です。この取り組みの進捗は、DX人材の確保・育成を考える企業にとって有益な情報となるでしょう。
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2. 経済産業省の「デジタルスキル標準」とは?
全社的なDX推進の掛け声が上がったらまず知っておきたいのが、経済産業省の「デジタルスキル標準」(2022年公表)です。ここではその概要を説明します。
2-1.DX人材のスキルマップとして「デジタルスキル標準」を活用
世界のデジタル競争力において過去最低を更新する日本[2]は、国家レベルの重点課題としてデジタル人材の確保・育成に取り組んでおり、2026年度までにデジタル推進人材を230万人育成する[3]という目標を掲げています。
その具体的な施策として設定されたのが「デジタルスキル標準」です。この基準は2種類で構成され、経営層から一人一人の従業員に至る全ての組織人に求められるDXの知識やマインド、スキルの指針を明確にしています。それぞれの定義は以下のとおりです。
DXリテラシー標準:全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルの標準[4]
DX推進スキル標準: DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準[5]
ここで扱われる知識やスキルはさまざまな企業や組織で転用できるよう、汎用性を持たせています。企業が自社のデジタル戦略に合わせて求める人材を明確化し、スキルを可視化する「スキルマップ」のスキル項目として活用できるものです。
この後、それぞれの内容について解説していきます。
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2-2. DXリテラシー標準:全てのビジネスパーソンが対象
社会やビジネスの環境変化を受容し、新たな技術にアンテナを張って調べようとするスキルやマインドは、DX化を目指す組織の経営層や従業員全てに求められるものです。
これらを策定した「DXリテラシー標準」は、DXの背景である「Why」、DXで活用されるデータ・技術としての「What」、データや技術の利活用に関する「How」、これらを総合して新たな価値を生み出す意識・姿勢・行動を定めた「マインド・スタンス」によって構成されています。
出典:独立行政法人情報処理推進機構, 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.1」, P17, 2023年8月公表, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/20230807001-e-1.pdf(閲覧日:2024年4月18日)
「DXリテラシー標準」では各スキル項目についての内容や行動例・学習項目例などが示されており、おのおのの立場から自身の行動の振り返りや知識を深めることを促します。
出典:独立行政法人情報処理推進機構, 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.1」, P23, 2023年8月公表, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/20230807001-e-1.pdf(閲覧日:2024年4月18日)
「DXリテラシー標準」は部署や年代を問わずDXに関するリテラシーを身に付けることで、一人一人がDXを自分事として捉え、リスキリングを促進することを目指しています。
2-3. DX推進スキル標準:DXをリードする人材が対象
組織メンバーの一人一人がリテラシーを身に付けると同時に、DXをリードする専門職が必要不可欠です。とはいえやみくもに人材を集めたりスキルの習得を促したりしても、適切なデジタル技術の運用にはつながりません。
自社のデジタル戦略の実現に向けてどのように専門職人材を確保・育成していくのか、その指針を設定する上で役立つのが「DX推進スキル標準」です。
「DX推進スキル標準」は、「ビジネスアーキテクト」「デザイナー」「データサイエンティスト」「ソフトウェアエンジニア」「サイバーセキュリティ」の五つの類型によって定義されています。五つの類型間で連携し、協働関係を構築しながら全社的なDX推進を担っていきます。
出典:独立行政法人情報処理推進機構, 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.1」, P69, 2023年8月公表, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/20230807001-d-1.pdf(閲覧日:2024年4月18日)
さらに、五つの類型内では、活動する場面や役割ごとに2~4のロールが設定されています。
独立行政法人情報処理推進機構, 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.1」, P67, 2023年8月公表, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/20230807001-d-1.pdf(閲覧日:2024年4月18日)を基に編集部にて作成
「DX推進スキル標準」では、各ロールがDX推進において担う責任や主な業務を提示した上で、その職責に求められるスキル項目が明示されています。
ここで注目したいのが、各ロールによって異なる重要度です。共通スキルリストの各項目に、そのロールにおける重要度が明記されており、スキルの優先順位が一目で分かるようになっています。
独立行政法人情報処理推進機構, 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.1」, P87, 2023年8月公表, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/20230807001-d-1.pdf(閲覧日:2024年4月18日)を基に編集部にて作成
「デジタルスキル標準」によってDX人材に求められる知識やスキルの具体性が増せば、自社の戦略ビジョンに沿った人材像が見えやすくなり、人材育成計画や組織のDX化に向けた体制づくりにも役立てることができます。
ここまで概説した「デジタルスキル標準」は142ページの資料であり、一つ一つのスキル項目や学習項目例、各人材類型について詳細に説明されています。これらを参考にしながら、自社の状況に合わせたDX人材の確保・育成を行うために「スキルマップ」を活用するのも良い方法です。
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3. 「スキルマップ」をDX人材の確保・育成に生かす
「スキルマップ」は、従業員に必要なスキルと達成レベルを一覧にしたものです。DX推進のための人材開発ツールとして、「スキルマップ」がどのように活用できるか見ていきましょう。
3-1.職種に応じたDXスキルを「スキルマップ」で可視化
IT化とは根本的に異なるDX化に向けた人材開発は、これまでのようにIT人材のみを対象として進めることはできません。DXは組織としての継続的なプロセスであり、一つ一つのシステム開発のように明確な工程やゴール、責任分担が決められるものではないからです。
さまざまな職種が協働するDXは部門横断的な取り組みであることから、全社的なバランスを見ながら職種ごとに求められる能力やスキルを整理する必要があります。したがって、スキルを可視化して管理できる「スキルマップ」が力を発揮するツールとなります。
まずは自社のデジタル戦略に基づき、スキル管理の目的や対象を明確にします。その上で「デジタルスキル標準」を共通言語とし、非IT人材は基本的なDXリテラシー、IT人材はDXのための専門スキルなどを定めて「スキルマップ」で可視化していきましょう。
スキルマップの作成は人事部門が指揮を執り、部門管理者と対話をしながら進めていくことが大切です。現場とうまく情報共有することで「スキルマップ」の導入がスムーズになるだけでなく、一人一人がDXを自分事として捉えることにもつながります。
3-2. DX人材の育成に学習管理システム(LMS)を活用
DX人材の育成を目的として「スキルマップ」の導入を検討する際、スキル管理機能を備えた学習管理システム(Learning Management System:LMS)は利便性が高いツールです。
LMSはeラーニングやオンライン研修などを実施する際のプラットフォームとなるシステムです。当社の「CAREERSHIP」にように「スキルマップ」機能を持つLMSであれば、職種やポジションごとに必要とされるスキルをマトリクス表示し、必要な学習教材や資料などの情報を簡単にひも付けることができます。
スキル項目は「デジタルスキル標準」を参考にしながら、求められる能力を言語化して「スキルマップ」上に表示できます。オンラインシステムのLMSは管理設定がしやすく、DX推進プロセスにおいて必要なスキルの追加や、それにひも付く学習コンテンツを追加することにも手間がかかりません。
また対象となる従業員の学習管理を一括で行うことができるため、部門横断的なDX推進プロセスにおいて必要なスキルや能力の調整ニーズにも即応できます。
さらには組織として不足しているスキルも一目で確認できるため、DX人材の確保や育成の方針を立てる上でリアルタイムの情報収集ができることは大きなメリットとなるでしょう。
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3-3. eラーニングコンテンツの有効活用
DXリテラシーにおいても専門スキルにおいても、机上で知識として学べる項目は多くあり、eラーンニングコンテンツを活用すれば個々のペースで学習が進められます。
LMSの「スキルマップ」機能にひも付ければ、職種や状況に応じて求められる学習項目が明示され、必要なときすぐに学ぶことができます。また上司や関係者と学習の進捗を共有することも可能です。
昨今ではeラーニング教材が充実しており、DXそのものに関する知識、現代のデジタル技術やデータ分析、各種試験対策など、さまざまなニーズに対応しています。外部コンテンツへのひも付けも可能なLMSならば、幅広い選択肢の中から必要な学習教材を選ぶこともできるでしょう。
DX人材育成に役立つ教材を幅広くラインナップ ⇒ eラーニング教材「IT研修/DX研修」を詳しく見る(弊社eラーニング教材サイトへ移動します)
4. DX人材マネジメントの企業事例
最後に、DX人材マネジメントの成功事例を三つ紹介します。
4-1.株式会社イトーキ
1890年創業の老舗オフィスメーカーであるイトーキは、「明日の『働く」を、デザインする。」をビジョンとして掲げています。コロナ禍をはじめとする社会環境の大きな変化の中で、オフィスデザインにおいてもデジタル技術を使った変革が求められ、会社としてDXの方針を明確化しました。
同社は2022年1月にDX推進本部を設立し、社内DXと社外DXに対応する部門横断的な取り組みを開始しています。DX人材の育成に関しては「デジタル企画推進チーム」が学びの場のデザインやコンテンツの企画を担っています。
「デジタル企画推進チーム」が重視したのは、従業員が自分事として捉えるためにまず「やってみる」ということ。経産省の「デジタルスキル標準」を参照し、人材の類型化から着手しました。
オフィスデザインを手がけるイトーキには、ビジネスアーキテクトやデザイナーという要素になじみがあり、当てはまる人材のモデルを拾ってアレンジしています。また細かいスキル項目の中から従業員が興味を持ちそうなことを選んで組み立てる工夫をしており、学びのコンテンツの評判は上々です。
4-2.双日株式会社
総合商社である双日は「社会が得る価値・双日が得る価値」という二つの価値を考え、データやデジタルの活用を通じてマーケットニーズや社会課題にいち早く対応することを目指しています。
その具体的な戦略として明確化されたのが、デジタル技術の実装による価値の向上と創造、そしてこれらを手がけるデジタル人材の育成です。特に人材育成においては、入門(全社員対象)、基礎(総合職対象)、応用編(応用基礎、エキスパート、ソートリーダー)の5段階を設置。応用編ではデータ分析とビジネスデザインという二つのスキル分野を定義して、おのおののスキルを高める工夫をしています。
組織の機能としては、2021年4月に設置したDX推進委員会で社長自ら委員長を兼任。経営陣が活発な議論を交わし、迅速な意思決定と強い推進力を発揮しています。またCDO兼CIOの下に集結させたDXやITに関する機能や人材によって、各種システム開発の維持向上、機動的な人材配置の実践などを行っています。
双日が目指す「事業や人材を創造し続ける総合商社」を実現する鍵になるのは、DXスキルの習得と実業でのデジタル活用の両軸であるといえるでしょう。
4-3. 株式会社フジワラテクノアート
フジワラテクノアートは、清酒やしょうゆなどの醸造設備を受注生産する機械メーカーであり、全自動製麹(せいぎく)装置の国内シェア8割を占めています。
中小企業がDXに苦慮する一因として挙げられるのは、デジタル導入に意識が向きすぎて変革の本質を見失うことです。しかし同社は従業員とビジョンを共有してデジタル化の成果を上げたことから、経産省による中堅・中小企業等の優良事例「DXセレクション2023」で最上位のグランプリを獲得しました。
同社は2018年、2050年の未来を描いた開発ビジョンとして「醸造を原点に、世界で『微生物インダストリー』を共創する企業」を策定。2019年に「業務インフラ刷新委員会」(2022年に「DX推進委員会」に変更)を発足し、全部門から改革意欲のある30代、40代の従業員を集めて各部署を巻き込みながら、課題を収集しました。
現場との根強い対話と配慮で短期間に多くのシステムツールの導入を実現させ、社員一人一人がDXを自分事化できたことでIT専門職の育成も進んでいます。結果として原価や進捗のリアルタイムの可視化や作業工数・リードタイムの削減など、多くの成果を生んでいます。
5. まとめ
DX化(デジタルトランスフォーメーション)は既存業務の改善を目的とするIT化とは異なる抜本的な組織変革です。情報技術に精通するIT人材だけでなく、全従業員がDX人材としてリスキリングを進め、変革を起こすことが求められます。
DX推進の方針と人材育成は表裏一体であり、企業はまずデジタル技術によって何を変革していくのかを明確にします。このビジョンを全ての従業員が共有し、一人一人がDX化を自分事として捉えることが大切です。
東京都は戦略ビジョンとして「デジタルの力でオール東京の行政課題の解決を図る」を掲げ、ICT職のスキル項目やスキルレベルを「デジタルスキルマップ」によって可視化しています。DX人材マネジメントに「スキルマップ」を使っている好事例です。
経済産業省の「デジタルスキル標準」(2022年公表)は、DX人材のスキル管理に役立つ公的な基準です。
「DXリテラシー標準」(全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルの標準)と「DX推進スキル標準」(DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準)の2種類から構成されており、それぞれの概要を解説しました。
DX推進において、全社的なバランスを見ながら職種ごとに求められる能力やスキルを可視化するためには、スキルを一元管理できる「スキルマップ」が有効なツールです。
スキル管理機能を備えた学習管理システム(Learning Management System:LMS)であれば、「スキルマップ」を使って必要な学習教材や資料、リンクなどの情報を簡単にひも付けることができます。
LMSを使えばさまざまなニーズに対応するeラーニング教材も有効活用でき、外部コンテンツへのひも付けも可能な場合もあります。
最後に、DX人材マネジメントの成功事例として、(株)イトーキ、双日(株)、(株)フジワラテクノアートの取り組みを紹介しました。
DX推進はどの企業にとっても差し迫った課題です。人事部門がDX人材の確保、育成を求められるケースは今後ますます増えていくでしょう。何から始めれば良いかわからず悩む皆さまに、本稿が少しでもお役に立てば幸いです。
[1] 独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2023 エグゼクティブサマリー」, 2023年3月16日公表, P9, https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108048.pdf(閲覧日:2024年4月18日)
[2] International Institute for Management Development「2023年世界デジタル競争力ランキング 日本は総合32位、過去最低を更新」, https://www.imd.org/news/world_digital_competitiveness_ranking_202311/ (閲覧日:2024年4月18日)
[3] 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「デジタル人材の育成・確保」, https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/about/digital-resources.html(閲覧日:2024年4月18日)
[4] 経済産業省「デジタルスキル標準」, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/main.html(閲覧日:2024年4月18日)
[5] 経済産業省「デジタルスキル標準」, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/main.html(閲覧日:2024年4月18日)
参考)
経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0 」, 2022 年 9 ⽉ 13 ⽇公表, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf(閲覧日:2024年4月18日)
DX SQUEARE 「DXを推進するために必要なスキルとは 「人材」を「人財」として捉える株式会社イトーキのDX人財育成方法」, 2024年2月29日公表, https://dx.ipa.go.jp/interview-itoki(閲覧日:2024年4月18日)
経済産業省, 株式会社東京証券取引所, 独立行政法人情報処理推進機構「デジタルトランスフォーメーション銘柄2023」, 2023年5月31日公表, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/dxstockreport-2023.pdf(閲覧日:2024年4月18日)
J-Net21「ビジョン共有で納得感のあるデジタル化を推進【株式会社フジワラテクノアート(岡山県岡山市)】」, 2023年 7月 3日公表, https://j-net21.smrj.go.jp/special/dx/20230703.html(閲覧日:2024年4月18日)